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27 寄生するもの 1/2

 少々風が強い日だ。雨は降りそうにないが、雲の量は多い。気温は平温。

 ヴァーレンハイトは相棒のアーティアと共に魔法族セブンス・ジェムの集落を発った。

 今はルネロームとモミュアが作ってくれたお弁当を開きながら、昼食の時間だ。

 入れ物を開けた瞬間、おかずでヴァーレンハイトたちの顔が模られていたのは驚いた。微妙に食べにくい気がするが気のせいだということにしておこう。アーティアの白い髪はしらたきで作られていたので、あちらは妙にしらたきの多いお弁当だ。

 ヴァーレンハイトの頭はトマト系の味付けがされたパスタだった。


「今日の昼、ジェウセニューも同じようなもの食べてるらしいな」

「ジェウセニューの場合……イカ墨パスタでも使ってるのかな……」


 ああでも白い布を頭に巻いているし、他の白い食材か。

 そんなことを言いながら完食。入れ物はちゃんと気遣ってくれたらしく、小さく畳んで捨てられる使い捨てのものだった。


「もう少しあの集落にいてもよかったのだがね」

「せんせい、そればっかだね。そんなに気に入ったの、あの集落」


 アーティアが肩をすくめる。


(あれ、)


 ヴァーレンハイトは目を瞬く。

 アーティアの目が両目とも金色に光っていた。


「……ティア、どうした、それ」


 それ、と首を傾げる相棒は、しかしふと気付いたらしくああと頷いた。


「せんせい」

「ああ、ヴァーレンハイトくんは初めて見るのだったね」


 金色の目が瞬く。


「せんせいが出てくると何故か左目まで金色になるんだよね」


 ぱちりと開いた左目はいつもの赤色だった。

 見慣れた色にほっと胸を撫で下ろす。


「なんだってそんなことに?」

「さぁ?」


 原因はわからないらしい。


「いつごろから?」


 どうだっけ、とアーティアは首を傾げる。その仕草は随分と暢気だ。


「多分……ヤシャの身体が戻ったくらいのころかな」

「結構前じゃん」


 その辺りなら確かにバタバタとしていて人が周囲に多かったからアーサーも出てこなかった時間が多い。

 相棒の変化に気付けなかったこと、そしてヤシャが言っていた言葉を思い出して肩を落とす。


――アーサーに気を付けろ。決して気を許すな。


 何故ヤシャはそんなことを言ったのだろう。

 確かにアーサーは変わった存在だ。身体がないからアーティアに憑依している幽霊とどう違うのだろう。

 もしなにかあったとき、ヴァーレンハイトはアーサーとヤシャ、どちらを信じるだろうか。また、アーティアはどうなるのだろうか。


(……アーティアになにかあったら、ってなんだろ)


 嫌な想像をして、ヴァーレンハイトは首を振る。それをアーティアは不思議そうに見上げている。

 不意にポケットの中の石が熱を持つ。


「あっつぅっ」


 布越しに触れた足が火傷したのではないだろうかというほどの発熱。やっとのことでポケットから取り出すと、赤い石が金色に光っていた。

 茫然と見ているとそれはすぐに治まってしまう。


「なん……え、なに……?」


 発熱も治まった。なんなのだろうか。

 ヴァーレンハイトは石を摘まんで陽光に翳す。いつも通り、なんとなく温かいだけの石だ。


「どうしたの」


 突然一人で騒ぎ出したヴァーレンハイトをアーティアが胡乱な目で見上げている。

 どう説明したものか、とヴァーレンハイトは息を吐く。


「なんか……急に石が熱くなった」


 はぁ、とアーティアが首を傾げる。赤い石をアーティアにも見えやすい位置に掲げてみるが、アーティアはそれを見て「まだ持ってたんだ」と言った。


「通りすがりの人に貰ったんだっけ。なんで持ってるの?」

「あー、これ持ってると魔術使用後の眠気が軽減されてる気がするんだよね」

「それは是非持っていた方がいい」


 アーティアが真面目な顔をして頷いた。

 ううん、と首をひねるのは金目になったからアーサーか。


「わたしとしては、余り近付けてほしくない気がするのだがね」


 嫌そうに眉をひそめている。


「その赤い石にはなんらかの魔力を感じるのだよ。そう……力を抑制するような、なにか」


 その言葉でふとヴァーンに言われたことを思い出した。

 石をアーティアの眼前に持っていき、ヴァーレンハイトは彼女の名前を呼んだ。


「魔力感知だとどう見える? 族長さんがティアならなにかわかるかもって言ってたの思い出した」


 おや、と声を上げてアーサーが引っ込む。左目はもとの赤に戻った。


「近いよ。……ううん、確かになんか不思議な魔力をまとってる気がする。効果は多分、なんらかの抑制。この魔力は……誰だろう、見たことない……神族ディエイティストでもないし……」


