32 逃走の果てに 2/2
心臓が落ち着いたのは一晩経ってからだった。部屋の扉の前で男や何人かがずっと呼んでいたが反応も出来なかった。
夜中にそっと誰かがもとの服を持ってきてくれていたらしく、それを回収して着替える。いつものシャツにいつもの上着。こちらの方がずっと落ち着く。
朝になって、ぼくは息を吐いてそっと部屋の扉を開けた。細く開いた隙間から廊下を伺うと、柱にもたれて船を漕いでいる男の姿が目に入った。
(一晩中そこにいたの?)
いつもは三度の飯より寝るのが好きで、隙あらばベッドに潜り込むくせに。
がくりと首が落ちてはっと我に返った男と目が合う。
「おお、ティア、おはよう」
眠たそうに目をこする姿はいつも通り。
ぼくは小さくおはようと返して、そっと部屋から出た。周囲には誰もいない。
そろそろと部屋を出たぼくの両腕を男が掴んだ。正面から手を繋ぐ形になり、ぼくはぽかんと口を開ける。
「……なに……?」
「いや、捕まえとかないと、ティアはまた逃げるから」
「に、逃げない……」
えー、と男は繋いだ手を横に揺らしながら首を傾げた。
「なんでずっとそこにいたの」
「おれは昨日、言いたいことは全部言ったけど、ティアがどうしたいかとか、聞いてないから」
昨日のことを思い出してまた心臓が跳ねる。
今日は誰も見ていないのに、どうしてこんなに鼓動が早いのだろう。
「ぼくが、どうしたいか……」
うん、と男は頷く。
「おれはまたティアと旅がしたい。けど、ティアがそれは嫌だって言うなら……ちょっと我慢するから、折衷案考えよう」
ぼくは首を振る。
嫌だなんて、思ってない。
「ぼくは、本当にヴァルの隣にいてもいいの」
「ティアがいてくれないと、おれもっと駄目になるぞ」
「ぼく、また自分の意思と関係なくなにかを壊すかもしれない」
「ティアの意思じゃないなら、おれが止めるよ」
「ぼくは、おと、さん……あの人のこと……」
男はぼくの視線に合わせて少しだけ腰を屈めた。
「好きとか嫌いってはっきり決めてしまわなくてもいいんじゃないか。はっきり決まってることなんて、世の中あんまりないみたいだし」
男がまた繋いだ手をふらふらと揺らした。
「ティアは、どうしたい?」
ぼくは。
「ぼくは、ヴァルと一緒にいたい……嫌われたくないっ」
「嫌ってないよー」
男はふふと笑う。
「おれと同じだ」
「……ああ、寝てないからテンションがおかしいのか……」
「おかしい言うな」
男は右手を離すとぼくの頭を撫でる。
「もう逃げないでくれよ」
「……うん」
さて、と男はぼくの右手を引いた。そのまま歩き出す。
どこに行くのかと思えば、ヴァーンの執務室だという。
「ヤシャと族長さんにはお世話になったし。それに族長さんに聞きたいことがあるから」
「伯父さんに聞きたいこと?」
うん、と男は頷く。
男の足は長いのでぼくは小走りになるが、いつもよりは気を使っているのかゆっくりだった。
ヴァーンの執務室に行くと、当然のようにヤシャもそこにいた。隣にはいつものように、背中に定規でも入っているかのように直立するラセツ・エーゼルジュ。
ヴァーンは忙しそうにしていたが、ぼくたちが入ってきたと知ると表情を崩して微笑んだ。
「おお、仲良しさんだな。仲直りは出来たのか」
「お世話になりましたー。いや、喧嘩はしてないけど」
そうだな、とヴァーンと男はにこやかに話している。
いつまで手を繋いでいるんだとぼくは男の手を振り払った。
「素直な時間が終わった」
「ぼくはいつでも素直に生きてる」
「えぇ……」
そんなことより、男がヴァーンに聞きたいこととはなんだろうか。
男を見上げると、彼は苦笑してヴァーンに視線を向ける。
真面目な話だと気付いたヴァーンやヤシャたちも姿勢を正す。
「ティアの父親について――ティアは実験台だって言ってた。アライアってやつはなにをしようとしているのか、ティアになにをしたのか、ティアは今は……今後は大丈夫なのか。それが知りたい」
こくりとヴァーンも頷く。
「アーティア、心苦しいかもしれないが……右腕の傷というのを見せてくれないか」
ヴァーンたちの目がぼくに向けられる。
