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令和百物語  作者: みるみる
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第五十六夜 風鈴



リンリンリーン、リンリンリーン、


「母さん、風鈴を出したんだ。」


「ああ、良い音色だろ。咲子さんもこの音色が好きだったからなぁ。南部鉄器の風鈴は、ガラスの風鈴よりも繊細で、音も良く響くと言って喜んでたなぁ。」


昨年の秋、妻の咲子は涼介を出産して間もなく癌で亡くなった。


それからは僕と涼介と母の三人で暮していた。咲子のいない生活は大変だった。涼介のミルクにオムツ替え、夜泣きに乳児検診と、色々あったが、仕事をしながらも男手一つで頑張ってきた。


そんな中、職場の上司がお見合いの話を持ってきた。最初は乗り気ではなかったものの、今後保育園や学校が始まると、その準備や行事で忙しいだけではなく、仕事も休まなければいけなくなる。そうなると、やはり妻という存在は欲しかった。


それに何より涼介が母親を欲しがっていた。


だが、母だけはなぜか反対していた。


咲子が生きていた頃に何かあったのか、母はやけに咲子を気にしていた。




リリリリリーン、リリリリリーン、


「咲子さん、ごめんなぁ。ごめんなぁ。」


リリリリリーン、リリリリーン、リリリリリリリリリリリリリリーン、リリリリリーン、

リリリリリリリリーン、


  

ある日僕が仕事から帰ってくると、風鈴がやたらと鳴っていた。


「ただいま。母さん、何だかやたら風鈴が鳴ってるけど、どうした?」


「‥‥ごめんなぁ。」


「あれ、風もそんなにふいてないのに。風鈴、煩いからいったん外すか。」


「駄目だ、あかん。吊しといてくれ。‥咲子さんが怒っとる。咲子さんに呪われる。怖い、怖い。」


「‥母さん。何があったんだ。話してよ。」




母さんは、僕のいない所で咲子を虐めていた事を告白してくれた。


毎日の家事で大変な中、身重の時も母の病院の送迎なども頑張ってくれていた咲子だったが、母は何故か咲子が気に入らなかったそうだ。一人息子の僕をとられた気分になったからかもしれない。


食事にケチをつけて、作り直させたり、わざとテレビを独占して、テレビを見させなかったり、ご近所に咲子の悪口ばかり言っていたんだそうだ。


他にも、咲子の食べ方や話し方が気に入らないと言って、咲子をあまり居間に入れさせなかったそうだ。


咲子が妊娠中の検診日の日でも、大した用事も無いのに送迎をねだって、検診へ行けないようにした事もあったそうだ。


ところが、孫の涼介が産まれると母は咲子への態度を改めた。孫が可愛くて、ご近所にも毎日孫を自慢したそうだ。


だが、咲子の方は癌が見つかってしまった。体調は日に日に悪くなり、最後の方は、ずっと入院していてろくに会話も出来なかった。そしてあっけなく亡くなった。


その後母は、もっと咲子に優しくしてやれば良かったと後悔して毎日お仏壇で咲子を供養してたらしい。


だが、ある日咲子の遺品整理の時に日記を見つけてしまい、そこには母への恨み辛みと、「死んでも許さない!」の文字を見てしまったらしい。



「私は恨まれてるんだ。だから、お見合いも再婚も駄目だ。頼む。私が死ぬまでは三人で暮らそう。私をここへ置いていかないでくれ。」


母さんはそう言って、僕にすがりついて来た。


僕は母さんが何故僕のお見合いや再婚に反対するのか理由が分かってしまった。そして、自分勝手な母さんにどうしても腹が立ってしまった。


「母さん、母さんは涼介を可愛がっても、ミルクやオムツ替え、家事もやってくれなかったじゃないか。それに僕の子供の時だって、仕事で頑張ってる父さんに家事までやらせてたじゃないか!何にも出来ない癖に!人に頼ってばかりの癖に!母さんは僕の再婚に口を出さないでくれ!」


僕はそう言って、母を突き放した。




それから何ヶ月か後に僕はお見合いした女性と再婚して、涼介をつれて実家を出た。


再婚した女性は、母を心配してくれて同居を申し出てくれたが、僕は咲子の二の舞になる事を恐れて、その申し出を断った。


そして実家には母と咲子の仏壇を残して来た。それでも時々は、咲子の仏壇にお参りと母の様子を見には行っていた。


母は僕達が出て行くと、すぐに体調を崩して入院した。そして退院後は老人ホームに入居し、何ヶ月か後に亡くなった。


 


リリリリリリリリリーン、リリリリリーン、リリリリリーン、リリリリリーン、リリリリリーン、リリリリリリーン、リリリリリーン、


「ただいま。‥おい、それどうしたんだ?」 


「あら、お帰りなさい。今日ね、涼介と産婦人科へ行った帰りに、お茶屋さんでお茶を買ったら貰ったの。南部鉄器の風鈴なんですって。良い音なんだけど、煩いわね。おかしいなぁ、さっきまでこんなに鳴らなかったのに‥。」


妻はそう言って、幸せそうな笑顔で少し膨らみかけたお腹を、愛おしそうにさすっていた。


南部鉄器の風鈴は、まるで僕を責めるかのようにいつまでも鳴り続けた。



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