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34 神族たちの恋の結末 2/3

本日(3/24)二つ目の更新。

 どこぞの部署の者だという男性と踊り終わったルネロームがぼくたちのところに戻ってくる。にこにことしてはいるが、少し疲れたようだ。

 新しいグラスにジュースを入れてもらい、それをルネロームに渡す。彼女は嬉しそうに受け取ってくれた。


「すごいね、ひっきりなし。今ので何人目だっけ」

「ええっと……どうだったかしら」

「回数重ねるごとに上手くなっていくのは、流石だな」


 流石、魔法族セブンス・ジェムの中でも戦闘力に秀でた雷魔法族サンダリアンということだろうか。体幹やセンスに優れているのだろう。一人目のときなんて、何度か相手の足を踏んでいたのに、今の何人目かはもう危なげすらなかった。

 ルネロームがジュースを飲んでいる間にちらりと貴賓席を見る。ヴァーンの視線(?)が先ほどからちらちらと鬱陶しい。


(そんなに気になるなら掻っ攫って自分が踊ればいいのに)


 それが出来ないからこちらを伺っているだけなのだろう。そろそろ他の招待客にもバレるからやめておいた方がいいとは思うが。

 因みに横の男も何気にさっきから声をかけられている。男はのらりくらりと断っているが、そろそろ面倒くさそうだ。


「いっそ踊ってきた方が楽なんじゃない?」

「いや……あれは一人受け入れたら続けて何人もくるパターン」

「モテるね」

「実情を知らないとね」


 自分で言うな。いや、ぼくもそう思うけど。

 新しく黄色のドレスを着た女性が男に近付いてきた。またダンスのお誘いだろう。それもやっぱり男は断る。


「でも、さっきから一度も踊ってらっしゃらないでしょう?」


 女性がそっと男に近付く。そっと男はぼくの方へ逃げた。


「あー、この子。この子がもう少し成長したら一緒に踊るって約束してるんで」


 口に含んだ飲み物を吹き出すかと思った。男はどう見てもぼくを示している。

 女性の視線が痛い。

 女性はじろじろとぼくを品定めするように眺めて、納得いかなそうに眉をしかめた。


「……ロリコン?」

「ぼくの方が年上だよ」


 いきなり声を出したぼくにぎょっとした女性はそそくさと去っていった。


「なんか不名誉なこと言われたけどいいの」

「いや、もう……誰も寄ってこないならロリコンでもなんでもいい」


 本気か。


「もう少しルネロームに近付いてた方が虫よけ効果はあると思うけど」


 二人とも、という意味で。ルネロームも連続で声をかけられて疲れたのかそうねぇと首を傾けた。


「でも、わたしもヴァルちゃんも、隣にいてほしい人がいるもの」


 ね、と男に同意を求めるルネローム。その視線はヴァーンの方に向いていた。


(隣にいたいのに、隣にいけないのは寂しい……)


 きっとルネロームも悲しいだろうと思う。けれど彼女はそれを一切見せない。

 男はしどろもどろに頷いて「そういうことにしておく」と言った。意味がわからない。

 何度目かの音楽が変わる。

 ふらりと近寄ってくる影があるなと思ったら、ロウだった。呆れた顔のニアリー・ココ・イコールも付き従っている。


「楽しんでイルカ」

「料理は」

「飲み物も美味しい」

「あの人が無表情で百面相してるのがちょっと楽しくなってきたわ」


 ルネロームの言うあの人は言わずもがな、ヴァーンだろう。彼女は一体なにを楽しんでいるのだろうか。それでいいのか。

 ソウカ、とロウは頷く。


「ここにいてもいいの」

「飽キタ」


 その一言で指定位置を離れていいものなのか。立場とかイメージとかあるのでは、と思ったがロウの場合は今更だと気付いた。普段から視察という名のサボりで城下にいるようなやつだ、こいつは。

