アメジストの輝き
わたしの身長の2倍はありそうな黒い蜘蛛。今日の夢はこいつが敵役らしい。
……そういえば昔見てたアニメの二刀流のキャラかっこよかったな。
「よし、今回の武器はこれ!」
思い出し、枠を作り、描写する。
両手が赤と青に光り輝き、思い出した剣を再現してゆく。刃渡り60cm程度、翼のような鍔、刀身は宝石のように透き通っている。
武器の名前は……なんだっけ?……まぁいいや
「よし、想像通り!いっくよーー!」
走って距離を詰め、剣を振り上げながら蜘蛛に向かって跳ぶ。空中から振り下ろすが右前足に阻まれ、そのまま弾き飛ばされる。
しかしそれは予想の範囲内、姿勢を制御して着地。
「まだまだー!」
地面を蹴って蜘蛛に肉薄。そのままの勢いでさっきわたしを弾き飛ばしてくれた右前足に斬る……浅い。
痛みに怒ったのか蜘蛛が牙で攻撃してくる。
「あぶなっ!」
間一髪で剣を当てて受け流し、そのまま転がるように蜘蛛の下へ入り込み、ついでにと腹を斬りつけて蜘蛛の後方へ脱出。
「ふぃー結構危なかったー!ってあれ?」
右足が前に進まない。いや、後ろに引っ張られてる?
「ふげっ!!」
転んだ。流石に後ろから糸で足を引っ張るのはひどいと思う。なんて考えているうちにどんどん引きずられていく。足首に絡んだ糸はバランスを崩した今、容易には切れそうにない。
後ろを見れば蜘蛛が牙を鳴らしながら飛び掛るタイミングを見計らっている。
……剣だけで戦うのは諦めるかな。
「しょうがない、ビーム使おう。」
手を銃の形にして……
「ばん!」
糸を狙って放たれたビームはそれを容易に焼き切り、わたしを解放する。蜘蛛は呆然としているのか、カチカチと鳴らしていた牙が止まっている。
「やっぱり強すぎるとつまんないよね……でも今回はビーム使っちゃったしもう縛りはいいかな」
次見る夢はもっと頑張って剣で戦ってみよう。そう心に誓いながら未だ呆然としている蜘蛛に腕を向け……
「これでおしまい」
蜘蛛の周りが突如煙に囲まれたかと思うと、煙を割いてでる影が七、その姿は……人間大のクマのぬいぐるみだ。
「攻撃開始!」
わたしの合図で一斉に蜘蛛に飛びかかるクマたち。後は観戦しているうちに終わるかな。見た目はただのぬいぐるみだがその腕には重りが詰められているから攻撃力も結構ある。
適当にソファを創り出して座って眺める。意外と蜘蛛も頑張っているみたいで、時々反撃を入れられたクマが軽く吹っ飛んでいる。
少しその様子が面白くて結構夢中な感じで見ていると……
「……ねぇ」
「っ!……なんだ、十花さんか、もう!わたしを驚かせるのが趣味なの?!」
「いえ、そういうつもりではなかったんですけど……というより、神原さんはなんで銀髪に?」
「うーん…私にも分からないけど」
……わたしの夢に他の人が出るなんて珍しいな。大抵わたしと敵役の二人しかいないのに。
ーーーあれ?そういえばわたし学校に探検しに来てたような……?たしか十花さんも一緒に。
「あの、あの蜘蛛とクマは何?」
「ん?蜘蛛の方は、今回の夢の敵役さんで、クマの方はわたしが創ったやつ」
「そ、そうなんですか…」
……なんだろう、十花さんがちょっと引き気味な気がする。
……まぁたしかに大量のクマに寄ってたかって殴られる蜘蛛の様子はちょっとあれかなぁとは思う。
「この場所は一体なんなんですか?」
「え?わたしの夢の中だよ?」
十花さんはわたしの返答を聞いて唖然としている。なんでだろう?逆にここが夢でなくてなんなのか。
……そういえば夢に出てくる人が自分の居場所を気にすることって今までなかったな。
今日の夢はなんか変な感じだ。
「じゃあーーーあれ?これは……」
「クマのぬいぐるみの腕だね」
十花さんがなにか言おうとした瞬間、わたし達の足元に何かが転がってきた。それはクマの腕のパーツだった。
蜘蛛の方を見ると、7体いたクマは最後の一体を残して全て物言わぬ残骸となっていて、残りの一体も満身創痍といった感じ。先程の腕もこのクマのものらしい。
「凄い……もうこれで終わるかと思ってたのに!」
「でも蜘蛛の方もかなり消耗しているみたいですね。全身をくまなく殴られたあとがくっきりと……」
「……クマだけに?」
「ちっ、違うよ!意図して言ったわけじゃないです!」
焦って言い返してくる十花さん。ただ、これ以上会話している暇は無さそうだ。
最後のクマが致命的なダメージを受け、綿をまき散らして動かなくなる。蜘蛛も大分ダメージを受けているみたいだがこちらの様子を見るその目にははっきりとした敵意が込められている……気がする。
「よし、じゃあ最後は必殺技で決めよう!」
最初に使った双剣を再び創る。一回創ってしまえばもう一度創るのは楽なこと。瞬く間に現れる赤と青の二振りの剣。確かこの武器の必殺技は……よし!思い出した。
「再結晶…変成、アメジスト!」
両手の剣を重ね合わせ、唱える。
剣自体が光りながら変化を始める。パキパキパキ…と音を立ててふたつがひとつになってゆき、光が収まったその時には、綺麗な紫色に輝く太刀がそこにあった。わたしの身長ぐらいの大きさ。だけど夢ならば容易く持ち上げられる。
その鋒を蜘蛛に向け……
「散り際はせめて美しく…紫水晶の破片を散らしなさい…!」
決めゼリフ、それとともに振り下ろされた刀からは紫色の光の奔流。一瞬で蜘蛛を飲み込み……過ぎ去った後に残されたのはその体をアメジストに変えた蜘蛛。その体はそのまま留まることはなく、数瞬のうちに砕け散った。
夢の中なので精神年齢が大分下がってます。テンションmaxです。お友達が見てても何も恥じらうことなく女児向けアニメのキャラを演じます。