こくりと唾を飲み込んだ。
大丈夫、と自分に言い聞かせて、ぼくはグローブを脱いでポケットへ入れる。上着の袖をめくると、ラセツが息を飲んだ。
青黒い血管のような刺青、それは上書きするように出来た傷と火傷で半分も見えない。手の甲には穴でも空いていたような大きめの傷。
血管のような刺青はちょうど肩の辺りで止まっている。
「痛みはないのか」
男がそっとぼくの腕に指を添わせながら眉をひそめた。
ぼくは首を振って「痛みはないよ」と言う。
「むしろもう感覚なんてないんだ。動くけど、今触れられてるっていう感触はない」
「そう、なのか」
どうして男が痛そうな顔をするのだろう。
「その手の甲の傷は?」
「多分、おと――あの男に青い石を毟られた痕だと思う」
「むしっ……」
手首だけ返されたのに、どうしてぼくの右手はちゃんとくっついているのだろう。その辺りの記憶は曖昧だ。
でも今はそんな回復力はないように思う。でなければ、右腕に傷は残っていないだろうし、左手の縫合痕もないはずだ。そもそもレッド・アイに腕を切られたときだって、男に変に心配させずに済んだだろうに。
「青い石か……」
ヤシャが呟く。
ヤシャの右腕に嵌っていたのと同じ青い石だと、今では確信出来ている。
「あの青い石ってなんなんだろう」
ヴァーン、とヤシャが静かに名前を呼んだ。
二人は難しい顔をしてぼくを見下ろしている。
「……そうだな、話しておいた方がいいか」
「?」
男を見上げると、少し事情を知っていそうな顔をしていた。知らないのはどうやらぼくだけらしい。
「実は、その青い石をばら撒いているのが例の魔族、アライアだと思われる」
「!」
ヴァーンを仰ぎ見る。口は引き結ばれ、その口調は重たい。
「そもそもその青い石がなんなのか、というと――魔法族の封印について話さなくてはならない」
魔法族の封印。
ぼくと男は顔を見合わせる。
いつだったか、シュザベル・ウィンディガムが予想した通りだ。
「魔法族の封印というのは、大昔の戦争で時の神族族長と魔族族長が戦い、その力がぶつかったことで力が暴発したことに由来する。その暴発する力を封印し、七つの鍵を作った。それが七つの<精霊>であり、各魔法族の始まりだ」
まずは封印ありきだったのか。
「光、地、風、水は魔族の力を封印し、神族が管理している。闇、炎、雷は神族の力を封印し、魔族が管理している」
予想通りだったらしい。だから魔族は光、地、風、水を襲い、ヴァーンはかつて<雷帝>を殺したのか。
「今は神族の管理する封印が若干綻ぶ時期だ。なにがあってもおかしくはないと思っていたが……まさか、封印されているもの自体があちこちにばら撒かれているとは思わなかった」
「封印されているもの、自体?」
ああ、とヴァーンは頷く。
「青い石だ」
「!」
「青い石が封印されているの?」
「少し違うが……その石に力が封印されているという」
ヴァーン自身は見たことがないらしい。
青い石に封印されている。
つまり、青い石にはとてつもない力が宿っていることと同義だ。
「それを……アライアがばら撒いている?」
こくりとヴァーンは頷いた。
「なんのためにそんなことをしているのやら」
「……青い石……実験……つまり、俺の蘇生も実験の内だったってことか」
ラセツが不安そうな顔でヤシャを見た。
ぼくはラセツを見上げて大丈夫と伝える。
「大丈夫だよ。もうヤシャにあの青い石から発せられる、気味が悪い魔力は感じないから」
それを聞いてラセツはほっと胸を撫で下ろす。
「アライアがどういうつもりかはわからないが、もし魔法族の封印が解ければ――神魔戦争が起きるのは必至。絶対に阻止しなければならないことだ」
「族長さんが封印されている力を手に入れるっていうのは?」
「……いや、それはやめておいた方がいい。封印を解くにはそもそも精霊の死を意味する。通常の場合、精霊と繋がっている精霊神官の命すら危ぶまれることだ」
ヴァーンは首を横に振った。
確かに、戦争を回避するためとはいえ数人の魔法族と精霊を犠牲にするのは気分がいいものではない。
(だから伯父さんは封印をどうこうしようとしない?)
