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パート4:葛藤(1)

「え……はい、そうなんですが」


 テオの答えを聞いた受付嬢はただならぬ目つきでティアを振り返った。ティアだけでなくラークまで頷いた。ホール内がたちまち騒々しくなった。


「この国の2人目の〝ブラケニア〟……!」


「生きている間に見ることになるとは!」


「あんたどこから来たの? 噂も聞いたことないけど!」


 周りにいた皆がそれぞれ口を開いた。中にはテオに気兼ねなく近付いてきて声をかける人もいた。彼を疑うような人も何人かいるようだったが、ティアとラークが正しいと言うから通り過ぎたようだった。


 一方、目の前で確認を受けた受付嬢は真っ先に冷静さを取り戻した。プロだ。


「ゴホン。はい、分かりました。希望小隊は……ティア小隊、ですか?」


「はい。問題でもありますか?」


「いいえ、問題はないんですが……」


 ――何だ? 反応が微妙なんだな。


 受付嬢は何か困り果てたような様子だった。でもテオやティアに嫌な顔をするわけではなかった。あえて言うなら、言葉通りどうすればいいのか見当がつかない感じというか。


 受付嬢の態度がおかしかったのか、ティアは眉を顰めて割り込んできた。


「何があったんですか?」


「い、いいえ。特に問題になることはありません。それでは手続きを……」


 受付嬢はそのまま手続きを済ませようとした。でもその前に割り込む声があった。


「待ってよ」


 太くて、どこか不機嫌そうな男の声だった。


 声をかけてきた人は声に相応しく線の太い男だった。あらくれはラークに似ていたが、細い茶色の目は鋭かった。短く刈った濃い茶色の髪の毛もとても端正で、服装も徹底して様式を守った。


「……ビルト小隊長」


 ティアが少し驚いた様子で彼を見た。


 ――特に仲が悪くはないようだけど。


 テオから見て、ティアの表情から不快感や敵愾心は感じなかった。多分そのビルトという男と敵対的な仲ではないだろう。


 だがビルトの方は気持ちが良くなさそうに見えた。


「ティア小隊長、貴方は自分の立場の自覚が足りない」


「どういう意味ですか?」


 ティアの顔にも少しずつ不快感が広がっていった。いきなりそんなことを言われて気分がいいはずはないだろう。しかし、ビルトはビルトなりに退くつもりはないように眉を顰めた。


「〝ブラケニア〟はその存在だけでも多大な影響を及ぼす。それはティア小隊長、貴方が1番よく知っているだろう。だからこそ、〝ブラケニア〟の行動にはいつも慎重さが求められる。それは人を推薦する時も同じだ」


「何が言いたいんですか?」


「貴方個人の信頼度は十分だが、貴方が連れてくる人までそうだとは保障できない。しかしあまりにもいい加減に処理するのではないか? そして実力も訓練場で検証したとはいえ、実戦でも活躍できるかは別だ。実際に過去の巨大な力を持つ〝ブラケニア〟がいざ実戦で致命的なミスを犯して味方に被害を与えたり、あるいは本人が死んでしまった事件もあったから」


「テオさんの入社に反対されるということですか?」


「入社自体に反対するわけではない。どんな人なのか、どれだけ強いのか、どれだけ力をよく使うのかも確認しなければならないという意味だ」


「え、喧嘩するのは俺が見たぞ。ツノサルをよく倒したね」


 ラークが手を上げて割り込んだ。その後もラークが当時の状況を詳説した。ビルトは最後まで聞いて小声で頷いた。


「その程度なら実戦そのものが手に負えないほどではないな。だが〝ブラケニア〟に相応しいレベルでは全然ない。そして検証よりも大きな問題がある」


「今回はまた何ですか?」


 ティアは露骨にビルトを睨み始めた。ビルトはその姿が少し意外な様子だったが、それでも言葉を止めなかった。


「特別な事由がなければ、討伐会社の任務は基本的に小隊単位だ。ティア小隊の戦力はすでにティア小隊長、貴方の存在だけでも満ちあふれている。そんな貴方の小隊に〝ブラケニア〟をもう1人入れるのは、率直に言って深刻な過剰戦力だ」


「……それは」


 ティアは唇を軽くかんだ。今度はビルトの指摘に不満を表せないようだった。


 ――それはそうだな。最初から俺を自分の小隊に入れようとしたのはただ1人だけの望みだったはずだから。


 しかし、ティアはただ承服するつもりはないようだった。


「それで何がほしいんですか?」


「さぁな。まずはその人の力量を知らないからどれが良いと言う段階ではない。しかし〝ブラケニア〟に相応しい力量を持っているとしたら……彼は別の小隊として独立する方がいいだろう」


「……」


 ――あ、あれは不満120パーセントっていう表情だな。


 ティアの顔を見たテオはのんきにそんな考えをした。


 しかし、そのまま放っておくわけにはいかない。まだ人間界の事情については知らないところが多いだが、少なくとも今思うにはビルトの言葉に一理あるというのがテオの考えだった。でもティアは彼の話を素直に承服するつもりがないようだ。


 テオはため息をついて前に出た。


「一理はありますね。だが俺は討伐会社の業務については何も知りません。だから一種の研修というわけで、一応ティア小隊で活動しながら経験を積むのはどうでしょうか?」


「合理的だな。研修をするなら、知り合いと一緒にするのもいいだろう。だがティア小隊だけでテストをするのは信頼性を担保しにくい。だからせめて最初の作戦は他の小隊と合同作戦をするのがよさそうだが。ティア小隊長? 貴方はどう思う?」


「…………いいですよ。受け入れます」


 ティアは受け入れたくないというオーラを漂わせながらもこくりと頷いた。よほど不満のようだった。


 ビルトもその気配を感じたように苦笑した。そしてテオに目線を向いて、しばらく彼を見るように見つめた後、声をかけた。


「テオさんと言ったか? ちょっと貴方と話がしたいんだが」

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