パート5:協力(1)
デリスの森。
エルバニア王国の王都、ハスタンからかなり離れた所にある広大な森だ。
隣接国の1つであるガルナンテ王国との国境地帯でもあるが、両国いずれもこの地の領有権は強く主張しない。その理由は色々あるが、最も大きな理由はここが数多くの魔物の棲息地だからだ。
魔物は良い素材を提供することもあるが、それ以前に人類の生存を脅かす存在だ。そんな魔物が非常に多く存在する森は、当然危険地域だ。
国力が十分な大国なら、森を狩場にして素材や資源を得ることもできるだろう。しかし屈指の弱小国であるエルバニアはもちろん、そのエルバニアを狙うガルナンテにも、デリスの森を掃討するほどの力はない。
「そのおかげでこの森はガルナンテの侵攻を防いでくれる防波堤でもあるんですけどね」
テオに説明してくれたティアが、ふと苦笑しながらそう付け加えた。
――確かに魔物の気配が多いね。
テオとティアが今いるのはデリスの森の外郭……というか、入口と言える区域だった。それにもかかわらず、テオは森に存在する数多くの魔物の気配を感じていた。それらがテオやティアを狙う気配はまだないが、ずっと留まっていたら襲われる可能性が大きいだろう。
「それで? お前の小隊員達はいつ来る?」
「もうすぐ……と言いたかったのですが、ちょうど来ましたね」
ティアが先にそちらを見て、テオが1テンポ遅れてその目線を追った。ちょうどそこから近寄ってくる人が3人いた。
小柄で軽く身を固めた茶色のボブカットの少女。平均的な身長にマントを巻いた青いツインテールの少女。そしてテオと同じくらいの長身で、巨大な2つのメロンを誇る黒髪のロングヘアの少女。みんなティアと似ている年頃に見えて、美貌も目を引く少女達だった。
「紹介します。私の……ティア小隊の隊員です」
「リンですよ!」
「エルシー……です……」
「カイアなんですわ」
なんか背の低い順からの紹介になった。
「初めまして、テオドール・ブラケニアです。簡単にテオと呼んでください」
「うわぁ~。めっちゃイケなお兄さんだぁ~。隊長、どうしてこんな美男子を救ったんですか?」
小柄な少女、リンがキラキラした目でテオを見た。まるで好奇心を示すリスのような子だった。一方、青いツインテールのエルシーはオズオズと距離を置いていた。肉感的なカイアはそんなエルシーの頭を撫でながらにこやかに笑ってくれた。
――大体性格が見えるんだな。
一方、ティアは小隊員を観察するテオを見ると、彼の腕をひっぱった。
「……この子達、あまりジロジロ見ないでくだないよ?」
「えぇ~隊長嫉妬してるんですか~?」
「リン、あまり隊長を困らせちゃダメよ」
「う、うん……リンは無礼すぎる……」
「えぇ~みんなひどいよ~」
ティアはため息をついた。一見しても統制とは程遠いように見える姿なのだからか。こめかみに少し立った青筋からストレスが垣間見えるようだった。それにしてもさほど不愉快に思ったりはしないようだった。
ティアが咳払いをすると、ゆっくりとお互いにいがみ合っていた小隊員達が表情を固めてティアに注目した。
「落語はおしまい。任務ブリーフィングするよ」
「「「はいっ」」」
――おお、やはりプロか。
その態勢転換にテオは内心感嘆した。
「今回の任務は小隊単独の任務じゃない。他の小隊と協力することになるよ」
「質問~どんな小隊ですか~?」
「ビルト小隊よ。そっちは私達と違う所から出発するよ。で、今回の任務のターゲットは……ジェネラルウルフよ」
「ジェ、ジェネラルウルフって……危険じゃないですか……?」
エルシーはオズオズと手を上げた。でもティアが自分に目を向けると、彼女はすぐ怯えた顔で縮こまってしまった。ティアはエルシーのそんな姿にため息をついた。
「そうだよ。だからビルト小隊と協力するんだ」
「アーマードウルフはどれくらい確認されましたの?」
今回はカイアだった。
「知らない。本社でも正確な規模は確認できていないんだって。でもジェネラルウルフの特性を踏まえると、アーマードウルフはかなり多いとみるべきだろうね」
その後も小隊員達が質問し、ティアが答える時間が暫く続いた。
一方、テオは自分1人で考え込んだ。
――ジェネラルウルフか。確かに、アーマードウルフの親分だったな?
アーマードウルフ。まるで鎧のように堅い甲殻が皮膚の上に生えたオオカミ型の魔物だ。歯や筋力は普通のオオカミよりやや強い程度に過ぎないが、甲殻の固さがなかなか面倒だ。
そしてそのアーマードウルフの進化形がジェネラルウルフ。こっちは熊よりも大きな体とともに、個体自体が非常に強力な力を誇る。しかし、もっと煩わしいのは他ならぬアーマードウルフのリーダーということだ。ジェネラルウルフは常に多数のアーマードウルフを帯同し、それらを強化する特殊な能力まで備えている。
――協力の任務としては持って来いの対象だな。まぁ、〝ブラケニア〟のティアなら1人でも討伐できる魔物だろうけど。
テオが考え込んでいる間にブリーフィングが終わって、ティアの合図で彼らは森の中を走り出した。〝ブラケニア〟であるティアとテオはかなりのスピードで森の中を横切っていったが、ティア小隊員3人も平然とその速度を追いかけてきた。
――幼くて可愛い子達だから少し心配したが、やはり〝ブラケニア〟のティアの小隊員になるほどの実力はあるということか。
テオがそんな考えをした短い瞬間、まるでカニの皮のような甲殻を全身にまとった灰色のオオカミが現れた。アーマードウルフだ。数は3匹。
ティア小隊員達がそれぞれ戦闘態勢を取ったが、それよりもテオが魔法陣を展開した方が速かった。
〈術法:臨時創造〉。耐久性を犠牲にする代わりに性能を引き上げた一回性の武具を作り出す術法だ。それで作られた9本の魔剣がアーマードウルフを突き抜けた。奴らは悲鳴さえあげられず絶命した。
――アーマードウルフにこれくらいの出力は……過剰か。6割程度でもいいな。
冷静に分析するテオの傍で、リンが目を輝かせて彼を見つめた。
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