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35 真実 1/2

遅くなりました。ギリギリ今日のうちなんで毎日更新続いてるよ!

「改めて、オレはアレックス・ヴィタ。アレクでいいぞ」


 アレックスはにっこりと笑う。

 頭を抱えたヴァーンはおもむろに指を鳴らす。

 パチン、という音と共にコウ、ニアリー、カゲツ、イヅツ、シュガルの姿が掻き消えた。強制転移魔法だ。


「……ラセツ、部屋の外で待機。ここで起こったこと、現れた人物について緘口令を敷き、人払いを」

「か、かしこまりましたっ」


 ラセツは走って部屋の外に出る。扉の隙間から文句を言いたそうなコウの顔が見えた。扉が閉まり、ガチャンと大きな鍵をかけた音がする。


「ぼくたちはいいの」

「ヴァーレンハイトが接触しているんだろう、ちょっとその辺の話も含めて聞きたいからな」


 続いて室内に防音結界を重ね掛けした上で、なにもなかった部屋に人数分の椅子を召還した。

 アレックスから時計回りにルネローム、ぼく、男、ヤシャ、ヴァーン、シアリスカ、カムイ、シュラ、ロウと座った。

 一同の視線はアレックスに集まっている。


「まず……初代さまにお尋ねします」

「アレクでいいのに」

「……アレクさま、は、どうしてここに?」


 ヴァーンは頭が痛そうに額を押さえている。ちらとルネロームを伺っていることから、一番聞きたいことはそれではないだろう。


「久々に上層部の祝い事だって聞いたんで、それを祝いに。あとここなら相棒の情報が来てないかなと思って」

「あら、ととさまってば行方不明なの?」


 ルネロームの発言にヴァーンがくらりと眩暈を起こした。ぼくも頭が痛い。

 アレックスが父さまで、その相棒がととさま? ととさまは……父親のことだろう。


「そうなんだよな。ルネは見かけてないか?」

「残念ながら、会ってないわ」

「そうかー。全く、仕事ほっぽってどこ行ったんだか」


 ゆらりとヴァーンが挙手する。それを見て父娘(?)はヴァーンを見た。


「その……ととさまというのは? アレクさまが父親だったのでは?」


 おお、とアレックスはルネロームを見て、一同を見回した。


「そもそも産んでも産ませてもいないからな。父親というのはこの子たちが言い出したことで、オレは親とは違う」

「でも、父さまとととさまがわたしたちを作ったのでしょう?」

「作りはしたが、育ててないしな。通常で言われる父親とは違うだろ」


 ふうん、とルネロームは首を傾げる。


「この子らがととさまと呼ぶのはオレの相棒のことだな。オレとあいつがルネたちを作った」

「つまり……ルネロームは人造の存在ってこと?」


 ぼくが首を傾げると、それは違うとアレックスが首を振る。


「オレたちはおまえたちの枠組みでいう、『人』ではないからな。人造ではないかな。まぁ、ルネロームは人と生まれは違うが、変わったところはない。ちょっとばかり頑丈なくらいだな」

「じゃあ、ノエルのことをルネロームが『姉さん』って呼んでたのは……」

「ノエルのことも知ってるのか。ああ、あの子もオレたちが作った存在だ」


 なんのために、と何人かが眉間に皺を寄せた。


「世界に関われないオレたちの代わりに、世界を見るために」

「世界を……見る?」


 目を瞬かせたぼくたちに、アレックスは微笑み返す。


「世界が正常に回っているか、世界にオレたちが介入する必要のある問題が起きていないか。そういったことをオレたちの代わりに視る存在。世界を視る瞳。それが最初にルネロームとノエルに課した役割だ」


