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異世界漂流記  作者: YF-23
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3.異変

 


 西暦2032年7月18日 日本国 東京市ヶ谷 防衛省


「ここ最近になって中国軍の通信が急増している?」

「はい。情報本部電波部からの報告でここ最近になって主に海軍と見られる通信が急増しています。またNSAからも同じような情報提供が。」

「そうか・・・」


 防衛大臣は情報本部と呼ばれる情報機関からの報告を受けていた。

 ちなみに日本は近年になってようやく法整備が進んだ事でアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが参加・加盟するファイブアイズに参加し、6ヵ国目の加盟国となった。

 そしてファイブアイズにはその協定の出先機関が存在する。

 アメリカならNSA、イギリスならGCHQ、カナダならCSE、オーストラリアならASD、ニュージーランドならGCSB、そして日本はDIH、防衛省情報本部である。

 つまり、何が言いたいかと言うと、情報本部はそう言った他国の情報機関との関係が深いのだ。


「今の時期に虎の子の第5護衛隊群を演習に参加させたのは不味かったか?」


 防衛大臣は今のこの時期に貴重な戦力を自国から遠く離れた場所に演習させるべきでは無かったか、と悔やんでるように見えた。

 今も昔も島国である日本で最も重視されるのは海、つまり海上戦力である。

 最も、護衛艦隊は常にローテーションを行なっており1個護衛隊群は常に演習をしてるので近海でするか遠海でするかの違いでしか無いのだが、自国から遠いというのはそれだけでもう既に不利なのだ。


「いえ、我々の推定している戦域は台湾及び先島諸島ですので、演習とは言え弾薬や燃料を満載している大艦隊を既に準備出来ているので問題ありません。それに演習にはイギリスやフランス、イタリアも参加しており、イタリアはともかくフランスとイギリスは太平洋に領土を有してますので参戦はしなくとも支援を受けられると考えてます。」


 情報本部長の根拠は日本がイギリス及びフランス、イタリア、オーストラリアと結んでいる物品提供協定である。

 この協定により日本は有事の際に英仏から情報や物資などを提供してもらえるのだ。

 そしてイギリスとフランスに至っては太平洋権益保持の観点から、オーストラリアは自国の安全保障の観点から台湾有事の際に参戦する可能性も高い。


「どちにしろ人民解放軍での通信量が増大してるのは有事になる可能性が高い。南西方面を中心とした各部隊に警戒するように指示を出す。まぁ、恐らく今回も訓練だと思うがな・・・」

「分かりました。我々も全力を尽くします。」


 そう言って情報本部長は敬礼の後に退出した。

 そして、ここと同じような事がアメリカ、オーストラリア、韓国、イギリスで行われていたのはこの時はまだ誰も知らない。





 西暦2032年7月18日 日本国青森県八戸市 陸上自衛隊八戸駐屯地


 陸上自衛隊八戸駐屯地は青森県八戸市の海岸沿いに位置する基地で海上自衛隊八戸航空基地と隣接し、演習場も隣接しているので日本の基地としてはかなり大きく見える。

 そんな八戸駐屯地に配備されているのは元の東部方面隊混成団隷下の普通科連隊から変更された第38即応機動連隊と12式SSMを有する第4地対艦ミサイル連隊、そして03式中SAMを有する第101高射特科隊、そして東部方面隊隷下の第9飛行隊及びその支援部隊などである。

 最も他にも第305基地通信中隊や第108全般支援大隊補給中隊などの各種支援部隊が駐留しており、青森駐屯地と並んで陸上自衛隊第9師団の中核を成す大規模な駐屯地なのだが、そんな八戸駐屯地及び隣接する海上自衛隊八戸航空基地で異変が起きていた。


「何?有線が使えない?」


 八戸駐屯地司令の荻谷一等陸佐は八戸派遣隊所属の一等陸尉からの報告を聞き、訝しげに口に出した。

 八戸駐屯地には東北方面通信群の第305基地通信中隊八戸派遣隊が駐屯しているが、この部隊は主に無線通信からレーダー整備などの通信組織の構成・維持・運営を主任務としている。

 八戸駐屯地には第9師団司令部の青森駐屯地、東北方面総監部の仙台駐屯地、陸上幕僚監部の市ヶ谷などに有線が引かれており、隣接する八戸航空基地からも大湊基地や付近の分屯地などに有線が敷かれている筈であった。