 どうやらアーティアでもよくわからないようだ。


「隠蔽……違うな。これ本当に誰かが作ったの? って言いたくなるくらいどこの誰が付加したのかわからない。こんなこと初めてだ」


 普段は知らない者が魔力を付加したとしても、最低でもどこの種族かくらいはわかるらしい。

 それがこの赤い石には見えない。いや、ぼんやりとしていてわからないという。

 効果もなにかを抑制しているのはわかるらしいが、そのなにかがはっきりとはわからないようだ。

 アーティアがそっと石に触れようとすると、バチンと静電気のようなものが弾けて彼女の手を拒んだ。

 ころころと足元を転がり、ヴァーレンハイトの靴にこつんと当たる。


「なに、今の……」

「わからない」


 赤い石を拾うが、なにもない。

 石がアーティアを拒絶した? 以前はそんなことなかった気がする。どうしてだろう。

 だから言ったのに、とアーサーが再び顔を出した。


「それはなんらかの理由でわたしとアーティアを弾いたようだね。他に誰かに見せたりしたかい」

「族長さんに渡したときはなんともなかった」

「ならやはりその赤い石はわたしたちを弾いたのだろう。原因は――なにかわからないが」


 やれやれ、とアーサーは首を振る。

 捨てた方がいいという考えが首をもたげる。だが、ヤシャの言葉やこれをくれたアレックスの言葉を思い出すとそれは出来ない。

 アーティアが肩をすくめる。


「ぼくたちの前に出さなければ、持っていてもいいんじゃない。というか眠気が軽減するなら持っていた方がいい、いや持ってろ」


 アーティアはヴァーレンハイトの石を転がす手を握らせた。直接触れなければ拒絶されることはないようだ。


「ただ文句は言いたいから、それを寄越した自称通りすがりは見かけたらすぐ報告して」

「……わかった」


 またもとのようにポケットに仕舞う。発熱の原因もわからないし、ちょっと持ち方を考えた方がいいのかもしれなかった。

 なにより痛いし熱い。石に付加された能力はそのままに加工出来ないだろうか。してもいいのか?

