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異世界漂流記  作者: YF-23
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2.異常事態発生

 


 西暦2032年7月17日 太平洋ハワイ諸島沖合 


 東アジア諸国から北米大陸を結ぶ太平洋航路、その中の1つのルートを航行している2隻の大型船が居た。

 大型船と言っても双方共に総トン数三万t程度で数十万tの貨物船やタンカーが無数に航行している太平洋航路の中では小型な分類である。

 2日前に佐世保港を出航した彼らは同日中に神戸港に入港、その日のうちにアメリカ合衆国西海岸サンディアゴに向けて出航した。

 小笠原諸島沖で横浜港を出航した輸送船に合流して、現在ハワイ諸島沖までやってきたのである。


「船長、予定航路で進みますと例の低気圧にぶつかります。CPHCも警戒クラスを上げてます。」


 CPHC、アメリカ合衆国国立気象局中部太平洋ハリケーンセンターの気象観測網はハワイ諸島を中心に太平洋航路全てを網羅する勢いで張り巡らされている。

 それにより得られた情報を調査して警戒クラスを上げているのだから、この船はそれなりの嵐に突入するのだろうと船長はその時を想像し憂鬱になった。

 日本が高度経済成長の際にはその嵐を舐めた結果、多数の大型船が嵐に突っ込んで沈没したが、今の観測技術や航海技術では嵐で沈没する事は殆ど稀である。

 それこそ一万tを超える大型船ならば余計にそうだ。

 側に航海レーダーに映っている前後左右多数の他船舶は警戒クラスが上がった事など気にも留めずに国際避難港が多数指定されているハワイ諸島に向かわずに日本や中国、韓国そしてアメリカなどの各々の目的地へ向かって航海を続けている。


「そうか、なら荷物がアレだしお客さんにも伝えておいてくれ。」

「分かりました。」


 船長の指示で船員の1人が乗客である自衛隊に報告しに行く。

 自衛隊の装備について詳しい事は知らない船長だが、佐世保港や神戸港で物騒な荷物(ミサイル)を積み込んでたのは知ってる。

 天候が悪化して船が揺れるのが分かってるならば専門家達ならば荷物を固定するだろうとの考えによる指示だった。


「まぁ、今更固定する物など無いと思うがな。」


 船長は誰にも聞こえない声でそう呟いた。

 嵐で崩れるような固定ならばもうとっくに崩れてるだろうとの考えからだった。

 そんな船長の思っていると、艦橋の窓にポタポタと水滴が付き、それは次第に増え、やがて激しく叩きつけ始めた。




 西暦2032年7月17日 アメリカ合衆国 ハワイ州オアフ島沖合


 オアフ島沖のアメリカ海軍演習海域を撮影用の距離で固まって航行しているのは先日パールハーバーを出航した日米英仏豪のサンディアゴに向かう連合艦隊である。


 連合艦隊の内訳は海上自衛隊が航空機搭載護衛艦【あかぎ】ヘリコプター搭載護衛艦【いせ】多目的イージス護衛艦【たかお】イージス護衛艦【はぐろ】多機能護衛艦【もがみ】【のしろ】【よど】多目的輸送艦【のと】【きい】補給艦【おうみ】の10隻、うち【いせ】【はぐろ】【もがみ】の3隻は途中で艦隊から離脱する。

 そしてアメリカ海軍がイージスフリゲート【コンステレーション】【チェサピーク】揚陸輸送艦【グリーンベイ】の3隻。

 イギリス海軍は空母【クイーン・エリザベス】フリゲート【ベルファスト】【シェフィールド】艦隊給油艦【タイドサージ】の空母を中核とする空母打撃群4隻。

 フランス海軍は海外領土のニューカレドニア配備艦艇から抽出した駆逐艦【ブルターニュ】とフリゲート【シュルクーフ】の近海哨戒艦隊2隻。

 一方のオーストラリア海軍はイージスフリゲート【ハンター】強襲揚陸艦【アデレード】の揚陸小艦隊2隻。

 そしてイタリア海軍は軽空母【トリエステ】の護衛も無い1隻のみである。

 海上自衛隊の戦力が突出しているが、うち3隻は途中で分離し、目的地のサンディアゴではアメリカ海軍艦艇7隻が待っているので別段多くはない。


「で?なんでウチが旗艦なん?」


 写真用の輸形陣に並んで航行する艦隊のど真ん中、具体的には空母【クイーン・エリザベス】と【あかぎ】に左右を挟まれた場所の艦橋で軽空母兼強襲揚陸艦【トリエステ】の艦長は今の状況についてそう愚痴った。