 世界を視る瞳。

 世界。

 とんでもなく大きな存在。

 それがルネロームとノエル? なんとなく、実感は湧かなかった。

 アレックスはちらりとヴァーンを見て、


「まぁ、おまえがルネに惹かれたのもわかる。ただの魔法族セブンス・ジェムではないんだからな」


 と言った。

 むっとしたヴァーンが椅子から立ち上がる。


「お、おれはルネロームがたとえただの魔法族でも人間族ヒューマシムでも、魔族ディフリクトだったとしても愛していた!」


 ぽかんとアレックスはヴァーンを見上げる。四天王やヤシャたちも口を開けていた。


「……ここに俺たちもいることを思い出せ」


 ヤシャがヴァーンの袖を引っ張って椅子に座らせる。

 ヴァーンの耳は赤い。

 ルネロームを見ると、両手で頬を包み嬉しそうにヴァーンを見ていた。

 ふはっとアレックスが吹き出し、腹を抱えて笑い出す。


「ルネ、おまえの選んだ男は面白いな」

「うふふ、可愛いでしょう」


 ルネロームも満更でもなさそうにアレックスに微笑みかける。

 一頻り笑ったアレックスは目尻の涙を拭うと、途端に真剣な表情でヴァーンを見た。


「だというのに、一度ルネを殺したのか」


 ぎくりと身体が凍った。

 ぼくに向けられた言葉ではないというのに、室内の温度が一気に下がった気がする。


「そ、れは……」


 ヴァーンは顔をアレックスに向けたまま動けない。

 唯一平気だったのはルネロームくらいだ。彼女はアレックスの袖を引く。


「父さま、ヴァーンは悪くないわ。なにか理由があったの」


 その言葉にヴァーンはようやく首を振る。


「いや、いい。その責はおれが負うべきものだ。……理由など」


 言葉は続かなかった。

 ふぅとカムイが息を吐く。アレックスを睨みつけるようにして彼を見た。


「そもそもヴァーンを責めるのはお門違いというものでは? もとはといえば、初代族長であるあなたと魔族の長が魔法族の集落に封印したものが原因でしょう」


 だがアレックスは首を傾げるばかりだ。


「? 魔法族の封印って、アレの封印か? なんでそれが関係あるんだ」


 カムイはちらりとヴァーンを見、一同を見回した。


「……魔法族の集落には、かつての神族族長と魔族族長が戦った折に発生した高魔力の塊が封印されている、と聞いています。先代の時代にはよく闇、炎、雷の集落へ襲撃を仕掛けたそうですね」


