パート3:エルバニア王国(2)
広々とした野外空間だった。床は舗装されていない土の床だったが、それでもしっかりと固まっていた。簡単に言えば、一種の運動場や練兵場のような感じというか。外郭には様々な武器や装備のようなものも配置されていた。ティアの話ではティシス社の訓練場だという。
その真ん中に立って対峙したのがテオとティアだった。おまけに言えばティアは剣をテオに向けていた。それも訓練場に備えられた練習用の剣ではなく、ティア自身が使用する本物の武器を。
「言ったでしょう? 検証するって」
「俺の力をテストしてみるってこと?」
「そうですよ。私はこの国の唯一の〝ブラケニア〟として分不相応な権限を持ってはいるけど、何の名分もなく討伐会社に新入りを入れることはできません。この仕事は命にかかわる仕事ですから」
――何をすればいいんだよ……などの質問はいらないだろう。
堂々と自分の本来の武器を手にしたティアと、その前で対峙中のテオ。場所と配置だけを見ても、ティアがしようとするのが一種の模擬戦ということぐらいは簡単に分かる。
おまけに立会人という名の見物人でラークも来た。この模擬戦が終わった後は、その結果を彼が証人となって証言してくれるという。
……と言うが、そもそもこの訓練場にはこんなことに備えた映像記録の魔法具もある。すなわち、ラークの証言はただ見せかけだけであり、実状はただ見物に来ただけだろう。その証拠として彼はまるで新しいおもちゃを期待する子供のような顔色で目を輝かせていた。
「ひとまず確認の為お伺いします。テオさんの加護は何ですか?」
加護か。厳密に言うと、テオに加護はない。
そもそもこの世界の人間が加護だと思うのは事実、自分自身の魂の潜在力が表に出たのだ。正確にはテオが人間の魂を細工し、表に潜在力を表出させてくれたのが加護だ。
ただ、とにかく加護の本質は魂の潜在力。その点で見ると、テオの加護は……。
「『創造』……といえるだろうな」
テオの呟きに、ティアはすでに予想したように平然と頷いた。
ただその時、見物していたラークが声を上げた。
「『創造』の〝ブラケニア〟だと!? すごいじゃないか!」
「ん? そうか?」
――まさか『創造』の加護は珍しいのか?
テオの考えに気づいたティアはにっこりした。
「『創造』自体は優れた能力ではあっても珍しくないです。転生者の中にもたまにいるし。そもそも工芸や製造に携わる人のほとんどは『創造』保持者なんです。ただ……〝ブラケニア〟の中で『創造』を持った人は前例がありません」
「そうだとも! 〝ブラケニア〟ではない転生者も強力なことで有名だぜ。〝ブラケニア〟だとどれだけすごいか想像もつかないな!」
「そう?」
そうは言っても、実はテオとしてはあまりピンとこなかった。そもそも転生者がこの世界の原住民よりどれほど強いのか、〝ブラケニア〟がその中でもどれだけ優れているかがよく分からないから仕方がない。
それに言ったことが全部事実なら、ティアは一応『創造』ではないだろう。どうせ森でティアが説明したことを見ても『創造』とは程遠いが。
「それでティア、お前は?」
テオとしては何気なく投げかけた質問だったが、何故かその言葉にラークが豪快に笑い出した。
「はっはっは! ダメだってよ! ティア小隊長の加護は機密なんだぜ!」
「機密?」
「そうだぜ! 何といっても彼女は我がエルバニア王国の国力だからな!」
――エルバニア王国の国力って、この子が? 〝ブラケニア〟はそんなにすごい戦力かよ?
ティアを見ると、彼女は少し不機嫌そうな顔でため息をついた。
「私としては教えてあげても構いませんが、これは国王陛下の命令ですから。許可なく共有することはできません。すみません」
「いや、謝る必要はないよ。気を使えなくてごめん。それはそうと……」
テオはティアの剣を見た。
かなり強力な魔法具だ。人間が運用する魔法具の平均がどの程度かは分からないが、少なくとも来る途中に見た魔法具とは次元が違う強大な魔力を秘めていた。来る途中に見たとしても、通行人がたまに使っていた魔法具や魔法車ぐらいだったけど。
正直に言って、実力確認の模擬戦に使える兵器なのかどうか分からないというのがテオの本心だった。
テオの目線に気付いたティアは、剣を取り直して口を開いた。
「本来ならたかがテストの模擬戦にこいつを出す訳じゃないです。ただ……個人的には今テオさんの力がどれくらいなのかちゃんと確かめたいんですよ」
するとティアは口の端を上げた。可愛いで鋭い顔立ちとは似合わない、大変熱く好戦的な笑みだった。
その笑顔を見たテオは苦笑してしまった。
「簡単に言えば、大きく1戦やってみたいってことだよな?」
「正確ですね」
「いいよ。俺も今俺がどこまでできるかは確認してみたいところだったから。ただ……」
テオは訓練場を見回した。それなりに安全の結界はあったけど……正直に言えば、非常に頼りない。
「安全は大切だから」
テオの手振りと同時に無数の術式陣が展開され、訓練場の結界を覆うように隙間なく覆った。ラークは口をぽかんとあけたまま言葉さえ忘れた姿で、ティアも少し驚いたように目を大きく開けた。
「これは……すごいですね」
「そう? これはどの程度かよ?」
「術式陣をこれだけの数を1度に展開できる人からが少ないんです。しかも一瞬というべきスピードとは。それに、あれを維持しながら私と模擬戦までするということでしょう?」
「うん……そう言ってもな」
テオとしては体を動かすのと同じレベルの簡単な作業だから実感がわかなかった。
それでもあれをずっと維持するのはテオとしても負担になることはある。だから模擬戦でもペナルティーを被るわけだが……どうせ勝敗が重要なわけではないから関係ないだろう。
「準備はいいですか?」
「もちろん」
「じゃあ……行きますよっ!」
鋭い気合いとともに、ティアは魔力を込めた足で地面を力強く蹴った。
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