よくわからない事情が、まだありそうだなと思った。
「ヘルマスターは……暇潰しだろうな」
「ひ、暇潰しで戦争を起こそうと?」
「そういうやつだからな」
あの子どもの姿をした王は思っていた以上にとんでもないやつらしい。
ヴァーンはアライアの目的は今全力で探らせていると苦々しい顔で言った。
アライアの目的。
青い石を使って、一体なにをしようとしているのだろう。
つきりと右腕が痛んだ気がした。
そういえば、とぼくは隣に立つ男を見上げる。
「ヴァル、服脱いで」
「は!?」
「ティア、そういうのは二人っきりのときに……」
なにを勘違いしているのかわからないが、ぼくは眉間に皺を寄せた。
「胸の痣を見せて」
「ああ、そういうことか」
「なんだと思ったの……」
ヤシャも何故か胸を撫で下ろしている。
男はあんまり人に見せるもんじゃないけど、と外套と上着を脱ぎ、シャツの前をはだけて見せた。
心臓の上に青黒い刺青のような痣が見える。
「いつ見ても痛々しそうだな」
ヤシャも顔をしかめる。
「ヴァーレンハイト、それは……」
男は一瞬だけぼくを見下ろして、こくりと頷いた。
「十五年前にティアにつけられた傷跡」
「ねぇ、これ……ぼくの右腕に似てない?」
ぼくが言うと、ヴァーンたちはぼくの右腕と男の心臓部を見比べた。ぼくの右腕は傷跡と火傷痕でわかりにくいが、薄っすらと見えるそれはやはり似ているような気がする。
「でもおれ、アライアらしき魔族になんて会ったことないぞ」
「……ぼくの右手には、未だにヴァルの心臓を貫いた感触が残ってる。ううん、思い出した」
「……」
「確かに、あのときぼくはヴァルを殺したんだ。でも、ヴァルはこうして生きてる……もしそれが青い石の力だとしたら? その痣がその証だとしたら?」
言いながら、ぞっとする。
ぼくの記憶では手の甲の青い石から、それが外されても徐々に腕へと侵食していった。こうして傷と火傷で覆われるまでは肩まで伸びてきていて、そのうち心臓や脳に到達するものだと思っていた。
けれど、それは止まった。男に焼かれ、貫かれ、海に落ちたことで大きな消えない傷が出来たから。
男を見上げる。
「ヴァルのそれは、大きく広くなってたりしない?」
男は少し考えて、首を横に振る。
「いや、それはないと思う。ただ……確かにおれはあのとき死んだと思ったんだよな」
「つまり……アーティアの右腕からヴァーレンハイトの心臓に力が移ったということか?」
ヴァーンの声に、ぼくは恐らくと首肯する。
「うわぁ、おれ、やっぱり死んでたのか」
「正確には……死にかけてた?」
今のぼくの目には男の心臓部を中心に、全身を薄っすらと青黒い魔力が巡っているのが見える。きっといろいろ思い出したことで精神的な障壁が外れ、見えるようになったのだろうとはせんせいの談だ。
死にかけた者を生き返すまでの力を持った青い石。
きっと、使い方を誤れば簡単に恐ろしいことを現実にすることが出来るだろう。
男はシャツを整えて、俯くぼくの頭を軽く混ぜっ返す。
「じゃあ、ティアのおかげで死なずに済んだわけだ」
「いや、殺しかけたのもぼくだよ」
この男はなにを言っているのだろうか。呆れてぼくは息を吐く。
「つまり、ヴァルの身体の中には青い石……の残り香? みてぇなもんがあるってことか」
「多分。ぼくの中にあった一部がヴァルに移ったおかげで、ぼくの腕の浸食も止まったんじゃないかな」
「ヴァーレンハイト、その傷を受けてからなにか変わったことは?」