 魔族が光、地、風、水を襲うように。

 今はヴァーンの命令で封印に変わりがないかを監視するくらいで、直接の手出しは禁じられているという。

 それを聞いたアレックスはきょとんと目を瞬かせる。


「今代がそう説明したのか」


 ちらとヴァーンを見る。


「……先代の資料を読んだところ、そう記されていました」

「なるほど、それでルネを殺したのか……だが、今はそうしないということは……」


 こくりとヴァーンが頷いた。

 なるほど、なるほど。アレックスが唸る。


「今代、先代は誰にそれを吹き込まれたかわかるか」

「いえ、当時の報告書から上層部連中の日記まで調べましたが、誰からとまでは……」


 ヴァーンがなにを調べたのか、アレックスがなにを知っているのかわからない会話が続く。

 シュラがふぅと息を吐いた。


「ヴァーン、そろそろ話してくれてもいいのでは?」

「そウダナ。なんでも一人で抱え込ムナ。……カムイモナ」


 シアリスカも頷く。

 ヴァーンはぼくと男をちらりと見て、やがてため息を吐いてわかったと答えた。


「アレクさま、教えても問題はありませんか」

「おお、オレに不都合はないぞ」


 そうしてヴァーンはもう一度、一同を見回して息を吐いた。


「なにか間違っていたら訂正をお願いします」


 アレックスはわかったと頷く。


「ことの始まりはこの世界が形作られたころ、初代――アレクさまの時代だ」


 世界が始まり、人が現れ始めたころ、世界の隅で淀みが生まれたのだという。

 淀みは徐々に世界を蝕み始めた。淀みが世界を食らっていたのだ。

 アレックスは相棒、そしてもう一つの世界に住む人々――魔族の力を借りてその淀みをとある場所に封印した。

 封印は全部で七つ。それはそれぞれ地上にいた七人に宿り、精霊となった。

 アレックスと相棒はその地を封印の地とし、七人と七つの精霊を封印の要とした。これがのちの魔法族となる。

 その後、アレックスと相棒は空白になってしまった部分に新しい世界を作り、そこを神界として地上を守るための種族として神族を作った。

 こうして神界、地上、魔界という三つの世界が出来、神族とそれを手伝う龍族ノ・ガードが生まれ、地上には生き物が増えていった。

 それが本当の創世なのだという。

 神魔の力ではなく、世界の淀みが封印されていたのか。


「あの淀みには自我があった。意識的に世界を壊そうとしていた」


 アレックスが補足する。


「だから……封印を解いてはいけないということだったのですね」


 ようやく合点がいったとカムイは頷いた。

 確かに、それが原因ならば封印を解くつもりのないヴァーンにはルネロームを殺す理由はない。伯父の憂い顔の意味がようやくわかった。

 嘘の情報を掴まされ、愛する人を殺したのだ。なにもかもを放り出してもおかしくなかったくらいだ。

 過去の依頼人に、愛する伴侶を失って無気力になった人がいた。それを思うと、自分の手でルネロームを殺したことは大きな傷となっただろう。

 まぁ、その殺された本人はぼくの横でのほほんと話を聞いているのだが。


「正確には、オレが持ってるこの青い石にやつを封印し、それを魔法族の集落がある場所に封じたんだ」


 アレックスは自分の胸の上で光る青い石のペンダントを示した。

 確かに同じようなものだが、あの青黒い嫌な魔力は感じない。

 首を傾げていると、アレックスはぼくを見て笑った。


「これは未使用。感じる魔力が違うだろう。やつの入っている石には青黒い魔力が見える」

「あんたも、魔力感知能力を?」

「一応な」


 アレックスは掌でペンダントトップを転がす。


「この石はオレやディ……相棒の魔力を通しやすいんだ。だからやつの封印に使った。……最近はその一部がどこぞから漏れてるのか、あちこちで欠片がばら撒かれているがな」


 言いながら、アレックスはぼくと男、そしてヤシャを見た。


「青い石の魔力を使ったんだな。あの人格がなくても厄介なやつだ。欠片で人ひとり生き返すなんてことやってのける」

「……やっぱりおれは一度死んでるんだな?」


 アレックスを見ながら男が言った。穏やかな顔だった。


「オレの目にはそう見える」


 アレックスは肯定も否定もしなかった。

 けれど、そう見えるということはそういうことで。


「おまえを初めて見たとき、死人がどうしてと思った。だから接触してみたんだ。世界の理に反するのなら、オレはおまえを消すべきだったから」

「!」


 ぼくは驚いて男とアレックスを交互に見る。男は穏やかな顔のままだった。


「でも、アレクはそうしなかった。なんでだ?」

「死んでるけど、今は生きているからだ。あいつの力の一部を自分のものにして、生きている。生きているならオレが手出しするのは禁じられていることだからな」

「……青い石の力を自分のものにって……それ、大丈夫なの」


 さぁな、とアレックスは肩をすくめる。


「オレとてこんな症例は見たことがない。どうなるかは……ヴァル次第だろうな」


 そっかー、と男は軽い調子で頷く。それでいいのか。

 いや、男がそれで納得している以上、ぼくや外野がなにかを言う権利はないだろう。ぼくは唇を引き結ぶ。


「ヴァルにやった赤い石はやつの魔力を抑え込むためのもの。出来れば悪い部分だけを、な」


 アレックスは男の手の中で光る赤い石を見た。

 ころりと掌の中で転がるそれは真っ白な光を反射して煌めく。


「確かにこの石持ってると、変に疲れたりしない気がする」

「その石は希少だからな。その分、効果は上がっているはずだ。心臓の代わりを果たしている青い石の欠片が余計なことをしないようにしているからな」


 へぇ、と男は赤い石を摘まみ上げて見つめた。


「……ヤシャは、大丈夫なのでしょうか」


 シュラが心配そうにヤシャを見た。


「ああ、そっちのやつは完全に分離出来てるみたいだから大丈夫だろう」


 アレックスが頷くのに、シュラだけでなくヴァーンや他の四天王もほっと息を吐いた。

 男がちらとぼくを見る。


「アレク。ティアはどうなんだ」

「……」


 アレックスが難しい顔でぼくを見た。


「なんで未だに自我を保っているのかよくわからないな。オレから見て、その子はもう青い石の力に押し潰されててもおかしくない量の力の欠片を体内に取り込んでいるはずだ」


 ひゅうと男の喉が鳴る。

 ぼくは――予想していた。だって、ここ数日で再び腕の刺青が濃く、心臓と脳に向かって伸び始めたから。今はまだ服の下だが、もう少しすれば首元から青黒い蔓が伸びているのが見えるだろう。

