幽霊翔輝は現実か?
場所は学校。敷地内に咲いていた桜もすっかり緑に染まった五月中頃。新入生であるわたしはもう既に、ある出来事に悩まされているのです。それは……
「非常に……言い難い事なのだが……瀬戸翔輝くんは……昨日亡くなってしまいました……」
『ほらな?死んでるだろ、俺』
正直わたしはこれを聞くまではまだ疑っていた。全てわたしの原因不明の幻覚によるものでは無いのか、ということを。
だけど、これではっきりしてしまった。本当にこの翔輝は幽霊なのだと言うことが。
(そう……みたいだね……信じ難い事だけど)
『まぁ、自分でもこんなことになるとは思わなかったけどさ』
クラスの雰囲気がめちゃくちゃ重い。それについていけないわたしが浮いているように感じて落ち着かない。
「先生……本当に……えっと……」
クラスの一人が何か言おうとするが雰囲気に飲まれて言葉を繋げられなくなったのか、黙り込んでしまう。
「詳しい説明はこの後の緊急朝会でされるだろう。その後、何か質問がある人は私に質問しに来てくれ。答えられる限りで答えよう」
『なんか、自分の死んだ後を見てるのは変な気分だ』
(そうだろうね)
その後、直ぐに体育館に全校生徒が集まり、先生方から詳しい説明があった。それによると、死亡したのは昨日の夕方、旧校舎の方で遺体が発見された。おそらく飛び降り自殺だろうという事だった。後はいじめだとか、心当たりがある人はぜひ情報を、との事。
(で、実際あったの?)
『いや、全く』
(……本当に蜘蛛に操られたわけ?)
『まだ疑ってんのかよ……』
(幽霊がいたら妖怪もいる、なんて安直には信じられないよ。……まぁ、可能性は上がるかもだけどね)
話は翔輝のことだけだったらしく、結構早く教室に戻れた。ただ、今度は簡単なアンケートがあるらしく、白紙の紙が配られ、心当たりがあれば書くように言われた。
(ねぇ、これなんて書けばいいと思う?)
『別になんも書かなくていいだろ』
(……そうだね、信じてもらえるわけも無いし)
何も書かずに二つ折りにして先生に渡す。その後は何か先生が話していたけど、翔輝と話しているうちに終わってしまった。
「ねぇ、奏ちゃん…その、翔輝くんって奏ちゃんの幼なじみだったよね…」
「ああ、うん。そうだよ」
休み時間になって、後ろの席の雛森茜さんが話しかけてくる。その顔はわたしを心配しているようで、少し申し訳なく思ってしまう。
「ごめんね、ちょっと、大丈夫かなって……」
「大丈夫だよ、大丈夫。元気だから、わたし」
(やばい、こういう時なんて言えばいいかわかんないよ!)
『死人に聞くなよ!俺だって分かんねえよ』
焦って返答したわたしに、雛森さんはもっと心配そうな顔をする。
「そう?……本当に無理してない?」
「うん、本当に大丈夫だから」
「そう……」
……絶対に大丈夫じゃないって思われてるよこれ。これからも友達みんなこういう感じに接してくるのかな……どうしよう。
(どれもこれも翔輝が勝手に死んだのが悪いんだからどうにかしてよ!)
『死にたくて死んだわけじゃねえよ!』
(あっごめん)
『微塵も思ってなさそうな返答どうも』
あれこれ翔輝と言い合っているうちに二時間目が始まった。とりあえず、今は授業に集中しよう。どうするかは後回しだ。
四時間目、体育。種目はサッカー。
わたしは元々運動はあまり得意な方ではない。できないという程ではないけど、運動神経が悪いとか、体力自体は足りてるけどセンスの問題だとか、多分そんな感じ。
そんな訳で体育はどちらかといえば苦手なのだが、今日はさらに嫌いになりそう。
『違う、そうじゃない!トラップはちょっと足を浮かせてボールに当てるんだよ!』
『ああっ!パスが明後日の方向に……』
『シュートか……それが……?』
……と、こんなふうにわたしがなにかする度に文句をつけてくる。多方、サッカー部としての血が騒いでるとか、そんなのだろうけどさぁ……
(ああっ!もうっ!うざすぎる!そんな指示してくるんだったらそっちがやってよ!)
『……すまん、熱くなりすぎた……ってここゴール前!立ち止まってんじゃーーー』
「ーーー危ない!!」
ーーー誰かがシュートしたボールがわたしに迫ってくる。確実に当たる軌道。わたしの脳はそこまで理解するのが限界で、防御も出来ずに……
『うおっと、危ない危ない……って今の、俺が?』
(あれ?避けれた…?)
そのボールはそのままゴールネットを揺らし、その数瞬後試合終了の笛が鳴った。
「危なかったー、ごめんね。大丈夫だった?」
「うん、何とか避けられたから平気」
……絶対に当たったと思ったのに、何故か避けれた。身体の防衛反応とかが働いたのか?それともーー
(もしかして、今わたしの体を……)
『……そうかもしれない』
強制的な乗っ取りができてしまうのなら、流石に翔輝でも怖い。一瞬想像してしまったことを翔輝がやるはずもないとは思うけれど。
(もし、強制的に乗っ取るとかしたら……こうだよ?)
中世ヨーロッパの拷問道具、アイアンメイデンを6体思い浮かべ、翔輝の周りに鎮座させる。トゲトゲ増量サービスで威圧感マシマシだ。
『あ、アイアンメイデン?!待て待て、マジで邪なことは考えてないから!絶対にしないから!?』
(……絶対だからね?)
念押ししながら消す。というか自然にやったけどちゃんとわたしの想像の中に反映されてるみたいだ。どういう仕組みなのか純粋に気になるけど、それはまた後で。
(まぁ、今回は助けてくれてありがとうって、言っておこうかな)
『あ、ああ……』
ーーーこのとき翔輝は、神原だけは絶対に怒らせないようにしようと誓った。