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パート1:神の降臨(1)

 足元で感じられるのは、しっかりした大地の感触。鼻先にちらつくのは、爽やかな草木の香り。耳を叩くのは風と自然の音。目に映るのはほのかな自然な太陽の光。


「これが……世界」


 テオは子供のように目を輝かせながら呟いた。


 もちろん彼は長い間世界を見守ってきた。しかし、それはあくまでも神の視点。世界の中で人間の視点で接する世界はこうにも違うということを、彼は想像もしていなかった。


 ――ここは……確かに森という地形だったな?


 鬱蒼とした木の枝と葉の隙間から、明るく暖かい日差しがあちこちを照らした。おかげで草木が生い茂っている割には、それほど暗くはなかった。


 手を伸ばして葉を撫でると、指先に何とも言えない感覚が感じられた。感覚自体は神であった時にも感じていたものなので新しくもないはずだが、世界の感覚はテオを大変盛り上げた。


 ――肉体の調子は……どれどれ。


 森を全身で感じていることから、感覚器官はすべて正常。鍛えられた肉体と密度のある筋肉からは力が感じられた。そしてもう一つ、体の中に流れるエネルギーもとてもよく感じられた。そのエネルギーに意識を集中すると、エネルギーはテオの意志通り簡単に動いた。


 ――魔力器官も正常だな。


 この世界の万物に宿る特殊なエネルギー、魔力。それ自体も多く集まれば物質を強化したり強力な物理力を行使したりするが、魔法という技術を通じてあらゆる現象を思い通りに起こすことができる。


 テオが心血を注いで作り出した肉体はこの上ない完璧だった。神である彼の魔力を込める器としての性能も。


 もちろん神の力をすべて盛り込むのは人間の肉体では不可能で、本来の力に比べればこの肉体に宿った力は片鱗に過ぎない。それでも神である以上、その片鱗だけでも大きな力といえるだろう。


 試しに魔法も試してみたいテオだが……。


 ――何か気障な音が聞こえる。あっちか?


 さっきから何か騒がしい音が聞こえた。魔力で強化した聴力として聞いてみると、恐らく魔物と戦っている人間なのだろうか。いや、正確には魔物が人間を襲って人間が抵抗しているようだ。


 魔物とは、魔力の影響で生物が変異して誕生した怪物である。人間にとって有害か否かは個体や種族によって異なるが、少なくとも人間と戦っているなら良くない状況である可能性が高い。


 ――取りあえず助けに行ってみようか。


 足に魔力を集中して地面を蹴る。その単純な動作だけでも、彼の体はまるで弾丸のように飛び、森を突っ切った。


 ついに彼の目に入った光景は耳で聞いたままだった。


 人間の方は恐らく商人の一行だろうか。物を載せた車や馬車を中心に、護衛と思われる戦闘員が6人いた。しかしそのうちの3人がすでに倒れており、残った人々も余裕がないように見えた。


 そして彼らを襲ったのは紫色の角の生えた猿の魔物、ツノサルだった。1匹1匹は弱いが群れをなして歩くのが面倒な奴らだ。


「クッソぉ! どれくらいいるんだよ!?」


「グッ……もう十匹は超えてしまったようだが……!」


 馬車や車はそんなに高くはなかったし、護衛もそれほど強くはなかった。ほうっておけばきっと死ぬだろう。


 テオは突っ込む勢いのままツノサル1匹を突き飛ばした。突き飛ばされた奴は「キイッ」という悲鳴とともに吹き飛ばされた。瞬く間に彼に注意が集まった。


「あ、アンタは!?」


「話はあとで」


 飛びかかるツノサル1匹を拳でぶっ飛ばし、手を広げて魔力をばらまいた。きらめく魔力が一瞬にしてあらゆる図形と文字が絡み合った陣を空中に構成した。


 〈術法:風刃〉


 テオを中心に風の刃がいくつも撒き散らされた。10匹のツノサルの首が飛んでいき、護衛達が感嘆の声を上げた。


「術式陣をあんなに早く……!」


 ――これはそんなにすごいことでもないけどさ。


 苦笑しながら〈術法:風刃〉を何度も飛ばしてツノサルを倒した。


 この世界の魔法は3種類に分かれる。術法はその一つで、魔法文字と図形で構成された術式陣を媒介として現象を起こす技術だ。連射速度はすなわち術式陣を構成する速度によって決まり、テオの速度は確かに一般的なレベルではなかった。


「よぉし! 俺達も任せてばかりじゃいらんぞ!」


 護衛の1人が剣を握ってツノサルに飛びかかった。


 〈闘法:螺線斬〉


 振り回した剣から放つ魔力の斬撃が周りを何度も回ってツノサルを倒した。


 魔法のもう一つの形である闘法は術式陣なしに身体や道具に直接魔力を入れて使う技術だ。術法に比べ多彩な機能は発揮しにくいが、身体活動に直接連動するだけに直観的だ。


 ――なかなか達者だな。


 刺激を受けたテオも拳に魔力を入れた。


 〈術法:炎拳〉


 テオの両手から炎が上がった。その拳がツノサルを攻撃する度に炎が燃え移ってたちまち灰にした。


「アンタ、拳も結構使えるみたいだな?」


「使える手段は多いほどいいですからね」


「はっはっ! 面白いだな!」


 そんな感じでテオは彼らと一緒に戦った。テオの活躍でツノサルの数が急速に減った。結局ツノサルが残り少なくなると、奴らはおじけづいて逃げてしまった。


 ツノサルが退いて間もなく護衛達がテオに近づいてきた。


「やあ、ありがとうよぉ! アンタが助けてくれなかったら、しょうがなくここで皆殺しにされるところだったぜ!」


「そこで倒れている人達は?」


「ああ、怪我はしたけど命はついているぜ。心配してありがとうな。アンタ、ナマエは?」


「テオドール・ブラケニア。テオと呼んでください」


 創造神ブラケニアの名はこの世界の人々にはよく知られているが、まさか創造神が人間になって降臨したとは思わないだろう。そんな浅はかな考えで仮名は別に作らなかったが、何故か護衛達が驚いた顔をした。


 しかも、その名前に反応したのは彼らだけではなかった。


「今、ブラケニアと仰いましたか?」


 重厚な声とともに、護衛達が守っていた馬車のドアがゆっくりと開いた。

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