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プロローグ 神様、逃げしまう!?

 テオドール・ブラケニア。


 世界を創造した偉大な神の名前だ。


 被造物を愛し、彼らを幸せにしてくれるという使命感に忠実だった神。異世界の神々とも協力し、世界をより良くする方法を講じ、魂が世界達の間を循環する構造を初めて作り出したのも彼だった。


 その構造の名前は転生。死者の魂が別の世界で生まれ変わることだ。


 その構造が成立し、彼が新たに受け持った役割は転生の管理。霊的な力が溢れる地球という世界で死んだ魂、その中から適合する者を選別し、彼が創造した世界に転生させる。そして自分の世界から離れる魂を見送る。そうした循環を通じて世界達はさらに成長していった。


 そういう仕組みに達成感とやりがいを感じたのがずいぶん昔のこと。


 そして彼は、いつにも増してまじめな顔で一世一代の決心をした。


 その決心とは――。


 


 ***


 


「やってられない」


 偉大な創造神が真剣この上ない顔で言った言葉に、彼の眷属である最高位の天使ジベレは首をかしげた。


「はい……? テオ様、それはどういう意味……」


「やってられないって。この仕業さ」


「いきなりどうしてそんなことを仰るんですか? さっきも普段のように良い魂を転生させたじゃないですか」


「それが問題だよ、ジベレ」


 ジベレはまだ理解していない様子だった。


 テオはたった今までひじを支えてくれた机から書類の束を取り上げた。片手では掴めにくいほど分厚い束だった。


「ジベレ、これは何だ?」


「テオ様が転生させた魂達の情報です」


「ハズレだよ、ジベレ。〝一週間〟転生させた魂の情報だ」


 テオは書類を一つ一つ誇示するようにめくると、途中からイライラしたように書類を投げ捨てた。書類は雲になって床と一体化してしまった。


「魂一つを転生させる為には相応しい者を選別し、その者の望むことを調査し、それがどう実現するかを決めなければならない。その為に考慮して研究しなければならないことが本当に多いんだ。人間の時間を基準に言うと、一人だけでも10時間はかかる」


「でもテオ様はこの神界の時空間を調節して人間とは違う時間を生きていきます」


「そうだ。でも知ってる? 結局それは作業する俺の立場では10時間がそのまま進むということだ。一日に転生させる人員だけでも少なくとも5人以上だよ。24時間中50時間以上、仕事だけするということだ。そんな仕業を数百年もしたよ」


 テオは机を手で振り下ろしながらぱっと起き上がった。机も椅子もすべて雲に変わって散らばった。逆に彼の眼差しはかっかと燃え上がった。


「疲れた! やってられない! 何百年もこんな書類の山に埋もれて仕事ばかりして過ごしたじゃないか!」


「でもそのシステムを作ったのはテオ様でしょう」


「そうだ! 自業自得だよ! それは知ってる! だから今本当にクソ後悔しているし!!」


 熱弁をふるう創造神。この世界、これでいいのか。


 彼の忠実な腹心であるジベレは可哀想そうに伏し目ながらも、彼の宣言に対してはどうしようもないようにため息をついた。


「でもテオ様のお仕事のおかげで世界はより良い方向に動いています。それは必ず必要なことです」


「そう、必要なことだよ。でも俺だけできる事ではない。だからジベレ、あとは頼むよ」


「はい?」


 ジベレの目が大きくなった。でも彼女がもう一度テオを見た時、彼はすでに別れの挨拶をするかのように手を広げ、爽やかに笑っていた。そしてその後ろには時空間を結ぶ次元門が展開されていた。


 ジベレが彼の言葉の意味と状況を理解するより、偉大な創造神が自らの神聖な義務から逃げるのが早かった。


「サラバだ! 頼んだぞ!」


「テオ様!? どこへ行く……」


 テオは次元門に身を躍らせた。ジベレの声は途中で途絶えてしまった。


 どこかに流れ込む次元の通路の中で、テオは満足げな顔で考え込んだ。


 ――押し付けたのは申し訳ないことになったよ、ジベレ。いつかは帰るよ。休暇だと思ってくれ。


 もちろん何の計画もなくがむしゃらに事を起こした訳ではない。いや、むしろこの日の為にテオは長い間準備をしてきた。


 ヒントは他ならぬ彼自身が作り出した転生のシステム。基本的に転生は異世界から連れてきた魂をこの世界の赤ん坊に与えることである。だがテオは自分だけの為の肉体を心血を注いで作り出した。この次元の通路を通れば、その肉体がテオを歓迎するだろう。


 ――考えてみれば、被造物の目として世界を眺めたことはなかったな。


 彼は造物主であり、管理者であり、親であり師匠だった。いつも世界外で世界を愛しただけで、世界の中で見たことは一度もなかった。


 半分ほどは衝動的に行ったことではあったが、その点だけは大いに期待していた。


 ――他の神が言ったことがあったな。世界は創造主の模型庭園。だがその中に入って直接その地を踏んでみると、その時からは模型じゃなくて本物の庭園だって。その喜びを知ってこそ、本当の世界の親になるって。


 テオはいつも自分の子共のような世界を愛した。しかし彼がその愛を表現する方法は世界に〝プレゼント〟を与えることだけ。世界に入って一緒にいたことはない。


 ――よし、思う存分遊んで……いや、世界を観察してみようか!


 神様でもたまには楽しんでもいいだろう――そんな気持ちでテオは笑った。

今日から新しい小説開始します!!

面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!


連載周期は不定期自由連載です。

頻繁に更新される時もあるし、しばらく更新されない時もあります。

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