パート6:認め(1)
ジェネラルウルフ討伐戦が終わった後、テオはビルト小隊とともにティシス討伐会社に戻ることにした。その前にティアにも連絡したが、小隊員を連れて別途帰還するので先に帰てくださいって返信を受けた。
それでゆっくり帰る途中、ビルトはまずこの任務について言い出した。
「まだどの程度かは定かではないが、この程度なら検証するという目的は確実に成し遂げたようだな」
「そう? じゃあ、俺は合格かな?」
「まぁ、別に合格とか決めるわけではなかった。それでもやはり平凡な小隊長以上の人材であることは確かだ。〝ブラケニア〟としてはよく分からないがな」
「よく分からない? どういう意味?」
「確かにアンタは強い。でも今日見せた程度は〝ブラケニア〟ではなくても、ちょっと強い転生者程度なら十分に可能な程度だった。もちろん、そのぐらいでもこの国には必ず必要な戦力ではあるがな」
テオはふと気になった。
〝ブラケニア〟達が具体的にどれだけ強いのかは分からないが、せめて今日見たジェネラルウルフはテオが全力を尽くさなければならないほどではなかった。正直、その気になれば〈術法:臨時創造〉で作り上げた魔法具だけでも全部討伐できるほどだった。
だからこそ、この作戦そのものが少し変だった。その程度の敵を相手に〝ブラケニア〟であるティアが組み込まれた合同作戦になったのも、その作戦で新入りのテオについて調べるってことも。
実際にその件を聞いてみると、ビルトは苦笑した。
「多分ティア小隊長は最初から戦闘に参戦する気がなかったんだろう。そもそもティア小隊長が本気だったとしたら、俺が到着する前にもう終わったはずだ。ジェネラルウルフは手下を呼ぶ前に一撃で両断しただろう。たとえ手下が集まったとしても、平気な顔で皆殺しにしても残るほど強い」
「ところで何故あえてこんな作戦を?」
「……見当がつくのはあるが、ティア小隊長に直接聞いた方がよさそうだ。それよりアンタの去就についてだが……一つ聞いてみるが」
ビルトは真剣な顔でテオを見た。
「アンタはどうだ? ぜひティア小隊に残りたいのか?」
「……さぁね。率直に言えば別にどうでもいいよ。ティアとは親交があるけど、だからといって必ずしも同じ小隊にならなければならないわけではないから。他の小隊だからといって親交がなくなるわけでもないし」
「意外に淡々としているな」
「そういう性格だからさ」
「そうか。……正直に言うと、俺はやはりアンタが他の小隊に独立した方が良いと思う。強い者を一小隊に縛って一緒に動かすより、分散した方が色々いい。業務負担を分ける側面でもな」
――正直俺も同感だよ。
テオがティア小隊に所属したらどうなるだろうか。ティア小隊の戦力は確実に上がるだろう。だがティア小隊の戦力はティア1人だけでも十分だ。そんな状況で小隊の戦力がさらに増えたところで意味がない。
だがティアのような〝ブラケニア〟が他の小隊にも存在したら? 一般的な小隊には困難な任務を担う小隊がもう1つできる。そうなればティアの負担は確実に減るだろう。
もちろん、実際にティアの負担が現在どれぐらいかは分からない。もしかすると、あえて戦力を分散する必要がないかも知れない。だがこの国を狙う国が多い以上、いつ何が起こるか分からない。
実際、テオがこの国に残る必要はない。冷静に言えばティアともせいぜい会ってから間もないだけで、幾多の転生者の中で彼女だけ偏愛する理由はほとんどない。
だが。
――告白してくれた子を放っておいて離れるのは後味がよくないからね。その気持ちに答えてくれるかどうかは俺も分からないけど。
テオは独りで苦笑してしまった。
***
「……そんな話をされましたね」
テオからビルトとの対話をすべて伝え聞いた後、ティアは最初にそう言った。
ティアの表情はあまり明るくなかったが、だからといって不満や怒りをうかがわせる表情ではなかった。あえて言うなら、何か諦めたような表情だろうか。
「まぁ……正直予想はしていました。客観的に見てもそれがより良い方針でもあるし。正直に言って、私は小隊員なしに1人で通ってもいいくらいですから。この国を狙う敵国さえなければ、私は存在自体がこの国にとって過剰戦力ですからね」
「堂々としてるね」
「否定したところで意味がないですから」
さすがにその言葉が空言ではないように、ティアはどうやら納得した様子だった。
しかし、テオにはまだ聞きたいことがあった。
「ところでお前、わざわざ俺だけビルト小隊の方に送ったんだね?」
「あれ、バレました?」
――何食わぬ顔をしないね。
「たった今、私が堂々としていて呆れたと思いましたよね?」
「いや、まぁ……」
「ふふっ。まぁ、そもそも私の目的はテオさんの入社を成功させることでしたから。そんな面でビルト小隊長の提案は時宜を得たものでした。……少し気持ちは悪かったけど、無愛想なだけでいい人だって分かるから」
「随分信じてるね」
「あれ、やきもち?」
「ただ驚いただけだよ」
「そんなにきっぱり否定してしまったら私傷つくんですよ」
ティアは爪の垢ほども傷ついていない顔でそう言いながら舌を出した。
「ところで、何故俺だけ1人で送った?」
「そっちが一番効果的でしたからね」
「それも加護が教えてくれた?」
「はい。私の加護は私が望むことを叶える為の最も良い道をいつも提示しますから」
こんな微妙な人間関係や認識の領域にまで適用されるなんて。単なる戦闘力とは異なる意味ですごい力だ。ティアがもっと自己中心的な人だったら、恐らく今頃問題が起こっただろう。
そんな能力を持ったティアなら、もしかしたらジェネラルウルフ討伐戦で感じた違和感の正体が分かるかも知れない。
「ティア。聞きたいことがあるんだけど」
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