 男の顔が青褪める。


「自我を保てなくなったら……どうなる?」


 男の声が震えている。一同はぼくからアレックスへ視線を移した。


「恐らく……青い石と同様に力を発するだけの存在に成り下がるか、やつの自我を求めて魔法族の集落を襲うだろうな」

「そんな……」


 ルネロームがぼくの手を握った。


「それを保っているのは……そのチビちゃんの中にいる誰かさんが抑えている、とか?」

「!」


 ヴァーンたちは首を傾げている。

 チビちゃん呼びは頂けないが、ぼくは彼の言わんとするところを理解した。


(せんせい、なにかしてたの?)


 心の中で語りかけてみるが、せんせいは眠っているのか答えない。


「……せんせいの存在に気付いてたの。いや、前に会ったときにも、気付いている素振りをしてた……」

「そいつは先生と言うのか……出してもらうことは出来るか?」


 ぼくは首を振ったが、せんせいは欠伸を噛み殺しながら不意に現れた。


「折角、人が気持ちよく眠っているというのに……無粋なお客さんだ」

「アーティア、目が……」


 両目が金色に代わっているのだろう。ヴァーンたちがぎょっと目を剥く。


「初めまして、というべきかな。わたしはアーサー。青い石に封じられたものだ、わたしを封じた者よ」


 アレックスの空色の目が剣呑に光る。

 せんせいは肩をすくめた。


「まぁ、きみの言うような、世界を食らうなどという衝動などないよ。きみから聞いても思い出すようなこともない。恐らくまだ封印されているのだろう。わたしは自分の身体を取り戻したいという願望はあるが、記憶の大半を失っているようなものだ」

「やつの自我の一部、ってことか。それが宿主であるチビちゃんのために力を抑えているのか。もとのやつの自我ではありえないことだな」

「それほどのものかね、もとのわたしは。まぁ、今はそうなだけで、これ以上に青い石の欠片を体内に取り込むようなことがあれば、この身体の主導権はアーティアからわたしに替わってしまうだろうね」


 なんだと、とヴァーンが息を飲んだ。

 せんせいが首を振る。


「わたしはもとの身体を欲してはいるが、誰彼と構わず身体が欲しいわけではない。アーティアの身体を乗っ取るつもりはないよ」


 せんせいは笑ってヴァーンを見る。ピリッと空気が震えた。


「それに……今、アーティアの身体からわたしを追い出すのは無理だろうね」

「どうして」

「数日前ならいざ知らず、今は随分と石の欠片が体内のあちこちに巣食っている。融合が進んでしまっているんだ。……わたしの意思ではないよ。わたしはこの子たちの旅を眺めるのを気に入っているからね」


 薄々、せんせいが青い石に封じられているのは気付いていた。青い石を壊すたびに自分の中に淀んだものが溜まっていく感覚がしていた。

 でもせんせいはぼくの身体を乗っ取らないように、欠片の力を抑えるために、最近はよく眠っているのだとは知らなかった。


「……せんせい、ごめん」

「なに、アーティアが謝ることはない。わたしはしたいことをしているだけだよ」


 ヴァーンたちが複雑そうな顔でぼくたちの顔を見ていた。


「ただ、これ以上欠片を集めて力を増幅させようとするのはやめたまえ。いくらわたしでも限度というものがあるからね」

「わかった」


 男がぼくの頭を撫でた。


「せんせーが青い石に封じられている者……おれの力も、せんせーの力を奪ったものってことか」

「それはもうきみの力だよ、ヴァーレンハイトくん。好きに使いたまえ」

「……」


 男は少し複雑そうな顔をして、眉を下げて笑った。せんせいもくくくと笑う。


「それにヴァーレンハイトくんの場合、欠片の力を全て取り除いてしまえば恐らく死ぬだろうからね」

「!」


 ぼくは驚いて男の顔を見た。

 男は気まずそうに目を逸らす。気付いていたのか。


「アーティアとの分離も似たようなものだ。簡単には出来ないだろう。代わりの身体があればもう少し話は簡単だろうけれど、封印を解いてはわたしはわたしでいられなくなるだろう。そうなればかつてのようにまたわたしは世界を食らう存在と成り果てる」