ヴァーンの質問に、男は外套を羽織りながら考える。
「ああ、そうだ。魔力量が飛躍的に上がった。あと……呪い系を受け付けなくなったかな。レッド・アイの邪眼とか」
そういえば、かの<五賢王>と戦ったとき、男に邪眼の能力が効かなかった気がする。
「今のところ、ヴァルにとっては悪いことばかりじゃねーってことか」
「ヤシャもね」
ヴァーンは難しい顔で口を引き結ぶ。白い布の下では眉間に皺が寄っているだろう。
「力だけでは、それは使いよう次第ってことか……」
ヴァーンが息を吐く。ぼくと男を交互に見た。
「青い石は魔法族の封印から逃れたうちの一部でしかない。幸いにしておまえたちには悪くない効果があったらしいが、全てがそうとは限らない」
例えば、とヴァーンは手元にあった紙の山からいくつかの書類を取り出す。覗き込めばなにかの報告書のようだった。
「最近、各地で報告されている例だ。魔獣の凶暴化や暴徒と化す人々、死者が墓から蘇り親族を襲ったという例も報告されている。……いずれも、身体のどこかに青い石の欠片が埋め込まれていたようだ」
ひぇと男が小さく悲鳴を上げる。男が見ているのは死者が墓から蘇った例の報告書。
一歩間違えば、男もそうなっていたのかもしれないと思うとぼくも顔が引き攣った。
「おれとヤシャはある意味、成功例ってこと?」
「だろうな」
ヤシャは以前にその報告書を読んでいたのだろう、それほど大きな反応はなかった。
ぼくたちの知らない間に、地上は随分と物騒になっていたようだ。
地上にいるジェウセニューやモミュア、ルネロームたちは大丈夫だろうか。ルイやティアナたちは妙なことに巻き込まれていないだろうか。
出会った人たちのことを思い浮かべる。
(……いや、なんか大丈夫そう……)
そう思ったぼくは悪くないと思う。
ただ、それ以外のいつか出会った旅する道化師と幼女や、嫁いだ姫と小さな騎士、凸凹な巨人族と人間族……あの人たちは大丈夫だろうかと考える。
以前のぼくではそんなこと考えもしなかっただろうなと思った。
「この面倒くさい騒動を終わらせるには……<冥王>さんは族長さんに任せるとして、問題はアライアか……」
「あの人の目的もわからないし、居場所も……」
こくりと男が頷く。それだよなぁ、とヤシャもぼやいた。
現状ではなにも出来ないということか。
「なにかあれば追って知らせる」
ぼくと男は揃って頷いた。
「……でも、出来ることがないってのもしんどいな……」
「ヴァルがやる気ある発言をしている……」
ヤシャが小さく吹き出した。
ヴァーンもくくと笑うと、横にいたラセツに手振りでなにかを指示する。
「とりあえず、おまえたちが今からすべきことはこれだな」
ラセツが二枚の紙をぼくたちに渡す。
受け取ると、結構しっかりとした紙で出来た手紙のようなものだ。
なんだろうと折り畳まれたそれを開くと、招待状の文字。
「招待状?」
「……結婚式のご案内」
顔を上げてラセツを見る。顔を真っ赤にして居心地悪そうにしていた。
ヤシャを見れば気まずそうに頭を掻いている。
「いや、おまえらが大変なときにこういうのもどうかとは思ったんだがな」
「タイミングが悪かったな。……いや、一段落したのだからいいだろう」
「これ、もしかしてヤシャとラセツの?」
三人が揃ってこくりと頷く。
そういえばヤシャが招待がどうのと言っていたような気がする。
「ってことでアーティアにはラセツのヴェールを持ってもらおうと……」
