夢に捕らえる不思議な力
少し短めです
村川さんの体が力を失ったように倒れそうになるのを受け止め、払い飛ばしたはずの蜘蛛の姿を探す。
何しろ八センチはあるデカい蜘蛛だ。そう簡単に見逃すはずがない。
『うわっ!わたしの夢に蜘蛛がいきなり出てきた!しかもなんかでかい!』
……どうやら蜘蛛は神原の夢に入り込んだようだ。触れると夢の中に入れられるのか?本当に詳しい原理が全く分からないが状況からみてそうだろう。
(どう?倒せそうか?)
『待ってて、一瞬で倒す』
その声とともに聞こえたのはおびただしい数の爆発音。一体何を……?
『どうだ!全方位ダイナマイト爆破だ!消し飛べーー!!』
……めちゃくちゃエグいことやってた。
なんか性格変わってないか?いや、元々こんなんだった気もするな。
「う……ん……あれ?」
蜘蛛の制御を失って倒れた村川さんが困惑の声をあげる。どうやら目が覚めたっぽい。
「あっ村川さん目が覚めた?」
「うん……ええと、ここは?」
「ええと、なんか村川さん夢遊病みたいにふらふら出ていっちゃって……」
説明難っ!どういえばいいんだこれ……えーと……
「とりあえず保健室行った方がいいよ。俺……いや、わたしも着いていくからさ。」
『蜘蛛倒してきたよって、うわっ……それわたしの真似?』
(そうだよ、仕方がないだろ?)
『そうだけどさ……』
理不尽なことに神原に不服そうな感情を向けられながらも、俺は村川さんを保健室へ連れーーー『もう入れ替わってる必要はないよね?』ーーーて行こうとしたがそれも叶わずあっさりと身体の主導権が神原に渡った。
久しぶりに身体を動かす気分を味わえたからもう少し堪能していたかったんだけど……神原の想像内はどうも動かした気にならないんだよなぁ……
その後は、村川さんを保健室に連れて行って今回の事件は幕を閉じた。
今回のことで分からないことも増えたし、一つづつ知っていきたい。特に神原の夢は本当に分からないことだらけだ。今度何ができるのか聞いてみよう。
ただ、今回の件で入れ替わりに慣れてしまったせいか……
『じゃ、今日の体育の授業宜しくね?変なことしたらアイアンメイデンの刑だから』
(はい……)
あれほど渋っていた身体の主導権の受け渡しも、ちょっとした検証で俺より神原の権限が強いことが明らかになった。
そしてその結果、何かと扱き使われるようになってしまったのだった。
◇◇◇◇
ーーーまたこの感覚だ。まるでさっきまで紐に繋がれ浮かんでいた風船が割れた音もせず消滅するような奇妙な感覚。
「今回も場所は同じ……この周辺を拠点としているのか?」
つい最近にも蜘蛛が殺されたことはあったが、ちゃんと蜘蛛が戦闘状態に入ったことも確認できたし、殺される……風船に例えれば割れる瞬間も知覚出来た。
「ふふっ……そろそろ穴蔵に篭もるのも飽いていた所。少しばかりあの方の指示に背いてしまう形にはなるが……直接出向いてやろう」
周辺の使い魔に指示を出す。十数匹の蜘蛛が私の懐に、それ以外は蜘蛛消滅現場周辺に放たれていく。
「決行は明後日。首を洗って待っておれ、我らの道を妨げる者よ……」