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異世界漂流記  作者: YF-23
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4.何も分からないが

 


 西暦2030年7月18日 青森県むつ市 航空自衛隊第42警戒隊 大湊分屯地レーダーサイト


 眼下における海の防人、海上自衛隊大湊基地を見下ろす釜場狭山。

 そんな釜場狭山の中腹のひらけた場所にソレはあった。

 六角注の真っ白な構造物に亀の甲羅のような物が付いており、その見た目からガメラレーダーとも呼ばれる航空自衛隊の固定式警戒管制レーダー装置、J/FPS-5である。

 その特徴的な甲羅の中には大型のアクティブ・フェーズドアレイ・アンテナが内蔵されており、レーダーサイトの主な目的である航空機の探知だけでは無く、弾道ミサイルの探知も可能な1基当たり180億円もの超高性能レーダーである。


 そんな日本が誇る高性能レーダーが捉えた物標を表示させるレーダーコンソールのパネル画面は現在、雑音とノイズにより一切機能していなかった。


「第1から第3、全ての面のLバンドレーダーが使用不能です!」

「整備士によると機械的な問題や電子的な問題ではないとの事です!」

「また同時に警戒管制団のある三沢基地との連絡が途絶しており、千歳基地との連絡もつきません!」


 レーダーサイトのある中腹から少し降りた場所にある航空自衛隊大湊分屯基地レーダーコンソールルーム内では警戒管制官達の怒号が飛び交っていた。

 警戒管制団との通信システムが表示されるパネルにはLog Outの文字が表示され、レーダープロッティングパネルには多数のノイズが走っており使い物にならなくなっていた。

 15分程前から50m先が霞んで見えない程の濃い霧が分屯地周辺を覆っており、3km離れたレーダー本体もいつもは目視出来るが、今は目視出来ない。


「司令、システムに接続出来てないのは我々だけでは無く、大湊と八戸の海自と陸自の基地、駐屯地全てがログアウトしてるみたいです。」

「むつ市役所との連絡がとれません。他所との連絡も同様で電話は使用出来ません。」


 この異常事態発生により横田の航空総隊司令部と地元自治体に報告させた通信電子隊隊員の報告を聞いた分屯地司令は何が起きているか理解出来なかった。


 分屯地内では緊急事態を告げる非常ベルが鳴り響き、分屯地内の宿舎からは隊員達が続々と非常配置に付いている。

 そんな非常ベルが鳴り響く音は普通なら近くの高校や付近住民から何事か?と分屯地宛に電話が鳴り響くのだが、電話が使えない事が影響してるのか一切の着信音が聞こえてこなかった。

 そんな異常事態に改めて気を引き締め直した司令は現状を把握させる事を全力でするように指示を出した。






 西暦2032年7月18日 日本国青森県むつ市 海上自衛隊大湊基地埠頭 護衛艦【しらぬい】CIC


 非常ベルが鳴り響く航空自衛隊大湊分屯基地から南へ1km、いつもなら目と鼻の先の距離しかない海上自衛隊大湊基地も濃い霧によりその存在が確認出来ない。

 そんな大湊基地の埠頭に係留されている汎用護衛艦【しらぬい】の艦中央にあるCICでは大湊分屯基地と全く同じやり取りがされていた。


「OPY-1レーダー並びにOPS-48レーダーが使用不能です!」

「整備員によると機械的な問題や電子的な問題ではないとの事です!」

「また同時に横須賀基地の海上作戦センターとの連絡が途絶しており、八戸基地以外の基地や駐屯地との連絡もつきません!」


【あさひ型】が【あきづき型】と比べて対空レーダーなどの対空能力がダウングレードされてるとはいえ、【あさひ型】護衛艦2番艦の【しらぬい】の対空レーダー能力は航空自衛隊大湊分屯基地のJ/FPS-5に劣らぬ物であった。