「待って、なんで伯父さんがそれを知ってるの!」
ヤシャとも出会う前だ。本当になんで知っているんだ。
横を見ると男がぼくから必死に目を逸らそうとしている。おまえか。
「ヴァル?」
「いや、似合ってたからいいじゃん」
脛を蹴っておいた。
「まぁ、冗談だけどな」
「たちが悪い」
ぼくが唇を尖らせると、ヴァーンはくくと笑った。
「意外と城下でも注目されているイベントだ。ただ飯を食うとでも思って気軽に参加してくれ」
「作法とか全く知らないよ?」
「その辺は簡単に教えておいてやるよ」
それならいいか。ぼくは男を見上げる。男も頷いた。
招待状の参加という文字を丸で囲んでラセツに返す。ラセツは嬉しそうにはにかんだ。
不意にコツコツと扉が叩かれる音がして、開いた扉の隙間からコウが顔を出す。
「ヴァーンさまー、ヤシャー、ラセっちゃーん、お客さんだよぉ~」
入室してきたコウの後ろには女性の姿。
その姿を見てヴァーンは机を揺らして立ち上がった。
「る、るるるるルネローム!?」
「ヴァーン、久しぶりね」
にこにこと手を振る女性――ルネロームは最後に会ったときから変わらずほわほわと微笑んでいる。
ヴァーンはばっとヤシャを振り向いた。ヤシャは腹を抱えて静かに笑っている。
「ヤシャ……おまえか!」
「だってルネロームはおれの恩人でもあるからな。ルネロームのおかげでここに帰ってこれたと言っても過言じゃない。となると招待するのは当然だろう」
ヤシャが胸を張る。
ルネロームはラセツにお招きありがとうと挨拶をしていた。
「ティアちゃんとヴァルちゃんも来てたのねぇ」
「ルネロームも……よく来れたね……」
「お迎えに来てくれたの。ジェウも誘ったんだけど、すっごく嫌がって……モミュアちゃんに頼んで出てきちゃった」
うふふと笑っているが、ジェウセニューの心中を考えると察するに余りある。
どんな気持ちで自分を殺した人物の本拠地に来れるんだ。
笑いを治めたヤシャが男の名前を呼ぶ。
「前に神族に擬態するのやってたろ。あれをルネロームにやること出来るか?」
「目の色変えて魔力抑えるやつ? 出来ると思うけど」
「んじゃそれ頼むわ。呼ぶのはいいが、流石に人前に晒すのは問題あるからな」
本当によく呼んだな?
男は軽い返事と共に魔術陣を展開し、ルネロームに魔術を発動させる。一瞬のうちにルネロームの黄色い瞳は赤いものに変わった。
ラセツの取り出した手鏡を見て、ルネロームはきゃっきゃとはしゃぐ。
「まぁ、すごい! 昔のヴァーンとお揃いね」
「おれの目玉、今はもう溶けたけどな」
一言多い。
ついでにぼくの右目と自分にも同じ術をかけ、男はぱちぱちと瞬きした。
「……ぼくまでしなくてもいいのに」
「ずっと眼帯着けてるのも大変だろ」
もう慣れているのに。
ありがと、と小さく言うと、男は満足そうに頷いた。
「よーし、じゃあ三人は今から当日用の衣装探しに行こっか!」
コウがぼくとルネロームの手を引く。
背後でヴァーンがなにか言っているが、コウはにこやかに無視する。ヤシャがまた腹を抱えて笑っていた。
「当日用の衣装って……」
「一応、おめでたい席なんだから、ちょっとはめかしこんだっていいじゃん?」
ついでに城下を簡単に案内してくれるという。
ぼくは男とルネロームを見た。ルネロームはもとより乗り気だ。
男は肩をすくめる。
「たまにはいいんじゃないか」
「……スカートだけは絶対嫌だ」
「ええ、可愛いの探そうと思ってたのに」
コウが唇を尖らせる。
断固拒否した。