第二十八夜 着信
プルルル、プルルル、
「あっ、まただ。」
「どうした?」
「秀樹、今俺に電話掛けてる?」
「いや、何で?」
「今お前から電話かかってきてる。ちょっと携帯出してみろよ。何か押したかもしれないだろ。」
「‥‥いや、発信履歴にお前の名前ないよ。」
「‥‥。」
またか。俺の携帯電話には着信履歴がたくさんある。だがほとんどは、かけた相手がかけた覚えのない履歴ばかりだ。
今も、俺の部屋で寛いでる秀樹から着信があったのだ。だがやはりかけた本人の発信履歴に俺の名前はない。
「なぁ、まだ着信鳴ってるなら、一度出てみたら?」
「あっ、もう切っちゃった。でも、これお前の名前と電話番号だろ。着信履歴が今の時間でついてるし。」
「ああ、変だな。なんか混線してんじゃないの。」
「そうだよな。まぁ、いいか。」
俺は、ちょうどノートパソコンを開いていたのでついでにネット検索をしてみた。
「おっ、結構ある事例みたいだぞ。身に覚えのない着信や発信の履歴について、たくさん質問とその回答が載ってるや。へぇ~、かかってきた電話に出ても、たいていは無言電話らしいよ。中には未来の日時で発信履歴ついてる人もいるや。変なの。」
てっきり心霊系の現象かと思った俺は安心したのと同時に、何だか拍子抜けしてしまった。
「じゃあさ、今度かかってきたらお前も出てみろよ。」
「そうだよな、変な着信があったら今度はきらずに出てみるよ。」
そんな話をしてた翌日、学校で物理の授業中に早速変な着信があった。俺からだった。俺の携帯から俺の携帯に電話がかかってくる?そんな馬鹿な。それに今は機内モードにしてるから、着信もシャットアウトするはずなのに‥‥
携帯はまだ着信をバイブで知らせていた。
「すみません。トイレに行ってきます。」
俺は携帯に出たい衝動にかられて、トイレに行くことにした。
「なんだ、我慢できんか。すぐに帰って来いよ。」
先生がそう言うと、廊下からクラスの奴らが笑っているのが聞こえた。
トイレに行って個室に入り、電話に出ようとしたが誰かが入っていた。
「チッ。」
俺は思わず舌打ちしてしまった。だが、もう一つの個室は空いていたのでそっちに入った。
「もしもし?」
「‥‥。」
やはり無言だった。あのネットの情報通りの展開に俺はすこしがっかりした。でも一度変な着信の電話に出てみた事で、納得できた自分がいた。
キィー、バンッ。タタタタタ‥‥
隣の個室の奴が先に個室から出て教室へ戻っていく音が聞こえた。俺も個室から出ようとすると‥
「チッ。」
俺の声がした。
キィー、バンッ。
隣の個室に入ったようだ。
「もしもし?」
隣で携帯電話で話してるらしき声は、やっぱり俺の声だった。
『もしもし?』
俺の携帯からも、俺の声がした。俺は急に怖くなり、トイレのドアを開けると急いで教室へ戻った。
ガラガラッ
「おっ、スッキリしたか?」
先生がからかうように俺に言った。クラス中がまた笑いに包まれた。
俺の心臓はまだドキドキしていた。
ふと携帯電話の着信履歴を見ると、俺から俺への着信履歴がずっと続いて表示されていた。
あのループがまだ続けられているのか?
俺は携帯電話の電源を落として、再起動させた。すると俺から俺への着信履歴はそこでストップしていた。
これは、本当に携帯電話のバグだけの問題なのだろうか?
俺は携帯電話を解約し、契約会社も変えた。それからは変な着信履歴はもうない。
あれが携帯電話のバグなのか、何なのか分からない。
だがあの時、俺がもう一人の俺と遭遇していたらどうなっていたんだろうかと思うと、今でもぞっとしてしまう自分がいた。