 ぼくは肩をすくめて皿に新しくケーキを盛る。

 ため息を吐きながらニアリーも給仕から受け取った皿にいくつかの料理を乗せた。それをそっとロウに渡す。


「ン」


 受け取ったロウはもそもそと食べ始めた。お腹が空いていたらしい。


「ニアリー」

「なんですか」


 振り向いたニアリーの口に肉叉に刺した人参を押し込む。


「……好き嫌いしないでください」

「あの甘みが好きじャナイ」


 ニアリーの頬が薄っすらと紅に染まるのを横目にロウはもそもそと食事を続ける。

 音楽がまた変わった。

 今度は雰囲気の違う、和やかな曲だ。会場の騒めきもなんだか様子が違う。ダンスのために開いていた空間にちらほらと人が集まり始める。

 なにかあるのだろうか。

 そばにいたイヅツが「キャンディトスですね」と答えた。


「キャンディトス?」

「新郎新婦がいくつかのキャンディを投げるので、それを取るイベントですね。キャンディを受け取れた人はあとで引き出物にちょっとしたおまけをつけてもらえるようになっています」

「取れるかな……」


 ぼくの身長は不利だろう。あとはヤシャたちの投擲力がどれほどかにかかっている。


「ティア、欲しいの」

「貰えるものは貰っておきたい」


 ふうん、と男はヤシャたちを見る。

 あちらも準備が出来たようで、ぱっと二人の腕が閃く。


「あ、結構な剛速球」


 それでいいのか。そういうイベントなのか。

 とはいえぼくの方に飛んでくることはなく、残念ながらキャンディは取れなかった。

 横を見れば男は一つだけ取れたらしい。


「オ」


 声がした方を見れば、ロウが小さなぬいぐるみを持っていた。手を繋いだ二頭のテディベアで、今日のヤシャとラセツの格好を模した服を着ている。大きさは片方がロウの手に納まるくらい。

 ロウはそれをしばし眺めると、興味なさそうにぽいとニアリーに放って渡した。


「ろ、ロウ、さま……?」

「どウシタ」


 ニアリーの顔が徐々に赤くなっていく。周りがおおと騒めいた。


「お二人はそういう関係でしたか」


 ぽそりとイヅツがこぼした。

 顔を真っ赤にしてテディベアを握るニアリーははくはくと口を動かしているが言葉にならないようだ。

 ちらほらと温かい拍手が聞こえだす。誰かがおめでとうと言った。

 慌てた様子でそっと近付いてきたコウは兄の胸倉を掴んで耳打ちする。


「兄貴、それを人にあげるのって『次に結婚するのは俺とお前だ』って意味だってわかってる?」

「――ッ!!!?!?!?!?!?!?!???」


 明らかにわかっていなかった顔だ。しかし周囲は祝福ムード。ニアリーも目を白黒させているが、満更でもない様子。


「やらかしやがった(でかした、兄貴!)」


 本音と建て前が逆なのでは? いや、どちらも本音か。


「次はロウさまとニアリーさまか」

「めでたいことが続くのはいいことだ」

「おめでとう、お二人はいつからお付き合いを?」


 もう間違いでしたとは言えない雰囲気にロウはこくりと唾を飲み込んだ。


「……詳細は後日、追って報告いたシマス」

「あっ、逃げた」


 逃げたロウの耳は赤かった。はっと我に返ったニアリーは周囲に礼をしてロウのあとを追う。

 男が横でぼくに渡そうとしていたらしいキャンディを引っ込めるのが見えた。

 周囲はロウたちの態度に気にした様子はなく、めでたいめでたいと微笑んでいる。

 テディベアは一組だけらしく、あとはキャンディで、そちらは欲しい人にあげてもなんの意味もないらしい。

 それを聞いて男は胸を撫で下ろす。

 ぽんとぼくの頭を軽く叩き、キャンディをぼくの手に落とした。


「なに貰えるかな」

「……ありがと」


 キャンディトスというイベントが終わったら、あとはもうほぼ終わりらしい。

 主役の二人が礼をして大きな扉から出ていくのを見送り、続いてヴァーンたちが去るのを見送る。


「料理も全部食べたし、そろそろぼくたちも出る?」

「そうだなぁ……眠たくなってきた」

「とっても素敵なパーティだったわね」


 ルネロームも満足そうだ。イヅツは片付けを手伝うらしく、会場で別れた。

 引き出物は赤いものが定番らしく、赤い香辛料か赤いお菓子を選べた。赤いお菓子ってなんだと思ったが、どうやら赤い包装紙に包まれたチョコレートだそうだ。ぼくはお菓子の方を選んだ。

