第四十九夜 スイカ泥棒
今年の夏、祖母の住む田舎ではスイカ泥棒が多発していました。
「夜中に農道に軽トラがとまってたらしいよ。次の朝見たら、畑のスイカもとうもろこしも大量にとられてたんだって。」
「畑の野菜を盗んでどっかで売ってるのかね?」
「同業者の仕業か?」
「いんや、作物育てる苦労を知った奴の犯行じゃねえぞ。スイカだって蔓が枯れる前のやつを切って持っていったり、他の作物もまだ青いやつを平気で持って行っとる。素人がインターネットや何かで売っとるのかもしれんな。」
近所では、そんな会話がよく聞かれました。
祖母自身も自宅で食べる分だけの作物を作る畑を持っていましたが、畑が小さいせいか、まだ被害にはあっていませんでした。
そんなある日の事です。祖母が自分の畑にいると、隣の敬さんの娘の奈美子が来たそうです。
「松代おばあちゃん、こんにちは。」
「ああ、隣の家の娘さんだね。こんにちは。」
奈美子は少し前に旦那さんと離婚して、今は新しい彼氏と同棲してると、敬さんからは聞いていました。その奈美子が、祖母の畑に入ってきて、畑の野菜をじっくりと見ていました。
「‥おばあちゃんとこの畑、トマトやナス、スイカにピーマン、きゅうりまであるんだ。すごい!」
「ああ、うちじゃ食べきれんで、隣のあんたのお父さんにもたまにあげとるよ。」
「‥いいなぁ。私も貰っていい?」
「いいよ。好きなの持ってきな。」
祖母はもう七十歳を越えていましたが、毎朝早くから起きて、固い地面に鍬を入れたり、草を削ってくたくたになるまで働く人でした。その為、自分が畑で作った野菜を人から褒められる事をとても喜ぶ人でした。
それに人の良い祖母は、こうして野菜を欲しがる人に、自分の作った野菜を少し分けてあげていたのです。
この日も、敬さんの娘の奈美子に野菜をたくさんあげました。奈美子は、トマトとナスときゅうりを袋いっぱい貰って喜んでいたそうです。
「おばあちゃん、ありがとう。スイカも欲しいけど、重いから今度にするね。」
そう言って、奈美子は帰っていきました。
「スイカ‥今度貰うって言ったって‥‥私あげるなんて言っとらんのに。」
祖母はこの時の奈美子の図々しさに、少し腹を立てたそうです。
それからしばらくして、祖母は自分の畑のスイカのいくつかに籠が被さっているのを見つけました。
籠をとると、スイカのだいぶ育ったのが隠れていたそうです。
祖母が籠の存在を不審に思っていると、隣の敬さんがやってきました。
「この前は、娘に野菜をくれてありがとうございました。娘が、おばあちゃんの畑のスイカを貰うって張り切って籠を被せてましたが、本当にこんなに良いんですか?」
「この籠は敬さんの娘さんのか。‥あの日は好きなだけ野菜をあげるって言ったけど、その場で持って帰れる分だけのつもりで言ったんですよ。こんなに欲張られると、うちの食べる分が無くなっちゃうわ。」
「‥‥娘は、このスイカを彼氏と車で取りに来て、友達に配るって言ってましたよ。友達も喜んでるって話でした。今更断れなさそうな感じですが‥。」
「‥いや、敬さんがしっかり娘さんに言ってやって下さい。私がこんな老体に鞭打って、どんな思いで畑をやってるか知ってるでしょう。」
その日祖母は、敬さんにしっかりと苦情を言い、籠を片付けてから帰宅しました。
けれども次の日、祖母が畑に行くと、畑中が大人の足跡だらけで、瓜や他の地を這う野菜が踏みつけられていたそうです。
そしてスイカやトマト、ナス、きゅうりがことごとく盗られていました。
祖母はあまりのショックで、その場で倒れて、しばらく気を失ってしまいました。
しばらく気を失ってた祖母ですが、物音で気が付き、音のする方を振り向くと、奈美子が懲りずにスイカを勝手にとっていて、チュニックの中に入れこんでいるところだったそうです。
祖母は力の限り叫んだそうです。
「ドロボー!ドロボーだ!ドロボー!」
すると、近所の人達が出てきて奈美子を取り囲んだそうです。
それでも奈美子は悪びれもせず、祖母がくれると言ったから、の一点張りだったようです。
祖母は負けずに反論しました。
そして誰かが、警察に被害届を出すと言い出すと、奈美子は驚いて車に乗って逃げていったそうです。
それからも、時々祖母の畑の野菜は盗まれてはいましたが、それほど多くはとられる事はなくなったといいます。
その後祖母の近所の人々は、大規模な泥棒犯罪も怖いが、身内や知り合いの泥棒も怖いよなぁとしみじみと話していたそうです。