 今回のような多数の艦艇で移動する場合には基本的に艦隊もしくは船団の指揮をとる旗艦を取り敢えず設置するのが通例で、今回は指揮通信機能を有し、他の艦艇からヘリで向かえるという理由から【トリエステ】が旗艦となっていた。


「イギリスと日本は航空戦力を運用しており、アメリカ、オーストラリア、フランスは旗艦となる指揮通信能力を有した艦は保有していない。その為、我々が旗艦になりました。」

「いやいや、日本の【いせ】があるよね!?」

「彼等は途中で離脱するので辞退しました。」


 この時、途中まででもいいから【いせ】に旗艦をお願いしたかったと思ったのは内緒である。

 ちなみにいかにも指揮機能がありそうな図体をしているオーストラリア海軍の【アデレード】だが、有しているのはあくまで上陸部隊に対する指揮能力であって、決して2桁にも登る艦隊の指揮をこなす能力は一切無い。


 この艦隊の中でその能力があるのは艦隊の中核となるべくして建造された空母【クイーン・エリザベス】【あかぎ】【トリエステ】【いせ】の4隻だが、この中で最も艦隊の指揮能力が高いのは【いせ】である。

 最もイタリア海軍の面子上、譲る事はしなかったようだが。


「両側に正規空母に挟まれて指揮するのか〜」

「能力的にはこの【トリエステ】も同等クラスは有してるんですけどねぇ。」

「同等じゃねぇよ!天と地程の差があるわ!」


 副長の発言にキレかける艦長、ちなみ正規空母とかいう区分は第二次大戦を最後に無くなっているので艦長の発言は間違ってるのだが、使ってる人は今でも普通に使ってるので放置しておく。

 そして航空機運用能力は【トリエステ】が約12機、【あかぎ】は3.5倍の約40機、【クイーン・エリザベス】に至っては4倍の約50機にもなるので天と地程の差は言い過ぎでも同等クラスと言うのは盛り過ぎである。


「あの〜艦長、少しよろしいですか?」

「すまん、なんだ?」


 艦長と副長の怒鳴り合いに少し気後れしたのか恐る恐る艦橋に入って来たのは気象海洋員である。

 具体的に何をする仕事かと言うと、様々な気象データを集めて航海ルートの作成を行う担当だ。


「この先のルート何ですが、低気圧が発達して来ておりCPHCが警戒レベルを上げましたので強行するか迂回するかの判断をと思いまして・・・」

「ふむ、一応他国艦の演習だから入港日を遅らせる訳にはいかんな。」


 そう言って艦長はふと視線を隣をピッタリと航行している航空機搭載護衛艦【あかぎ】へと向けた。

 多少の時化ならば仕方が無いが、この船は軍艦を有した艦隊である。

 そしてこの艦隊には揚陸艦や空母と言った多数の精密機器を搭載した艦艇が多数居る。

 その為、少しの判断ミスが大事故に繋がる恐れがあった。

 別の理由を言えば、穏やかな地中海で運用する事を想定された【トリエステ】はイタリア海軍の伝統を受け継ぎかなりの重武装なのだ。

 つまり、不測の事態が起こる可能性があった。

 最も、【トリエステ】を建造した造船所はこれまで多数の外洋を航行する豪華客船を多数建造・修理して来た会社であるのでその心配は無いと言い切りたかった。

 そしてそのような事案を考慮した結果、艦長兼連合艦隊司令は決断した。


「航海ルートは予定通りに進む。ただ、時化になる可能性を含めて各国の担当官に通達してくれ。」

「分かりました。では、そのように。」


 会議室に居る各国担当官に通達しに早足で向かう気象海洋員の後ろ姿を見て艦長は何か間違ってるような異様な不安を感じた。

 だが、ここで迂回という選択肢をとった場合に各国担当官からの何故何に?に答えられそうに無いので艦長はその不安を押し殺した。


(正しい判断をした、俺はな・・・)








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