 男はお菓子を選んでまたぼくに渡す。ルネロームは香辛料を選んでいた。

 キャンディで貰えるおまけはなんだろうと思ったら、紅白のまんじゅうを貰った。

 何故、紅白なのかと問えば、革命期に先代が白を掲げたのに対してヴァーンが赤を掲げたのをもとにしているのだとか。

 赤がいい色として好まれているのは自分たちの目が赤いからというだけではなかったらしい。白は白で、もともとは高貴な色として好まれていたものなので先代のせいで嫌われるということはなかったようだ。

 二つあるので男と分けようと思い、どっちの色が好きかを聞く。


「……白、かなぁ」

「じゃあこっちあげる」


 部屋に戻りながら、不作法だとは思うが薄紅色のまんじゅうを口に放り込んだ。中は豆を潰した餡が入っていて、甘みも控えめで美味しい。

 男も白いまんじゅうを手に取って口に入れた。


「あ、美味い」

「これも松の作かな」


 そんなことを言っていると、部屋までの道の途中でロウとニアリーが並んでいるのが見えた。二人の間に言葉はなく、無言だ。

 男に手を引かれてぼくたちは廊下の影に隠れた。


「なんで隠れるの」

「なんとなく、邪魔したら駄目かなぁって」

「あらあら」


 思わず声も小さくなる。

 ほうとニアリーが息を吐いた。耳が赤い。


「……初めて会ったときのことを覚えていますか」

「いつだっタッケ」

「そう、ですよね。わたしはあのとき、ただの民間人の娘でしたから」


 ニアリーの声は穏やかだ。

 ニアリーは革命期にロウに命を救われたらしい。

 そして革命が成り、ロウに憧れてニアリーは城で働くようになった。ちょっとでも憧れのあの人に近付きたい、と。

 が、四天王として出てきたのはやる気のないローテンション男。ニアリーの落胆は大きかっただろう。

 それでもニアリーは恩を返すためにロウのそばで働きたいと奮闘。無事にロウ付きの部下となった。

 ちょうどそのころに神魔戦争が始まった。

 戦線に出たニアリーはまたしてもロウに助けられる。


「ずっと、お慕いしておりました」


 ニアリーはロウを真っ直ぐに見て、微笑んだ。


「……過去形でいイノカ」

「それは……」


 ロウが僅かに眉間に皺を寄せる。

 向き合った二人は動かない。

 ふぅとロウが息を吐いた。


「改めテ言ウ。俺と一緒にいてホシイ」


 ロウが右手を差し出す。

 ニアリーの瞳が潤む。


「――喜んで」


 二人の手が重なり――、


「そこの三人、話しは終わったから通ってイイゾ」

「えっ」


 ロウがこちらを向いた。

 そろりとぼくたちは柱の陰から姿を現した。


「なんか……ごめんなさい……」

「いや、でももう少し情緒とかないのか」

「ムードが台無しね」

「~~~~っ」


 平然とするロウとは違い、突然現れたぼくたちの姿にニアリーは目を白黒させる。


「こんのバカヤさまーーーーーーっ!!」


 そんな叫びを残してニアリーが廊下を駆け抜けていった。

 置いていかれたロウはなにが悪かったのかという風に首を傾げている。

 ひょいとぼくたちの後ろからヤシャとコウが顔を出した。


「やっと言ったか、この唐変木」

「うルサイ」


 言ったのはいいが、その後の対応がマイナスだ。ニアリー、本当にパートナーとして選ぶのがこいつでいいのか。

 まぁそこは本人たちの問題なのでぼくは関係ない。

 にやにやとコウがロウに近付く。


「ニアリーはかなりの乙女だから城下で流行りの舞台みたく、腕輪交換した方が喜ぶんじゃない?」

「……作っテクル」


 そろそろとロウは自分の部屋の方へ戻っていった。

 くすくすと笑って、コウはそれを見送る。そしてわざとらしく左手を振りながらぼくたちの後ろを見た。


「あーあ、あたしも左腕が寂しいなぁー。ちょっとした重さが欲しいなー」

「ぐぬぅ」


 音もなく現れたのは苦い顔をしたシュラ。

