パート5:協力(2)
「うわぁ~すごい~! お兄さん、すごく強いですね~」
「あんまり仰山じゃない、リン」
「でもカイア……私もすごいと思う……」
――微妙に平和な子達だな。
テオは苦笑しながらも少し感嘆した。
言葉はのんびりするけど、彼女達が緊張しているのを感じた。任務中であることを忘れるほどのバカではないのだろう。特にエルシーは異空間に物を入れる魔法である収納魔法を素早く使い、テオが倒したアーマードウルフの遺体を直ちに保管した。
その時ティアが近づいてきて、リンの頭をつかんでくるりと回した。リンの首からぽきぽきと音がした。
「うぎゃっ!? 痛いですよ、隊長!」
「集中しろよ」
「ええ~嫉妬しすぎ~」
「……ふん」
「……え? 隊長、マジ?」
リンは一瞬驚いたように目を大きく開けたが、すぐににやりと笑ってティアに抱きついた。走りの最中というのも関係なく。
「何するよ! 邪魔じゃん!」
「えぇ~でも隊長を奪われるわけにはいきませんよ~」
「投げ捨てちゃうよ!」
エルシーとカイアは、もみ合う2人を平穏な顔で眺めていた。有り触れたことなので慣れたようだった。
――まぁ、仲がいいのはいいことだよ。それより……。
テオは森の奥を眺めた。今彼らの進行方向とは違う方だった。
そこから感じられる巨大な気配と、そこに接近する人間達の気配。多分巨大な方がジェネラルウルフで、人間達はビルト小隊だろう。進行方向が完全に一致するわけではないが、このままではビルト小隊が先に出くわしそうだ。
――今はジェネラルウルフが一匹だけでいるが、周りにアーマードウルフの群れがいる。戦闘が始まればすぐ呼び寄せるだろう。
そもそも任務内容を考えると、ここでは当然合流して一緒に戦わなければならない。
しかし、気になることがあった。今ティア小隊の進行方向が、どう見てもジェネラルウルフに近づく方向ではないということだった。
まだティアの加護の全貌をすべて把握したわけではないが、それでも今まで分かったことを考えるとおかしい。討伐対象のジェネラルウルフの位置ぐらいは当然分かるはずだから。
――俺が知らない限界があるのか? それとも何か違う理由があるのか?
そんな考えをしている途中、テオはティアと目が合った。
その瞬間、目を細くしたティアは突然口を開いた。
「よし、散開しよう。散らばってジェネラルウルフを探し出してね。発見した人は直ちに私に報告するように。テオさんは見つけたら術法通信だけで報告してくださって、その場ですぐ戦闘を開始しても構いませんよ」
その指示を聞いて初めて、テオはティアの意図を理解した。
――なるほど。狙うのはそれだったか。害になることもないし、ここではティアの意図通りに動くのがいいだろう。
判断を終えたテオはすぐにジェネラルウルフの方向に走り始めた。
***
自分の小隊を率いて森の中を進む途中、ビルトは大きな魔物の気配を感じた。
「どうやらジェネラルウルフを見つけたみたいだ」
「まぐれ当たりですね。ちょうどオレらに近いところにいるなんて」
――さぁな。俺らのルートはティア小隊長が提案したんだが。
恐らくビルト小隊がジェネラルウルフを見つけられるように按配したのだろう。
意図は分からないが、少なくともティア小隊長がビルト小隊を害する目的でそのような行動をする人ではない。その程度の信頼があるからこそ、ビルトはためらうことなくジェネラルウルフに突撃した。
ジェネラルウルフは森の中の小さな空き地にいた。
そこも元々は森の一部だったのだろうが、周りの木や蔓のようなものを片っ端から折って刳り貫いて空間を作ったようだった。そしてその空間の中心に巨大なオオカミがいた。
見た目はアーマードウルフに似ていたが、とりあえず図体が大きい。普通に4つの足で立った時の背がビルトより高いほどだった。通常のジェネラルウルフが熊ほどの体格であることを考えると、そのオオカミは明らかに普通よりも巨大だった。
奴は走ってくるビルト小隊を見るやいなや頭をもたげて雄たけびを上げた。
「ちくしょう! 手下を呼ぶみたいです、隊長!」
「想定内だ」
ビルトは両拳を一度ぶつけて大地から魔力を吸い込んだ。岩の巨人の幻影が殻のように彼を岩の巨人の幻影が殻のように彼を包んだ。防御力に特化した身体強化、〈仙法:岩巨人の威容〉である。
「行くぞ。隊長気分に酔ったオオカミの首を取るぞ!」
「おぉーー!」
ビルトの叫び声に小隊員3人が勇ましく叫んだ。
ビルトの小隊員は3人ともビルトより体が大きくてがさつだったが、いざ前面に出たのはビルトだけだった。
「いつものそれに行く。準備しろ!」
ビルトが叫んだ瞬間、ジェネラルウルフも咆哮しながら飛びかかった。先頭に立ったビルトがジェネラルウルフの爪を腕で防いだ。ビルトは何メートルか押し出されたものの、〈仙法:岩巨人の威容〉で強化された腕には擦り傷1つさえなかった。
「気合いが足りない」
ビルトのアッパーカットはジェネラルウルフの顎に炸裂した。
鈍重な衝撃音とともにジェネラルウルフの体が空中に浮いた。だがその体が再び地面に落ちる前に、奴の頭上へ跳躍したビルトが奴の頭を足でたたきつけた。奴は足蹴りの威力に押さえつけられて地面に押し込まれた。
そんなジェネラルウルフに向けて、ビルト小隊員の2人が重くて巨大な円筒で狙った。魔法で砲弾を作って発射する魔砲だった。残りの1人は魔砲の砲口の前に威力増幅の術式陣を展開した。
「発射!」
魔砲が魔法の閃光を放ち、重い徹甲弾がジェネラルウルフのわき腹に打ち込まれた。
「くぉおおお!」
しかし、ジェネラルウルフの甲殻はしっかりしていた。徹甲弾2発を受けてもほんの少しひびが入る程度に止まったのだ。でも内部に衝撃がある程度伝わったように、ジェネラルウルフは明らかに怒りの色を示した。
ビルトはその姿を見て、むしろ微笑んだ。
「その偉そうな甲殻、いつまで持ち堪えられるのか、一度試してみよう」
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