 故に有事の際にはその能力を遺憾なく発揮するよう期待されていたのだがその能力は現在、原因不明のノイズと雑音により使い物にならなくなっていた。


「特に技術的な問題は無いのだな?」

「はい。整備員の報告ではそうなっています。」

「となると、原因はこの霧か?」


 そう言って艦長は外を映している映像の方へと視線を向けた。


「大湊で霧の発生は珍しく有りませんが、これは異常ですね。」

「対空レーダーも対水上レーダーも使えず、おまけに市街地もみえなくなっている。一体何が起きているんだ?」


 大湊基地に隣接する市街地の建物が消えたのは基地の正門で警戒に当たっていた警備隊からの報告で判明した事だ。

 この異常事態に大湊基地司令は隣接する大湊航空基地の第25航空隊所属のヘリコプターを飛ばそうとしたが、この霧では二次災害の恐れもあり飛ばせていない。

 ちなみに大湊警備隊はこの異常事態により臨戦態勢で警戒に当たっており、霧が晴れ次第マスコミに叩かれるのを覚悟で戦闘装備で街に向かう予定である。





 西暦2030年7月18日 青森県八戸市 海上自衛隊八戸航空基地


 陸海空自衛隊が駐屯する八戸市、その市街地近郊の海沿いに広がる陸上自衛隊八戸駐屯地、海上自衛隊八戸航空基地、航空自衛隊八戸基地。

 そんな三自衛隊の1つである海上自衛隊八戸航空基地内の第2航空群指揮所では陸海空三自衛隊の現地幹部が集まり緊急の会議が開かれていた。


「いったい、どうなっている!?」

「レーダーが使えず、大湊基地以外の基地との通信も途絶し、オマケにこの霧で航空機の運用すら不可能、現状の把握すら出来ませんな。」

「固定電話はともかく衛星電話も使えないとは通信衛星が堕とされましたかね?」


 陸海空全ての幹部達はお手上げとばかりに頭を抱えている。

 そもそも意図的な攻撃なのか、ただの自然現象なのかすら判明していないのだ。

 ただ1つ言える事は彼等は現在、基地の外を確認する事が不可能になっているという事であった。


「一応、第38即応機動連隊には非常時という事で一時的に警戒態勢を指示している。敵工作員の襲撃にしろある程度は対応出来る筈だ。」


 第9師団司令部との連絡が途絶してる今、ただの駐屯地司令が出来る権限はそれが限界であった。

 更に防衛出動命令どころか出動待機命令すら発令されていない現状においては幾ら戦闘部隊である第31即応機動連隊であっても出来る事と言えば駐屯地内の警備という警衛隊の手助けのみであった。


「しかし幾ら他の基地との連絡がとれないとはいえ車輌くらい出さないのか?三沢基地までたった20km程しか無いんだぞ?」

「しかしだな、駐屯地周りの道路は確認出来てもその先の民間やコンビニすら確認出来ないレベルの霧だぞ?そんな中車輌を運用しろって事故を起こせと言ってるようなものじゃ無いか。」

「陸自の駐屯地宿舎からこの建物までの移動だって歩いてきたぐらいだ。ほんとにこれは霧なのか?」


 海上自衛隊第2航空群の気象担当者曰く「現状の気温と湿度などの情報を鑑みても霧が発生する事は有り得ないが、この状況は霧の一種である濃霧としか判断するしか無い。ただ、濃さが異常」との事なので間違いなく霧なのだが、その他の付随状況がその疑問に拍車をかけていた。





 西暦2032年7月18日 日本国青森県青森市 陸上自衛隊青森駐屯地 第9師団司令部


 青森市近郊に位置する陸上自衛隊青森駐屯地は陸上自衛隊東北方面隊隷下の第9師団の司令部機能があり、第9師団の管轄域である青森県・秋田県・岩手県の三県の防衛警備を担っている。

 そんな青森駐屯地の副駐屯地司令を兼任する第9師団長は現在、非常事態として市ヶ谷の防衛大臣と航空自衛隊三沢基地司令とのテレビ会議を行なっていた。


『つまり何か?大湊と八戸の両基地及び駐屯地との連絡が途絶してると?』

『三沢基地から緊急でF-35を向かわせましたが、両基地及び駐屯地付近はモヤのようなものが罹っており工学装置を使用してもなお確認出来ませんでした。』


 大湊、八戸の両基地及び駐屯地との連絡が途絶したと報告を受けた防衛省はすぐさま連絡の取れている航空自衛隊三沢基地の第3航空団に命じ、両基地及び駐屯地の状況確認に向かわせたのだが、その結果がコレである。


「大臣、八戸市及びむつ市にある地方協力本部とは連絡が付いています。」

『大湊分屯地のレーダーサイトとの連絡は以前ついていませんが、連絡途絶時刻に付近を飛行していたE-2D早期警戒機からの報告では特に電波妨害などの攻撃は無かったとの事です。』


 第9師団長及び航空総隊警戒航空団からの報告に目の前の人間、防衛大臣はお茶を飲んで深く思慮していた。


『・・・第9師団長。』

「はい。」

『大湊及び八戸両駐屯地及び基地は敵の攻撃を受けた可能性がある。第9師団隷下の実働部隊に命じてむつ市及び八戸市に部隊を展開しろ。必要に応じて他師団からの抽出も許可する。』

「隊員に危害が及んだ場合は?」

『防衛出動命令や治安出動命令はまだ発令されていないが、必要に応じて私の名前で対処しろ。』


 それはつまり何か起きた場合は防衛大臣の責任になり、最悪の場合は刑事告訴される可能性があるという事だが、そんな事は百も承知とばかりに防衛大臣は命令した。

 実務上自衛隊のトップは防衛大臣であり、部隊の長である師団長は防衛大臣による命令は断れないのだ。

 最もトップダウンとしてはおかしいのでこの後、間に陸上幕僚長と東北方面隊総監部長が入り命令を下すのだろうが、武装した自衛官が市街地に展開するという事が現実になった瞬間であった。






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