 それを見てコウは笑みを深める。


「兄のヤシャの方が潔かったなー」


 ちらと見られたヤシャは眉を下げて笑う。

 むっとした表情でシュラはコウの前に進み出た。


「……コウ」

「なぁに」


 はくはくとシュラの薄い唇が動く。

 コウはじっとそれを見て待つ。

 ぐっと息を飲み込んだシュラはコウを真っ直ぐに見つめた。


「……………………あ、あなたの残りの人生をください」


 コウは目を丸くして、破顔する。


「じゃあ、あたしにもシュラの残りの人生をちょうだい?」


 は、とシュラは息を吐いて頭を抱える。


「……あなたに勝てる気がしません」

「ふふ。左腕が寂しいなぁ?」


 シュラは肩をすくめ、懐から揃いの腕輪を取り出す。そしてそれをコウの左腕に嵌めた。


「どうぞ、我が姫」

「うむ、苦しゅうない」


 笑いながらコウは片方をシュラの左手に返した。

 ふふ、とコウは嬉しそうに腕輪を撫でる。

 あああ、と誰かが嘆きながら崩れ落ちた音が聞こえて振り向くと、離れたところで男性二人が廊下に倒れ込んでいた。それをリングベル・リーン・ジングルが慌てた様子で慰めている。


「ええっと……結果はわかりきってたじゃない」

「にありぃぃぃ……」

「コウ……」

「その……お酒くらいなら付き合うよ、ハウンド、イーグル……」


 なんとなく事情を察した男がぼくの顔を別の方向へ向けた。いや、失恋に咽び泣く男性を見たところで今更なにも思わないが。

 どうやら二人はリングベルが引き摺って去っていったらしい。


「俺がさっさと結婚することで愚弟たちを焚きつけられたらなとは思ってたが、二人同時にプロポーズまで漕ぎ着けるとは思わなかった」

「こんな時期に式を急ぐと思ったら、そういう理由でしたか」

「いや、早くラセツは俺のもんだって周囲に知らしめたかったのが一番の理由」


 はぁとシュラが息を吐く。


「本当、敵いませんよ、あなたにも」

「天下の鬼神さまに一目置かれるのは気分がいいな」

「いいからさっさとラセツのところに戻りなさい」

「あの衣装、脱ぐの大変なんだと」


 そういえば、いつの間にかヤシャはいつもの服に着替えている。

 ルネロームはいいもの見れちゃったわと嬉しそうに笑った。


「それじゃあ、わたしは向こうの客室だから。またあとで」


 くるりと回ったルネロームは機嫌よく跳ねるように廊下を曲がって去っていった。


「プロポーズしてくれたならちゅーの一つくらい」

「はいはい、二人きりになったらいくらでも」


 シュラがコウの手を引いて住居棟へ消えていった。

 残ったのはぼくと男、ヤシャだけ。

 ヤシャはぽんとぼくの頭に手を乗せた。

 なんだろうと見上げると、いたずらっ子のような左目と出会う。


「んで、またなんで結婚するのって聞かねぇのか?」


 ぼくは目を瞬いた。そして小さく首を横に振る。


「もういいや」


 おや、とヤシャは目を瞬く。


「なんかわかったか」

「わかんない」

「お?」


 ぼくは男を見上げる。男も首を傾げていた。


「わかんないけど、わからないのが正解なのかも」


 ほう、とヤシャがぼくの頭を撫でる。


「その心は」

「だって、みんな違うんだ。みんな違うことを言うんだ。……きっと、ぼくの答えも違う。誰に聞いたって、流石にそれはわからない」


 そりゃそうだなとヤシャは笑った。

 それに、とぼくは俯く。淡い黄色の靴が灯りに照らされて白く光っている。


「ぼくが本当に知りたかったのは、どうして結婚するのか、どうして誰かと一緒にいようとするのか、じゃないんだ」

「ほう?」

「どうやったら、ずっと一緒にいられるのかがわからなかっただけ。一人になりたくなかっただけ。誰かと一緒にいたかったのはぼくの方。だけど、ずっとなんてない。それをどうしたらいいのかわからなくなってたんだ」