 それは嫌だなぁ、とせんせいは苦笑した。

 アレックスも肩をすくめてせんせいを見る。


「記憶の一部である欠片にアーサーという名前を付けて呼ぶことで別存在として確立したのだろうな。存在は多少不安定ではあるが、やつ自身ではないのならオレが介入することは出来ないし、自分たちで好きなようにするといいさ」

「ああ、そうさせてもらおう」


 そう言ってせんせいはまたふらりといなくなる。眠ったのか。

 誰かが息を吐く。


「欠片を持ち出したのは――アライアだったな」


 ヤシャがぼくを見る。

 アライアの目的はなんだろう。封印を解いて、せんせいの大元ともいえる存在を復活させれば自分の存在だって危ういだろうに。


「その封印を解こうとした挙句、ルネロームまで殺したんだ。やはりおれは許されないことをしたんだな」


 ヴァーンが自嘲をこぼして俯いた。

 ルネロームが彼の名前を小さく呼んだ。


「謝って済むことではないが……アレクさまにも、ルネロームにも、申し訳ないことをした。済まない……」


 頭を下げる。

 四天王たちが口々にヴァーンを呼んだが、その頭は上げられることはない。

 ルネロームは心配そうにアレックスを見た。

 アレックスは息を吐く。


「別に本気で怒ってるわけじゃねーけどな。あれはルネロームが自由に生きた結果だし、おまえは偽の情報を掴まされていただけだ。現にこうしてルネロームはここにいるしな」


 それが一番ややこしい事態を引き起こしている気がしなくもない。

 黙ってなにも言えないヴァーンがゆっくりと頭を上げる。眉間に皺が寄っていそうだ。


「では何故、彼女を生き返したのです?」


 カムイがアレックスを睨むように見た。

 アレックスは肩をすくめる。


「それはそれ、これはこれ。ルネには役割がある。まだその役目は終わっていないからな」

「役目……」


 こくりとアレックスは頷く。


「世界を視るってこと?」

「それもあるが、魔法族の封印を見守ること、そして――いや、これは言わなくていいか」


 アレックスは言葉を濁す。まだ他に理由があるのだろうか。

 横でルネロームはそうだったわねぇなんて言っているが。

 しかし、人を生き返すほどの力を持っているアレックスは何者なのだろうか。


「……人を生き返すことが出来るなら……」


 思わず思い浮かべたのは、ルキのこと。助けることが出来なかった、ぼくの友達。

 アレックスは首を振る。


「なにを考えているかは知ったこっちゃないが、オレが自由に出来るのは自分が作り出したものだけだ。もとはどちらかといえば再構築を司っているもんでね」


 再構築を司る?

 どういう意味だろうか。

 ヴァーンたちも理解出来なかったようで、アレックスをじっと見る。


「アレクさま……それはどういう?」

「あんたは、創造主と呼ばれる神とは違うのか?」


 ヴァーンやヤシャの言葉にアレックスは首を振る。


「オレはただの管理人さ。神に世界を託された存在。ただ見守り、バグを取り除くだけの機関。それがオレとディの存在理由」


 バグとはここでいう青い石に封印されたせんせいの片割れのことだろう。

 世界で紡がれる物語を見守る存在。そんなものが本当にいたなんて。

 さて、とアレックスは一同を見回す。


「いろいろ答えたが……他にまだ聞きたいことはあるか」


 誰も答えない。

 これで解散するか、とアレックスが椅子を立ち上がりかけたとき、シアリスカが「ねぇ」と声を上げた。


「青い石に封印されている力はただの力ではあるんだよね」

「まぁ、そうだな。使い方次第では世界を食らうことすら出来る力だからな」


 ちらとアレックスはぼくや男を見た。


「死者すら生き返す力が欠片にすらある。生半なことに使われるのは困るな」

「生半なつもりはないよ」


 シアリスカの赤い目がアレックスを見上げる。


「その力を使えば、ボクの中に眠るシリウスを無事に起こすことは出来ないかな」


 ヴァーンがはっと息を飲む。

 シアリスカの目は真剣だった。


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