パート3:エルバニア王国(3)
速い。
まだ身体強化を追加して使ってもいないのに、ティアはすでに驚異的なスピードでテオに襲いかかった。しかもその短い瞬間に地から魔力を吸い込むと、剣を振り回す前にまず魔法を発動した。黄色い岩の幻影が鎧のように彼女を包み込み、力と速度がさらに増した。
〈仙法:岩巨人の威容〉。地の魔力を吸い込んで発動する特殊な身体強化。その剛健さはまさに岩のようだ。
テオはそれに対抗して防御術式陣を展開した。ティアが振り回した剣がそこにぶつかった瞬間、大きな衝突音とともに重い衝撃が術式陣を揺さぶった。
だがティアの猛攻は一度で終わらず、常人には見えもしないほどの速さで重ねて剣撃を浴びせた。防御術式陣が何度も壊れ、再び展開することを繰り返した。
テオは防御しながら別の術式陣を展開した。魔法具を創造する〈術法:魔法具創造〉が強力な魔法具を多数生み出した。
しかしその瞬間、ティアが術式陣を展開して赤い霧を吹き出した。その霧に触れた魔法具はそのまま砕けて粉になった。
――〈術法:崩壊の霧〉か。
いきなり創造術士の弱点を突く術法とは。テオは舌打ちしながら高速で術式陣を展開した。火炎球と風の刃、きらめく雷撃がティアを襲った。しかしそのすべての術法はティアの〈仙法:岩巨人の威容〉の防御力によって抑えられた。
「もっと強く行きます!」
叫ぶとともに、ティアの剣から魔力が吹き出てきた。〈闘法:結界斬り〉の魔力がテオの防御術式陣を切り分けた。そして剣がテオの鼻先までつめよった。
だが次の瞬間、テオが展開した術式陣から飛び出た岩の腕が剣をつかんだ。そして同時に、訓練場全体を包み込む巨大な術式陣が展開された。ティアが撒いた〈術法:崩壊の霧〉の霧が急速に消えた。
今度こそ〈術法:魔法具創造〉の力を遺憾なく発揮し、各種魔法具がテオのもとに現れた。
「いやぁっ!」
「はあぁっ!」
剣を振り回してくるティアに立ち向かい、テオも創造した剣を持って振り回した。テオの剣から炎が上がった。しかしティアは水の術法で炎を制圧し、剣そのものも横に受け流してテオの隙を突いた。
テオはそれに対抗して盾を立てた。強力な磁力を操る盾だった。でも反発力で剣を弾こうとした瞬間、ティアの剣から噴出した熱が盾を熱くした。盾の磁力がたちまち消えて、盾そのものも溶け出した。
けどその短い瞬間、テオが用意した槍がティアの腹を突いた。岩と地形を砕く魔槍だった。その力が〈仙法:岩巨人の威容〉の防御力を突破し、ティアの腹に浅い傷を残した。そしてその一撃でティアが押し出されて距離が離れた隙に、強力な火力を誇る魔法具を相次いで装填した。
「ちょっと痛いになるよ!」
一斉に投擲される魔法具、その数は5つ。1つ1つがティアの防御力を突破して傷つける可能性のある強力なものだった。
しかしティアは鼻で笑って、大気の魔力を吸い込んだ。〈仙法:岩巨人の威容〉が消え、その代わりに風のような狼の幻影がティアを包み込んだ。
――あれは〈仙法:風狼の歩み〉か? 身体強化の仙法をあんなに瞬く間に変えるとは……!
堅さの代わりに速度を重視する仙法。それで強化されたティアの速度は気長に驚愕する暇さえ与えなかった。
ティアはテオの目でも動きがぼやけて見えるほどの速度で突進してきた。魔法具なんかすでに全部避けてしまった。辛うじて防御術式陣を多数展開したものの、〈闘法:結界斬り〉の斬撃が続き、全部切断された。
直後テオの後ろで完成した魔法具が魔力を吹き出した。空間を操って内部のあらゆる流れを遅くする魔法具だった。ティアの速度が目に見えて遅くなった。
でもそれもつかの間だけで、ティアが震脚を踏みしめて術式陣を展開した。空間の流れを加速する術法が発動して鈍化効果を相殺した。その間、テオは自分を加速する術法を多重に展開してティアの速度を追いかけていった。
「すごいな、お前!」
「テオさんこそ!」
テオが展開した強力な魔法具を、ティアは全部見抜いて突破した。
空間を歪める魔槍――歪みのない中心部の微小な弱点を突かれて破壊。
物質を分解する魔剣――届かないうちに超高熱の火炎で融解。
空間を跳躍する魔剣――〈術法:空間封鎖〉で空間跳躍そのものを遮断。
究極の貫通力を誇る魔槍――側面を殴りつけて軌道を歪める。
他にも多数の魔法具が溢れたが、ティアはそのすべての弱点を見抜いて無力化した。
――すごいな。あれも〝道〟を教えてくれるという加護の力か? 弱点というのがあるのかさえ分からない。
考えている間もティアは近付いてきて剣を振り回し続けた。テオが展開する魔法具や防御術法は全部紙切れのように切り取られていった。
――こんな無知な方法だけは使いたくなかったが、仕方ないな。
テオはため息をついた。そしてあっという間に大量の魔力をつぎ込んで術式陣を展開した。
発動した術法は、これまでと同じの〈術法:魔法具創造〉。しかし数が尋常でない。上空に展開された超巨大術式陣から100本を超える魔法具が作られ、全部がティアに向かって力を注いだ。
「くぅっ!?」
空間固定、鈍化、氷結、結界、雷電、他にも様々な力がティアの動きを拘束した。ティアは瞬く間にカウンター術法や技術を繰り広げたが、100本を超える魔法具が同時に吐き出す力をすべて無力化することは不可能だった。
結局ティアはため息をついて剣を放した。
「……負けました」
今回は1話まるごと戦闘シーンになりましたね。
どんな感じになったのか心配ですが、楽しんでいただけたらと思います。
小説が面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!
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