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ある日の夢の出来事

ーーーその場所には常識なんてものは存在しなかった。

そこにある全てのものははっきりとした形はなく、不気味に物と物との境界線が揺らめいている。

この世界の主と侵入者を除いては、だが。




どういうことだ!?あの女、何処にこんな霊力を秘めてやがる?


あらゆる角度から飛んでくる無駄にカラフルなボールを避けつつ、周囲を取り囲む糸を一瞥し突破口を探す……左上か。


俺の胴を狙う糸を剣で切り払い、飛んでくるボールを避け必死にこの不可解な空間からの脱出を目指す。

攻撃はどれもこれもファンシーな見た目をしているがまともに喰らえば確実にロクなことにはならないだろう。度重なる攻撃に弾き飛ばされた剣が謎の爆発を起こすのを視界に捉えながら次の剣を作り出す。


「おおー避けるねー」


俺が必死になっているというのにあの女なんで気楽さだ。こんなことになるなら下手に取り憑いて遊ぼうなんて思うんじゃなかった!

自らの軽率な行動に後悔しつつも思考を回す。


そもそもこの空間はなんだ...?結界術に近いようだが内側をここまで変容させるような術など聞いたことがない。それにーーー


「今度は花火だよー」


気の抜けるような声が聞こえ、その瞬間下の方から爆発音。それも複数回。

ひゅるるるる・・・と音を立てて高速で迫ってくるそれは、異常な大きさの蕾だ。


「火の要素はどこ行った!?」


何より異常なのは術の自由度が異常に高いことだ。まるで今この瞬間脳裏によぎった光景をすぐさま映し出しているかのような……


蕾が運動エネルギーを使い切り落下運動に変わるその瞬間、強烈な爆発音とともに花弁が撒き散らされる。

狙い無しに撒き散らされたそれは瞬く間に視界を埋め尽くして。


「死っ…いや、まだ……だ!」


切れかけた集中を全力で張り直す。

思考とも呼べぬ意識の断片と本能の警告を頼りに躱し、いなし、弾き、突き抜ける。


「避けきった!」


やり切ったという達成感と共に最後の花弁を切り飛ばし……そして一気呵成に敵へと向かう。逃げることなどもう考えない!少なくともあれを殺せば脱出できるはずだ!


「うおぉぉぉおお!!」


相手は間違いなく油断している。ならば速攻で無理矢理にでも首を獲りに行く!


「じゃあ、今度はこれ!」


まるでそれには注意を払っていないように少女がゆっくりとそう言うと突然巨大な人形が目の前に出現する。……そのとてつもなく大きな拳を腰だめに構えて。


「あっぶなっ!」


その巨体にに似合わぬ速さで放たれた拳をギリギリで躱しまた敵の方へーーー


ぐんっと右足を引っ張られる感覚。なんだ?一体何が……


見れば足に先程の人形のほつれた糸が絡まっている。それをすぐ切り離そうとしたが瞬く間に何処からか伸びてきた糸が、切ろうとした右腕に、左腕に、そして最後に左足に。恐ろしいくらいの糸の精度でしっかり結ばれ、見事に四肢を拘束されて宙吊りだ。そしてそのまま少女の前に連れていかれる。




「……で、俺をどうするつもりだ?」


俺の問いになんでもないふうに少女は言う。


「悪者は最後には退治されちゃうでしょ?」


……全く、とことん俺はツいてないらしい。とんだサイコパスに捕まってしまったようだ。


少女は右手を何もない空間に突き出し……否、そこには当たり前かのように剣が存在していた。


駄目だ、こんな至近距離で見ているのに出現の瞬間も霊力の動きも捉えられない。

そのまま徐に剣を上段に構え、何故かキラキラとしたエフェクトが舞い散り、振り下ろさーーー




ピピピピピ……




ーーーまるで試合終了の合図かのように電子音が響き渡る。今にも俺の身体を裂かんとしていた刃が止まる。


「あーあ、そろそろ起きないとか」


「……は?おい待て!」


「じゃあこれでおしまい!じゃあね!」


少女はそう言い残すと境界線があやふやになり、霧の様に消えていく、と同時に世界もあやふやになっていき……

一体なんだったんだ、なんて考える間も無くその世界からはじき出された。




ーーーはっとして目を開く。

まるで今までの攻防は全てが夢だったかのように、世界は輪郭を取り戻し、あの忌々しい女もいない。


「さっきのは、一体……?」


その疑問に答える者などなく、声は昇り始めた日の光に消えていった。






◇◇◇◇


ピピピピピ・・・・・


起床のアラームが鳴る音が聞こえる。少しずつ思考が冴えてくる。

ゆっくりと伸びをして今日見た夢を思い出す。それにしても惜しいところだった。もう少し遅くアラームをセットしていればキリ良く終わったのになぁ。


それにしても今日は特に鮮明でたのしいゆめだった。いつか続きを見られたらいいな。


そして少女は日常に戻ってゆく。

自らの成した出来事を全て夢として考えながら。

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