6
西暦2032年7月20日 日本国東京 総理官邸会議室 NSC
異変から2日経った7月20日、ある程度情報が入るようになってから行われたNSC国家安全保障会議は防衛大臣の説明から始まった。
「今現在判明しているのは陸上自衛隊八戸駐屯地、馬毛駐屯地。海上自衛隊大湊基地及び八戸航空基地、馬毛分屯地。航空自衛隊八戸基地及び馬毛基地、大湊分屯地が消失。サクラメント島にて上陸演習を行う予定だった海上自衛隊第5護衛隊群第5護衛隊、第1輸送隊、第1補給隊及び大西洋にて行われる合同演習の為、ノーフォーク基地に向かっていた海上自衛隊第5護衛隊群第10護衛隊が太平洋上にて消失。そしてアメリカ合衆国サンディエゴに向かい移送中であった陸上自衛隊第340高射中隊を移送していたチャーター船【はくおう】と弾薬の運搬を担っていた運搬船2隻が沈没もしくは消失しました。」
安全保障に携わる人間からしてみれば悪夢に近い状態なのだが、既に最初の報告から2日経っており、続々と情報が入ってきており状況を考慮した結果、被害を受けたのは日本だけでは無かった。
「第5護衛隊及び第10護衛隊と共に艦隊行動をしていたアメリカ、イギリス、フランス、イタリア、オーストラリアの各艦艇も沈没こそしてませんが、被害は甚大でオーストラリア艦隊とフランス艦隊はオーストラリアへ、イタリア艦隊はハワイへ、イギリスの艦隊は佐世保へ緊急入港し、現在ドック入りしてます。」
「その辺りはイギリス政府と外務省を巻き込んで対応してくれ。それで・・・その原因は突発性の熱帯低気圧との事だが・・・」
「はい。その熱帯低気圧、スーパー台風ですね。その影響は凄まじく、我々の艦隊を牽制しに来た中国の福建空母艦隊も暴風雨に見舞われ壊滅的被害を受けました。判明してるだけでも空母【福建】及び巡洋艦【南昌】他駆逐艦数隻は沈没、12隻の艦隊のうちマトモに大陸に帰還したのは経った4隻のみです。今回の件によって我が国を含む各国が海軍戦力を大きく落としたのは間違い無いでしょう。」
防衛大臣はまだマシだったと言うが、6ヵ国艦隊の中で日本の艦艇のみが全て消失してるのは不可解という他無かった。
今回の件に関しては熱帯低気圧に突っ込んだ艦隊指揮の空母【トリエステ】の艦長に各国から非難が集まっているが、突発性の熱帯低気圧という避けようのない自然現象という事で取り敢えずは落ち着いている。
「その熱帯低気圧による艦隊の消失と青森と鹿児島両県での自衛隊基地及び駐屯地の消失の関係性は?」
「北大西洋での【はくおう】と運搬船の消失の件もありますね。」
「基地及び駐屯地のみを包んだあの霧といい、推測すら出来ません。熱帯低気圧での艦隊消失の件に関しては暴風雨の中、護衛艦【まや】の前方にいたイタリア海軍空母【トリエステ】の乗員曰く、いきなり日本艦隊がレーダーから消えたと証言してますので何かしらの関わりはあると思いますが、原因については・・・」
現状、間違い無く言えるのは2020年代の自衛隊の増強分がそっくりそのまま消失し、自衛隊の戦力が2020年前半に戻ってしまったという事である。
「戦力的にも痛いですが、海自唯一の空母部隊の第5護衛隊群を失ったのが大き過ぎます。」
「装備の損失も痛いが、人員の方がな・・・」
総理大臣がそう言って頭を抱えるが、今回の件で自衛隊が失った戦力は陸上自衛隊第9師団の3分の1、海上自衛隊主力艦隊の5分の1、航空自衛隊全無人機部隊と再建に10年単位の年数が掛かるのは間違い無かった。
「現在、戦力の空白を埋める為一時的にアメリカ海軍第7艦隊が日本近海で演習をしてますが、中国の損失具合を見ますと今回の災害は双方痛み分けですね。」
そんなこんなで彼等の苦悩は続くのだった。