「敵のゲリコマか?」

「市ヶ谷や他の駐屯地との秘匿通信網は内部でも知ってる人が限られる重要機密です。それに他の基地間通信は問題無いので恐らく機器の故障又は自然現象による通信線の断絶かと。一応情報保全隊が中心となって調査するそうです。ちなみに反対側の八戸航空基地及び海自の大湊基地との通信は可能です。」


 確かに敵の破壊工作なら非効率過ぎるか、と駐屯地司令は思った。

 確かに八戸駐屯地及び航空基地は複数の部隊が駐屯するそれなりの規模の基地だが、所属する第9師団は青森駐屯地に司令部が有り、東北方面隊総監部も仙台駐屯に司令部がある。

 破壊工作なら優先度は低くは無いが、八戸駐屯地よりも優先度の高い場所はあるので破壊工作の可能性は低い。


「ただ情報保全隊が動くのは相当な事だな。警衛隊に警戒レベルを上げるように伝えてくれ。」

「分かりました。」


 駐屯地司令からの命令を受け取った一等陸尉は敬礼の後、音を立てないようにゆっくりと扉を閉めて駐屯地司令官室を退出した。

 ちなみに警衛隊とは駐屯地警衛隊の事で主に駐屯地の出入者や武器庫、弾薬庫の監視に当たり、もしもの際には実力で侵入者の制圧を行う部隊である。

 少なくとも本丸(防衛省)のように警棒しか持ってない民間の警備員しか居ないような警備は行って無い。


「・・・数日前には訓練の為に弾薬も運び込んだし、何処からか情報が漏れてるか?」


 日本のインテリジェンスは諸外国に比べて低いと言われるが、自衛隊だと防衛大臣直轄の情報保全隊や情報本部が存在し、他国に対する情報攻撃ならともかく、防諜体制はそれなりに整っている。

 少なくとも各駐屯地間の秘匿通信網を他国(同盟国も含む)に知られる程情報保全能力は低くは無い。

 防衛省や重要施設には常に通信妨害が行われており、この部屋も専用回線以外は携帯すら使えない。


「一応、海自と相談しとくか・・・」


 そう言って駐屯地司令は隣接する海自基地の基地司令室と繋がる電話に手を伸ばした。





2032年7月19日、アメリカ合衆国ハワイ州オアフ島 パールハーバー・ヒッカム統合基地司令室


「少将、よろしいですか?」

「構わん。なんだ?」


パールハーバー・ヒッカム統合基地の基地司令室で司令が休暇中なので太平洋艦隊の最上位指揮官を有する副司令は海事作戦主任の少将にそう答えた。


「沿岸警備隊の第13管区方面隊からの報告なのですが・・・」

「沿岸警備隊?何かあったのか?」

「日本の横浜からサンディエゴへ向かっていた防衛省の弾薬輸送船の計2隻が消息を絶ちました。」


その情報に副司令が考えたのは仮想敵国からの攻撃である。


「なに?2隻共か?」

「はい。サンクレメンテ島で行われる演習の為に弾薬等を移送中でした。」

「捜索は?」

「場所はハワイ諸島北東2300kmで現在、熱帯低気圧により近海の天候は最悪、航空機は飛ばせないそうです。」


日本の海上保安庁は軍ではなく警察組織だが、アメリカの沿岸警備隊はれっきとしたアメリカ合衆国軍を構成する組織である。

海上保安庁と自衛隊とは比べ物にならない程の情報共有が行われていた。


「日本は?」

「既に把握しています。天候が落ち着いたら我々にも捜索に協力して欲しい旨が防衛省や海上保安庁より要請が来てます。」

「そんなに荒れていたのか?」

「国立ハリケーンセンター曰く、急速に発達した為既に2桁隻を超える船舶が消息を絶ったそうです。」


その時点でかなりの大ごとなのだが、民間船が幾ら沈もうが、それは彼等が経済活動を優先したからであって副司令の彼にはどうでもいいことだった。

ただ、そんな中に派遣される沿岸警備隊の隊員に大して少し不憫に思うだけだ。


「クソッ!NHCは無能か!?」

「管轄が中部太平洋ハリケーンセンターとの中間付近だった為、警戒の通達が遅れたそうです。」

「ちょっと待て、連合艦隊は?」

「・・・予定通りなら嵐の中です。」

「旗艦は【トリエステ】だったよな!?直ぐに警報を!」

「既に受信済みです。」


優秀な軍人はそんな事は言われなくても行動に移していた。




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