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令和百物語  作者: みるみる
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第三夜 濡れ女



島根県石見地方の伝承で、濡れ女という水妖がいる。


海辺に現れた女が、赤子を人に渡し、海に入ると牛鬼が現れる。驚いた人間が赤子を投げ捨て逃げ出すが、赤子が重い石になって離れなくなり牛鬼に喰い殺されてしまう、という言伝えが残されている。






川崎翔平は、地元の大学を卒業後、そのまま地元の食品卸し会社に就職していた。アットホームな会社で、社員全員が良い関係を築いていた。


「なぁ、翔平、今日仕事が終わったら、久しぶりに飲みに行かないか。色々話もしたいし。」


「いいですよ。じゃあ、僕の方が先にあがると思うんで、いつもの店で待ってますね。」


会社の社員は、全員仲が良いが、中でもこの三十代の中山さんとは良く食事や飲みにも行っていた。


いつものように中山さんと少し話してから、すぐにトラックに荷を積み、お客様のもとへ向かった。仕事終わりが楽しみだった。


七時過ぎになって、やっと中山さんが店にやって来た。


「お疲れです!ビールで良いですか。」


「おっ、頼むわ。待たせてごめんな。」


「良いですよ、中山さんの担当多いですもん。あっ、今日僕が家まで送るんで、電車の時間とか気にせず飲んで下さい。」


「悪いな。だけど、今日は飲みたい気分なんだ。助かる。」


そう言って、僕達はウーロン茶とビールで乾杯をした。


「‥‥俺、菜々子と結婚する。あと、彼女妊娠してるんだ。」


「良いじゃないですか。おめでとうございます。」


「いや、それは良いんだ。というか、嬉しい事だけど、それとは別に聞いて欲しい話があるんだ。」


そう言って、中山さんが神妙な面持ちで語り始めた。


「‥‥俺は高校を卒業して、今とは別の会社に就職してたんだけど‥‥そこの事務をしてた年上の女と何年か付き合って、彼女が妊娠したのを機にプロポーズし、一緒に暮らしてた事があるんだ。


彼女はその頃から、なぜか俺の浮気を疑うようになった。何分かおきに俺に電話をかけて来たり、俺の携帯電話から女の名前を見つけると、勝手に電話して文句を言ったりするようになった。勿論、俺は浮気なんかしていないし、疑われるような事もしていない。


なのに、彼女はどうしても俺を信じてくれなかった。それからは毎日その事で喧嘩をしていた。


俺はまだ若くて、彼女の不安をとって、安心させる術を知らなかった。異常な彼女の行動を見るうちに、だんだんと気持ちは冷めて、逃げるように別れを告げた。


お腹に俺の子がいたから、認知はするし、養育費も払うからと言って、強引に別れたんだ。


‥‥それから彼女とは連絡が取れなくなった。子供の事も‥‥産んだのか、それとも本当に妊娠してたのかすら、今となっては分からない。」


「探偵とか使って調べたりは?」


「‥‥勝手かもしれんが、子供の事はどうなったのか気にはなるが、正直なところ、彼女とはもうあまり関わりたくはないんだ。


その後、結局会社は居づらくなって辞めたんだ。それで今の会社に転職した。


‥‥この会社で働くようになって、しばらくしてから菜々子に出会った。商品をおろしに行った喫茶店で菜々子がアルバイトをしてて、俺の一目惚れだった。俺もそろそろ昔の事は忘れて、幸せになってもいいんじゃないか、と思った。


ところが、それから俺の携帯電話に非通知の電話が頻繁にかかってくるようになった。しかも、出てもすぐに切れるんだ。‥‥もしかして、昔の女が俺の事を恨んで嫌がらせをしてるんじゃないかと思ったんだ。


別れた後も、実は俺をずっと見張ってたんじゃないかと‥‥。


だとしたら、菜々子が俺と結婚して危ない目に遭うかもしれない。


菜々子は俺と結婚をしない方がいいのかもしれない、と思った事もあった。


けど、そうしたらまた昔の誤ちの繰り返しをする事になる。


だから、散々迷ったけど、結局菜々子と結婚する事を決めたんだ。俺が菜々子とお腹の子を守ってやればいいんだ、と思って‥‥。」


「警察には?」


「まだ無言電話だけだから、相談はしていない。」


プルルル、プルルルル‥‥


「あっ、菜々子。今日は翔平と飲んでるから、ご飯はいらないから。あと、駅まで迎えに来なくていいから。翔平が送ってくれるって。」


『ねぇ、玄関の前に10歳ぐらいの男の子がいたの。夜遅いから、一応家へ入れてあげて、警察に電話したの。


もうじき警察の人が保護に来るんだけど、あっ、今チャイム鳴った。早いな、もう来たのかな?じゃあ、飲み会楽しんできてね。翔平さんにもよろしく伝えてね。』


ガチャン。


「あっ、ごめん。菜々子からだった。」


「中山さん、夜遅くに菜々子さんを部屋に一人にしとくのも可哀想だし、もうお開きにして、そろそろ送りましょうか?」


「ああ、頼むよ。何だか心配だ。」







中山さんを家へ送り届けると、沢山の人だかりがあり、警察車と、救急車が止まっていた。なんだか騒がしかった。


中山さんは、気が気でない様子で、警察官に駆け寄り、何があったかを聞いていた。すると、アパートからタンカーで運ばれてきた人に寄り添い、一緒に救急車へ乗って行った。


後日聞いた話によると、夜遅くに刃物を持った女が中山さんと菜々子さんの住む部屋に訪れて、出てきた菜々子さんをメッタ刺しにしたそうだ。女はすぐに現行犯で捕まった。やはり中山さんの心配してた通り、中山さんの昔の彼女だったようだ。


‥‥菜々子さんは、病院についてすぐに亡くなってしまった。菜々子さんのお腹の子も亡くなった。


事件当時、菜々子さんと一緒にいた男の子は、児童施設に住む男の子だった。事件の直前に、施設から犯人の女によって連れ去られたようだ。今は、また施設に預けられている。


男の子は犯人の女の子供だった。母親の育児放棄の為ずっと施設にいたが、事件直前に連れ去られたそうだ。


あれから中山さんは、会社をやめて携帯電話も繋がらなくなった。



中山さんは、今どうしているのだろう。



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