「……そっちの答えは見つかったのか」


 ぼくは否定も肯定もしない。


「人ってみんな同じ時間を持ってるわけじゃないんだから、ずっとなんていられないんだ」


 そうだな、と男も頷く。ヤシャも頷いた。


「同じ神族でも、長く生き続けるやつもいれば、病や事故で早く死ぬやつもいる」


 うん、とぼくは頷く。


「だから、ずっとなんて無理。それでも人は誰かと一緒にいたいって思うものなんだね」

「そうだな」

「一緒にいられるかってことと、一緒にいたいってことは別なんだ。……ううん、なにが言いたいのかよくわからなくなってきた」


 はははとヤシャは笑ってぼくの頭をぽんと叩いた。


「じゃあ、その誰かは決まったか」


 ヤシャがにやにやとぼくと男を見る。ぼくは男を見上げ、ヤシャを見た。


「今はヴァルが一緒にいてくれるらしいから、それでいいや。……せんせいもいるしね」

「おや、わたしは忘れられているとばかり思っていたが」


 くくくとせんせいが笑う。


「忘れてない」


 おやおや、とせんせいは笑いながら去っていった。

 ぼくは肩をすくめた。


「アーサー、久々だな」

「なんか神界の空気が合わないんだって。ずっと寝てるみたい」

「せんせーでもそんなことあるのか」


 みたい、とぼくは頷く。

 さて、とヤシャはもう一度ぼくの頭をぽんと軽く叩くと来た道を戻り出す。


「そろそろラセツも楽な恰好に着替えただろうから、戻るわ」

「暇潰しに来たの?」

「おまえらの様子見とロウたちがどうなったかの偵察だよ」


 暇潰しとどう違うのだろうか。

 ヤシャが手を振って去っていく。ぼくと男は顔を見合わせた。


「ちょっとお腹空いちゃった」

「あー、ちょこちょこ食べてたけど、食べたっていう気分には程遠いもんな」


 ぼくたちは頷いて、住居棟にある自分たちに充てられた部屋に向かう。


「そのまま寝ないでよ」

「はーいはい」


 部屋でいつもの服に着替える。可愛らしい服はちょっとだけ名残惜しいような気もするけど、気のせいだ。だって、ぼくは着飾る必要のない旅人だから。

 髪もいつもの三つ編みに戻して、部屋を出る。

 同じときに扉を開けて男が廊下に顔を出した。髪はまだ後ろに撫でつけられたままだ。


「髪どうしたの」

「固めるやつ使ってるから、風呂入るまでこのままだな」


 髪型を固定するにはそういうものもあるのか、とぼくに役に立たない知識が一つ増えた。

 並んで食堂へ向かう。


「明日には地上に戻ろうか」

「……あ、そういえばクロエ待たせてるんだった」


 クロウェシアも待ちくたびれていないだろうか。探し人について、ルネロームに聞いてみようか。


(今日はなんとなくやめておいた方がいい気がするから、明日かな)


 さっき視界の端でヴァーンがルネロームの客室の方へ向かうのが見えた。

 邪魔するのは野暮だろう。


「なんか久々に二人な気がする」


 男がぼくを見下ろした。

 確かに、ずっと誰かが近くにいたなと思い返す。

 明日、地上に戻ればクロウェシアと合流することになる。また誰かがいる状態だ。

 嫌ではないけど、ちょっと騒がしくなる感じ。

 男も同じようなことを考えたのだろう、へにゃりと眉を下げた。


「まぁ、ティアがいるからいいか」

「せんせいもいるよ」

「わかってるよ」


 二人でくすくすと笑う。

 食堂はすぐそこだった。


結婚式関連では(でも)友人苺に大変手伝ってもらいました。ありがとうございます!

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