パート5:協力(5)
テオは空き地の外に意識を向けた。
――空き地内にいたアーマードウルフは殲滅したが、やはり外から集まってくる奴らはまだ多い。
頭数で見ると、たった今殲滅した奴らよりも外から来ている奴らの方が多い。もちろんそれらが全部いっぺんに突入してくるわけではないが、放っておけば良くはないだろう。
テオは素早く判断を下し、収納の術法の術式陣を展開した。そこからテオ自身の拳と似た大きさの青い玉が出てきた。それはテオの頭の後ろに空中に浮かんで魔力を吹き出した。
その瞬間、青い結界が空き地全体を包み込んだ。それは押し寄せるアーマードウルフを阻止はしなかった。しかし結界に入った瞬間、アーマードウルフの勢いが目に見えて弱くなった。
――戦場掌握型の結界生成器『王の宝玉』。上手く動作するみたいだね。
創造術師の真の姿は直接戦うよりも、有用な魔法具を作って活用すること。そしてその創造の出力と精巧さは、術師の実力と作業時間に比例する。
テオは創造神だから、その実力は格が違う。一般的な創造術師なら数日ぶっ通しでやっと作り出せるくらいの物でも、テオが試せば瞬間に完成できる。だがそんな出力と精密性を持ったテオであっても、創造にかかった時間が性能と比例するという大原則は同じく適用される。
つまり、その場で作り出すことよりも、予め作っておいた方がもっと強力だ。
その中でも『王の宝玉』は広域結界を展開し、結界内の環境を支配する魔法具だ。今はオオカミ型の魔物、つまりアーマードウルフを弱める結界として設定した。
でも範囲が広すぎるせいか、アーマードウルフは弱くなってもなお動いていた。ジェネラルウルフに至ってはほとんど効果がない。
――まだ改良がもっと必要なようだね。それでも今は十分だ。
もう一度収納の術法を展開してまた別の魔法具を取り出した。長さがテオの腕ほどの短くて小さい短槍だった。
そこに魔力をこめて指を弾くと、短槍は矢のように飛び、アーマードウルフを突き抜けた。そして空中で何度も方向を変えながらアーマードウルフを容赦なく虐殺し始めた。
――自律機動型の対軍攻撃槍『悪魔の翼』。弱い集団を相手にしては確かに効率的だね。でも今の威力ではジェネラルウルフの甲殻を破るには微妙なのか。
冷静に性能を評価しつつも、周辺を警戒することは忘れなかった。もちろん、そうだとしてもアーマードウルフは今解放した2つの魔法具だけでも十分なレベルだったが。
それでテオはアーマードウルフではなく、ビルト小隊とジェネラルウルフの方に目線を向けた。
***
「ぐるゎあっ……!」
言葉が通じない獣でも、今のジェネラルウルフがどんな感情を感じているかは感じられた。
分かりやすい怒りと戸惑い。それはジェネラルウルフがこの戦いで希望を見出せずにいるというシグナルでもあるだろう。
ビルトはそれを感じながらも、依然としてジェネラルウルフの突発行動を警戒していた。
もちろん、奴を攻撃することとは別の話。
「はあああ!」
ビルトのアッパーカットはジェネラルウルフの顎に炸裂した。奴の体が宙に浮いたし、奴の腹部に小隊員の砲弾が次々と炸裂した。気の抜けるようなかすかな悲鳴とともにジェネラルウルフがひっくり返った。
しかし、ジェネラルウルフの口にはすでに魔力が集まっていた。
――まさかわざと防御を諦めて魔力を溜めたのか!?
ビルトが突撃するよりも、ジェネラルウルフが顔を上げて音波砲を撃った方が早かった。
「く……っ!」
ビルトは体の中がジリジリと響くような感覚で歯を食いしばった。食いしばった歯の間から血が流れた。
――やはり音波という特性のせい、完全に防ぐことは不可能か。
ビルトが暫く躊躇した間、ジェネラルウルフが魔力をより引き上げた。今度は奴の甲殻がかすかに光り始めた。経歴の長いビルトさえも初めて見る現象だった。
「隊長! あれ……!」
「俺も見ている! ずっと作戦通りにしろ! 前は俺が受け持つ!」
ビルトは勢いよく地面を蹴った。それと同時にジェネラルウルフも彼に向かって突撃し始めた。
さっきよりずっと速い速度で。
「!?」
ビルトの予想より早く近づいた為、対応が遅れた。奴の前足がビルトの頭を狙った。ビルトは辛うじて受け流したが、思ったより強い力のせいで姿勢が崩れてしまった。
――奴の力強くなったか!? いや、これは……。
噛みちぎろうとする頭を辛うじて避け、奴の側頭に向かって拳を振り回した。ドーンと重い音とともに、拳が頭にしっかり命中した。だがこれまでより効果が弱かった。
その時になってビルトはどうなっているかを悟った。
――こいつ、自分自身を強化したな。
ジェネラルウルフの固有能力、アーマードウルフの強化。親分としてのその力を自分自身に使ったのだ。
ジェネラルウルフはアーマードウルフの進化体であるだけに、本質的には同じ系統だ。アーマードウルフに使える能力なら、ジェネラルウルフ自身にも通じるだろう。甲殻がかすかに光るのは恐らく、手下に分配していた力を自分自身にだけ完全に集中することで強化が一層強くなったからだろう。
――こんな風に活用する奴は初めて見るがな!
「最終プランでいくぞ! 準備しろ!」
そう叫んだ後、ビルトは残りの魔力のほとんどを燃やして自分を強化した。ジェネラルウルフもその勢いを感じたかのように、再び吠えた。
――両方とも、すでにかなり疲れている。これで決着をつける!
ビルトとジェネラルウルフは同時に互いに向かって突き進み始めた。
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