パート3:エルバニア王国(4)
ティアがそう言うやいなや、テオはすぐにすべての魔法を解除した。そして拘束から解放されたティアに近づき、手を差し出した。ティアは少し悔しそうにむっとした表情だったが、テオの手を見るやいなやにっこり笑ってその手を握った。
でも二人が口を開くよりも、見物していたラークが騒ぎ立てるのが早かった。
「おい! すごかったぜ、お兄さん! まさかティア小隊長に勝つなんてな!」
いつの間にか近づいてきたラークは、テオの背中をパンパンとたたきながら笑った。
「いでっ、いたっ! ……まぁ、あまり勝った気はしないけどな」
「あぁん? なぜ? 勝ったんじゃないか」
「無理やり勝ったんだからな」
――ただ力で押し通した格好になったしな。
結果だけを見れば勝ったが、最後のそれは言葉通り物量で押したに過ぎなかった。その前までティアはテオが取り出すすべての手段に対処していたから。
しかもティアは単純に強力な能力1つで踏ん張ったわけではなかった。テオが使う術法や魔法具ごとに弱点を見破ったり、最適なカウンター手段を用いて無力化した。
――どうやらティアの加護は思ったよりすごいようだな。
テオがそんな思いをして苦笑している間、ティアは子供のように目を輝かせながらテオに近づいてきた。
「やっぱりテオさんはすごいですね! こんな手段で負けるとは想像もしませんでした!」
「強引に押し通しただけだよ」
「それだけの手段を自力で準備できるというだけでもすごいことなんですよ。しかもそれが全力を尽くしたのでもないでしょう?」
「そんなお前だって全力じゃなかったんじゃない?」
多分ティアが本気だったら、最後の拘束もなんとか出来ただろう。テオは若干の直感と、実際に戦いながら見て感じたことを基にした推測を根拠にそう思った。
だがティアは苦笑した。
「さぁね。私にとっては全力という概念がちょっと微妙なんですよ」
「どういう意味?」
「そういうのがあるんですよ。でも最初から今回の私の目標はテオさんの実力を立証するものでした。その目標は忠実に達成されたようだから不満はありませんよ」
――目標か。
考えてみれば、初めて会った時ティアは自分の加護についてこう表現した。
〝私が望むことを叶える方法を提示して、それを成し遂げることができる能力を私に与えることができます〟
あの時は比喩的な話だと思ったが、直接相手してみたテオはその言葉が思ったより直観的な言葉だったことに気づいた。
――俺が使った術法や魔法具に対する対処法を見抜き、正確なカウンター手段を使ったこと。恐らくそのすべてが加護の効果だろう。
しかし、ティアは望むことを成し遂げる方法を提示すると言った。それはつまり……。
――面白いね。本当に面白い能力だよ。
テオが短い瞬間そこまで考える間、ティアは肩をすくめてまた口を開いた。
「そもそもテオさんはこの訓練場の結界を補強する術法を多重に使ったじゃないですか。最初からペナルティーを自分に科して始めた人が何を言うんですか」
「そりゃそうだな。そもそもこの会社でその程度の術法を展開しても別に戦いが可能な人はティア小隊長を除いてはいないぜ」
ラークもそのように手伝った。
――いや、別に意気消沈とかじゃないけどな。
テオは苦笑してしまった。
「とにかくもう入りましょう。これくらいならテオさんを入社させることに反対する人はいないでしょう」
ティアはそう言うと、先頭に立ってティシス社の建物に足を踏み入れた。
建物の中はテオが想像したのとは全く違っていた。大理石の床は奇麗に輝いており、壁や天井はとても奇麗に整えられた木だが、それさえも表面だけが木だった。
テオは注意深く目に魔力を注いだ。物質と現象を分析することに特化した〈仙法:解釈眼〉が彼の目を輝かせた。
それで木の内側にある物質を見た。やはり合成物質だった。構成物質は少し異なるが、開発理念や性質は多分地球のコンクリートに似ているだろう。そしてそのコンクリートに似た物質の内側には鉄骨が埋め込まれていた。
――これも転生者のアイデアを基盤に作られたみたいだな。
一方、先頭に立ったティアはまっすぐ進んだ。広々としたホールの先に受付に見える場所があり、外見を奇麗にした受付嬢が座っていた。彼女はティアを見るとすぐに頭を下げた。
「ティア小隊長、帰ってこられましたね」
「はい、いま復帰しました。そして人材を1人スカウトしたいですが」
「人材……ですか?」
受付嬢は少し驚いた様子だった。テオがその姿を見て首を傾けていると、ラークが彼の耳に顔をもたらした。
「ティア小隊長は誰かを連れてきたことはなかったんだぜ」
受付嬢はティアの後ろに立っているテオに目を向けた。
「そっちの青年の方ですか?」
「はい。実力に対する検証手続きは先ほど訓練場で済ませました。魔法具の録画資料とラーク小隊長の証言を参考にしてくだされば良いと思います。面接も私がしたので省略してください」
「分かりました。ティア小隊長のご意見なら大丈夫でしょう」
――まだ幼いのに信頼されているな。
ティアの推薦という一言で一気に通過するとは、よほどの信頼がなければ不可能なことだろう。
「新入りの方、この書類を作成してください」
「あ、はい」
テオは書類を見た。多くは問題なく作成できる項目だったが、そのうち『希望の小隊』の部分だけは首をかしげるしかなかった。
「これは……」
「ティア小隊って書いてくださいね」
隣で見ていたティアがそう囁いた。堂々と彼を傍に置くという宣言だったが、知っている小隊がないテオとしては選択肢がなかった。どうせ不満もないし。
書類を受付嬢に渡したら、彼女は名前を見るやいなや目を大きく開けた。
「〝ブラケニア〟ですか!?」
驚愕に満ちた叫びが広いホールに響き渡り、周りにいた人々の目線がすべてテオに集中した。
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