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令和百物語  作者: みるみる
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第九十三夜 お盆


「お母さん、ただいま。」


「ああ、おかえり。」


私達家族は、一泊二日の予定で母の家に帰省しました。


仏間に持ってきたお供物を供え、手を合わせると、仏壇には沢山のお供物が飾られていました。スイカに素麺、ラクガンに水羊羹、野菜ののった盆に、熨斗のついた菓子折など、所狭しと置かれていました。


「皆んなもうお参りに来たんだ。」


「ああ、朝早くに皆んな来たよ。また夕方の食事の頃に集まるんだけどね。」


「ママ、これ。きえい、きえい。」


盆提灯の光に誘われて、娘が仏間にやって来ました。提灯の模様が、影絵のようにキラキラして綺麗だと言いたいのでしょう。


「由羅ちゃんもきたの?提灯の灯りキレイねぇ。くるくる回ってるねぇ。」


「わぁ。あっ、あか。あお。」


「そうだね。色んな色があるねぇ。」


私は娘の由羅を抱き上げ、客間に横になっていた夫に託しました。


「‥‥えーっ、せっかく夕方まで寝ようと思ったのに‥。」


「だから、こっちは夕方までにやる事があるんだって。‥寝るなら由羅と一緒に寝て。」


「おっそうか、由羅も寝るか。おいで。‥朱里は由羅のタオルケット持ってきて。」


「あっ、はい。‥由羅、パパとお昼寝ね。」


「あい。由羅、パパと寝ゆ。」


私は急いでタオルケットを探したが、見つからなかったので、旅行鞄の中のバスタオルを持っていきました。


客間に入ると夫と由羅はすでに寝ていました。私はバスタオルを由羅にかけると、台所へ行き、母と夕食の準備を続けました。


「そう言えば、うちって迎え盆は今日だったよね。13日だもんね。‥皆んなが来る前にお墓も行かなきゃ。」


「‥お墓参りは‥昨日墓の掃除もしたし、今朝私がお参りもしたから、大丈夫。行きたい時に行けば良いよ。」


「‥そんなもんなの?」


「家はそれで良い。‥どうせ墓には誰もおらん。皆んな家にもう来とる。」


「‥ご先祖様達が家に帰ってるの?」


「‥墓から来たかは知らんが、二人新しいのも来とる。」


「‥お母さんって、そういうの視えたんだ。ねぇ新しいのって、まさか一昨年死んだ父さんも幽霊になって来てるって事?」


「‥‥。」

 

「あっ、私出るね。」


ピンポーン、


「ちわーっす。ことぶき寿司です。お寿司のお届けに来ました。」


「どうもー、玄関に置いといて下さい。」


「はーい。じゃあ、また明日器取りにきまーす。」


元気の良いお寿司屋さんのアルバイトが、寿司を配達してくれました。


私は玄関を開け放しにして、台所へ戻りました。これから来る親戚達が、ピンポンを鳴らすたびに対応していたら、支度が何も進まないからです。


案の定、予定よりも早く親戚達は集まり始めました。夫と由羅も昼寝から覚めて、すでに宴会に加わっていました。


「‥‥そうか。由羅ちゃんは、まだ3歳か。じゃあビールは駄目だな。アハハ。」


「ゆら、シュワシュワのむ!」


「おお、そうか。由羅ちゃんはシュワシュワ好きか。じゃあ、将来はビール好きになるな。そしたら、おじちゃん達と飲もうな。」


「おーい、朱里さん。由羅ちゃんにサイダーか何か持ってきてくれ。」


「はーい‥。」


私は追加のビールやつまみ、炭酸ジュースを持って客間に入りました。


「‥‥‥これで全員そろったか?」


「ああ、そうだな。拓也に勇介、三春に‥‥うん、揃ったな。」


「じゃあ、お母さん呼んできますね。」


「‥‥。」


私は台所の母を呼んで来て、二人で宴会の席に加わりました。おじさんの一人が、挨拶をして乾杯の音頭をとると、宴会がまた再開されました。


‥私は宴席の中に、いつもいた皐月おばさんがいない事に気付きました。皐月おばさんとは、母の姉で、私が苦手とする陰気で嫌みなおばさんの事です。


「‥お母さん、皐月おばさんいないね。」


「‥!‥やはりそうか。毎年一人分余計に席を用意しとったのは、そのせいか‥。」


「‥?」


「‥皐月なんぞ、とうの昔になくなっとるわ。」


「‥‥えっ、でも普通に喋ってたよ。それに‥。」


「お前、隅っこに二人新顔がおるのが分かるか?」


「‥ああ、若いお父さんと小さい女の子?」


「‥あれは父さんと、お前が昔に流産した子供だよ。」


「‥‥えっ?」


「‥死んだ後は自分の好きな年齢の背格好になれるんだ。それに‥あの女の子は父さんに付き合って、しょうがなくここへきた感じだな。」


「‥。」


「‥お盆に家に帰ってくる霊のだいたいが、皆んな仕方なしというか、生きてる人間がそれを求めるから来てくれているだけなんだ。‥お彼岸もそうだな。あちらとしては、こちらにそんなに用事もないしな‥‥。」


「じゃあおばさんは?皐月おばさんはなんで来なくなったの?」


「弔い上げしたんだよ。‥全く、皐月なんぞお前が産まれる前から死んどるというのに‥なんでお前が知ってるんだか。


‥まぁ、お前が産まれて来るのを一番楽しみにしてたからな。ああ見えて根は愛情深い人なんだよ。口は悪いけどね‥‥。毎年欠かさず盆の集まりに帰って来てたから、よっぽどお前は気に入られてたんだろうな。」


私は不思議な気持ちで、宴会にいる父と亡くなった娘を見ました。


亡くなって若返った父は、ニコニコしながら親戚や娘の由羅を見ていました。父は隣にいる女の子‥私の娘?と何やら話していました。


すると女の子は、由羅に近寄り、頭を撫でたり手を繋いでみたりして笑っていました。由羅も嬉しいのか、女の子の方を向いてキャッキャっと笑い出しました。


「あれ?なんだ由羅ちゃん、誰かそこにいるのかな~?アハハハ。」


「ねんね、ねんね、いゆ。」


「ねんね‥?もう眠たいのかな。おい、朱里さん。由羅ちゃんをもう寝かせておいで。」


「あっはい。」


私は由羅を抱き、隣りの和室に寝かせました。‥由羅の枕元には、さっきの女の子が立っています。


「‥綺羅ちゃん?」


私がそう言うと、その女の子は嬉しそうに笑って消えてしまいました。


綺羅ちゃん、というのは私が初めての子を妊娠して、お腹の子が女の子だとわかった時に考えた名前です。


まさかこの名を呼べる日が来るとは思わなかったので、亡くなった娘との再会に、私は嬉しくなりました。


宴席に戻って見ると、父の姿はありませんでした。


親戚達が馬鹿騒ぎをする中、静かに微笑む母の姿がありました。


「‥お盆に集まるのも良いもんでしょ?」


そう言って、母は先程まで父のいた席を見つめていました。


父のいた席には、父の好きな枝豆と焼酎と、餃子が置かれていました。


お盆にご先祖様の霊が帰ってくるのは、私達がご先祖様達の帰りを求めているからなのだ、と母が言った意味が何となく分かった気がしました。


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