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パート5:協力(4)

パート5のタイトルを〝競争〟から〝協力〟に変更しました。混乱をおかけして申し訳ありません。

 まるで物理的な実体があると錯覚するほどの音波砲が、破壊の怒涛となってビルトを飲み込んだ。


 その広範囲な破壊はビルト周辺の土地はもちろん、空き地の外の森にまで影響を及ぼした。その破壊に直撃されたのは岩なり木なり関係なく全部粉になって散らばった。


 その破壊の現場の真ん中で、ビルトは両足でしっかりと立ちはだかっていた。


「……やらかしてくれたな……」


 ぺっ、と吐き出された唾。そこには赤い血が混じっていたが、ビルトの眼差しは依然として生きていた。


 ビルトの状態は正常ではなかった。盾に使われた岩剣は完全に破壊され、ビルト自身も全身から血を流していた。〈仙法:岩巨人の威容〉の力もかなり衰えた。


 しかし彼の傷は数が多いだけで、全部浅かった。唾に混じった血も顔からこぼれた血が唇に触れただけだった。岩剣の犠牲と〈仙法:岩巨人の威容〉の防御力のおかげだった。


 ビルトは目線をそらして小隊員の状態をチェックした。音波砲の範囲にかけてのせいで、彼らを守る岩壁が破壊された。でも小隊員を直撃することはなかった。さらに彼らの周辺にいたアーマードウルフまで音波砲の影響に巻き込まれて死んでしまったおかげで、再整備する余裕はあった。


 ――状況は悪くなったが、まだ最悪ではない。


 ビルトは〈仙法:岩巨人の威容〉を復元した。だが魔力の消耗が思ったより大きかった。岩剣……〈術法:岩剣錬成〉を使うには余裕がなかった。使用自体は可能だが、ジェネラルウルフに通じるほどの強度にするには、魔力の消耗が大きすぎるから。


 ――方針を変える。


 素早く決定を下し、ビルトはジェネラルウルフに大きく跳躍した。


 飛び付くアーマードウルフ達。だがそれらは体でビルトを押さえつけて身動きを妨げるだけで、ビルトの防御力を破れない。


 ビルトは〈闘法:崩岩撃〉でアーマードウルフを滅多矢鱈に吹き飛ばし、ジェネラルウルフにまっすぐ突進した。


「キャオーーぐっ!?」


「はあっ!」


 ジェネラルウルフが再び音波砲を発射しようとしたが、その直前にビルトは奴の顎を蹴った。音波砲の照準が外れた。少しビルトの肩に触れたものの、魔力をまともに集めることができなかった音波砲では彼の防御力を突き破れない。


「しっかりかかってこい!!」


 ビルトは魔力を乗せた咆哮でジェネラルウルフを威嚇しながら、再び奴に飛びついて攻撃を仕掛けた。


 顎、頭頂部、胸板、足、脇腹。ビルトの拳と足が夢中で降り注ぎ、打撃の瞬間に正確に爆発する魔力が甲殻にダメージを累積させた。ジェネラルウルフも前足や歯でビルトを攻撃しながら対抗したが、ビルトはその全部を避けたり受け流したりをして攻撃を続けた。


「グル……! ギャオオ!」


 ジェネラルウルフが吠えた瞬間、周辺のアーマードウルフの動きが変わった。


 これまでの配置は、簡単に言えばビルトにかかる頭数が4割。つまり6割は小隊員達を牽制していた。しかしジェネラルウルフが〝命令〟を下すと、8割のアーマードウルフがビルトに飛びつくことになった。


 ――俺を優先的に牽制するというのか!


 自分を脅かす存在をまず牽制する。その一方でバックアップの小隊員を牽制する頭数を最小限は残しておくことで、彼らの支援砲撃が加わるのを最大限牽制する。


 魔物にしては良い判断力。どうやらこのジェネラルウルフは肉体だけではなく、頭も普通のジェネラルウルフよりはましなようだ。


 ビルトは戦い続けた。押し寄せるアーマードウルフを振り払い、ジェネラルウルフにもダメージを与え続けるその姿は、まるで戦いの修羅のようだった。そんな彼を睨むジェネラルウルフの眼差しも微妙に萎縮していた。


 しかし、ビルトの表情は次第に曇っていった。


 ずっとダメージを与えてはいるが、このままなら奴を倒す前に俺の魔力が先に枯渇しそうだ。


 ダメージも大事だが、さっきのような強力な音波砲を防止する為にも、ジェネラルウルフを攻撃しなければならない。しかし、押し寄せるアーマードウルフのせいで魔力を惜しむ余裕がなかった。小隊員達も時々砲撃で支援をしてはいるが、その火力では力不足だった。


 ――このままではいけない。戦術を早く変えなければならない。


 決心したビルトは状況を打開する為の方法を考え始めた。


 だが彼が決定を下すことより、新しい変数が戦場の状況を変えるのが早かった。まるでお腹が重くなるような感覚とともに、強烈な重圧感が周辺一帯を覆ったのだ。


「これは……」


 ビルトと小隊員達も慌ていたが、もっと劇的な反応を見せたのは魔物達だった。ジェネラルウルフは姿勢を低くして警戒心に満ちた態度を見せ、アーマードウルフは床にうつぶせになってブルブル震えていたり気絶したりする個体すらいた。


 そんなオオカミらを、空から降ってきた無数の剣の群れが容赦なく貫いた。それもすべての個体の心臓だけを正確に。空き地にいたアーマードウルフは一瞬にして全滅してしまった。


「これは、一体……?」


「やっと間に合っているようだね」


 そう言って、空から降りてきた男が空き地の真ん中に着地した。


 誰も話さなかったけど、先ほどの剣の雨がその男の仕業だということは誰もが本能的に悟った。のみならず今でも彼から感じられる強大な魔力の気配と圧迫感。戦いさえ忘れて、みんなの目線が彼に集まった。


 その男はテオだった。


「一応死者はいないようだね。けどもうちょっと早く来られなくてごめん」


「……いや、とてもタイムリーな助力だった」


 やはり小隊長の器ということか。ビルトはすぐにそう言って再び姿勢を整えた。テオは空き地の外に目線を向けた。


「どうやら外から押し寄せるアーマードウルフはまだまだ多いようだよ」


「そうみたいだな。一緒に戦うのか?」


「アーマードウルフは俺が止めるよ。ビルトさんと小隊員達はジェネラルウルフに集中してくれよ」


「分かった。手下がなければ大したことない」


 ビルトとテオは同時に微笑んだ。


「では始めようか」


「第2ラウンド、行くぞ」

小説が面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!


●最強の中ボス公女の転生物語 ~憎んだ邪悪なボスの力でみんなを救いたい~

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