 しばらく襲い掛かってくる魔獣を倒しながら丘を越える。

 アーティアがくれた軽減の腕輪と赤い石のおかげか、随分と身体が軽い気がした。



――ぐぅるるうるぅぉおおあるあぁぁああぁあっ

 巨大な咆哮が聞こえてヴァーレンハイトは身を固める。アーティアが素早く大剣を抜いた。

 メキメキと音を立てて木々が倒れていく。

 やがて姿を現したのは巨人族ティトンより大きな亀のような魔獣。いや、これはもはや低級の魔族ディフリクトと言ってもいい存在だ。

 アーティアの大剣には一応魔族殺しの性能を備えているが、これほど大きな姿をした魔族はあの魔界ですら見たことはなかった。

 念のため自分とアーティアに防御力向上の補助魔術を付加しておく。

 大きな足がゆっくりとヴァーレンハイトたちを押し潰そうと持ち上がった。


「うわぁ……でけぇ……」

「いいから回避!」


 アーティアがヴァーレンハイトの首根っこを掴んで跳躍。ヴァーレンハイトは指を宙に滑らせて魔術陣を展開。上空から氷の槍を降らせた。

 掠った場所は凍り付くが、それだけだ。全体を凍らせるには力不足だし、そもそも大きさが足りていない。

 もう回避するだけでいいじゃないかと相棒を見れば、楽しそうに目を爛々と光らせていた。


「あのー、アーティアさん?」

「これほどの魔力にあふれた魔獣……いや、魔族! 魔核は見たことないくらい大きいはず!」


 魔核は魔獣の核よりも高値で取引される傾向にあるが、一部では人道に悖るとのことで取引禁止されているのをこの小さな相棒は覚えているのだろうか。

 ヴァーレンハイトはため息を吐いて新たな魔術陣を展開した。

 アーティアはヴァーレンハイトを放り出すと再び地を蹴って跳躍。大剣を振り上げて大亀の足を横一線に切り裂いた。

 それでも半分くらいしか切れず、青い血を流しながら大亀は暴れるように足を振り上げた。


「骨まで届かなかったか」


 アーティアが悔しそうに吐き捨てる。

 ヴァーレンハイトは走りながら大亀の傷口に向けて再び氷の槍を投擲した。円周が小さくなったおかげか傷口と足が凍った。

 これなら、とアーティアが走り再度跳躍。大剣を叩きつけるように凍った足にぶつけた。

 冷たい音がして足が折れた。

 がくりと膝をつく大亀。アーティアはその隙を逃さず足に飛び乗りそのまま頭の上まで走った。

 遠見の魔術を展開し、アーティアの視界を捕捉。共有した視界では大亀の額に青く光るなにかが見えた。

 ついでに展開した魔術陣を使ってアーティアに声を飛ばす。


「額になにかある」


 こくりとアーティアも頷く。


「うん、見えてる。あれ……ヤシャのときと同じ青い石だ」


 アーティアが額を滑り、石の場所まで降りる。大剣を刺して高さを固定。喚く大亀の頭を魔術陣から発生した蜘蛛の糸が地面に固定した。

 アーティアの視界では脈打つ石とそこから伸びる青黒い血管のようなものが全身に巡っているのが見えた。


「うえぇ、気持ち悪っ」

「どうしようか」

「とりあえず首切ってみるとか?」


 ヴァーレンハイトは薄目でアーティアの視界を確認しながら適当に答えた。

 そうか、とアーティアが大剣を引き抜き振り上げる。


「身体強化お願い」

「マジでやるんだ。いいけど」


 身体能力強化魔術を素早く展開、遠投。アーティアが大剣を振り上げた。

 振り下ろされる衝撃波。

 ヴァーレンハイトは顔を腕で守りながら防御障壁を作り出した。

 大亀の首がごとりと落ちる。雨のような青い血が辺りに降り注いだ。障壁がそれを弾くのを見ながら、ヴァーレンハイトは青い顔で顔を引き攣らせる。

 地響きを立てて大亀の身体が地面に横たわった。

 アーティアにも障壁は届いていたようで、返り血に濡れている様子はない。

 近付きながら、魔核の位置を探る。どうやら額にあるようだ。

 アーティアは大剣を一振りして血を拭う。


「お疲れ」

「魔核は?」

「額。丁度、その青い石が寄生している位置かな」


 アーティアがもう一度、大剣を一振りすると青い石が脈打っている大亀の額の表面を抉り取った。

 ずるりと表面がめくれ、その下にあった大きな魔核が顔を出す。


「でっか」


 アーティアの身長くらいありそうな直径だ。綺麗な球型とは言えないが、それなりに力が宿っていそうな魔核だ。


「流石にこれを人里まで運ぶのは無理じゃない?」

「でもこれだけ大きいんだからそれなりの金額になるはず……」

「いや、魔族の魔核は取引出来る場所が限られてるでしょ」


 アーティアが唇を尖らせる。子どもじみた仕草にヴァーレンハイトは小さく吹き出す。


「それにしても、また青い石か……」


 ずり落ちた表面の肉に付着する青い石は既に脈動を止めている。


「こうして見ると、普通の石なんだけど」


 つついてみようと手を伸ばすとバチンと衝撃が走り、ヴァーレンハイトは手を引っ込めた。


「いったぁっ」


 なにやってるの、と魔核から視線を逸らしたアーティアが呆れている。

 指先がビリビリと痺れている。


「どうやら今度はヴァーレンハイトくんが青い石に拒絶されたらしい」


 アーサーには見られていたようだ。なんとなくバツが悪くて、ヴァーレンハイトはアーサーと青い石から目を逸らした。


「その青い石、魔力感知だとどう見えるんだ?」


 アーティアは青い石の方へ近付く。

 じっと見ていると思うと、おもむろに小さな手を伸ばした。


「ちょ、ティア」

「平気」


 ころりとした青い石は呆気なくアーティアの右手の中に納まる。

 握り締められた石はアーティアが軽く力を入れただけでパキと音を立てて割れた。彼女が手を開くと、割れた石が青い液体となってどろりとアーティアの手を滴る。

 それは地面につく前に消えた。

 ヴァーレンハイトにはアーティアの手に滲み入り込んだように見えて気分が悪い。


「ティア、大丈夫か?」

「……うん」


 そう言いながらも右腕をさすって顔をしかめている。

 やっぱりあの青い石はよくないものなのだろう。ヴァーンならなにかわかるだろうか。けれどヴァーレンハイトに神族と渡りをつける当てはない。

 じわりと胸の痣が痛むような気がした。


「青い石……あれを壊すとなんだか力が強くなった気がする」


 そういうアーティアの顔色はよくない。

 ヴァーレンハイトには悪いものにしか思えなかった。


「あちこちにあるのかな……」

「さぁ、どうだろうね。だが、探してみる価値はあるかもしれない」


 アーサーまで言い出して、ヴァーレンハイトは口ごもった。

 息を吐いて顔色がもとに戻ったアーティアは、魔核が埋まったままの大亀の頭部を見上げる。


「どうしよう、これ」

「いや、諦めようよ」


 アーティアは不満そうだ。

 まぁ、かといってこのままこれを放置するのも気が引ける。

 どうしたものか、と考えていたとき、ふと甲羅の上に誰かが立っていると気付いた。

 見上げるとそいつは気付いたことに気付いたのか、滑り降りてくる。

 子どもだった。アーティアよりは背の高い少女。ホウリョクと同じか少し高いくらい。

 前髪を真ん中で分けた短い髪は黒く、こちらを興味深そうに見上げている目も黒い。左頬に花のような刺青。襟の白い紺色の服を着ていて、それは海兵の制服にも似ていた。胸元の赤いスカーフが風に揺れている。

 少女は丸腰で、冒険者のようには見えない。連れがいるとも思えなかった。


「んふふー、あたし見てたよ! 二人がこの大亀さんを倒すところ!」


 にこにこと少女は機嫌良さそうに笑っている。

 そして少女は大亀の魔核を指すと、アーティアに首を傾げて見せた。


「ねぇ、処理に困ってるならこの魔核ちょーだい」

「……なんで」

「だって、死んだ力ある魔核はヘルさまにケンジョーするものだよ」


 ヘルさま、と軽い調子で言う少女はヴァーレンハイトたちがわかっていないとわかると、ぽんと手を打った。


「ああ、<冥王>ヘルマスターさまのことだよ」

「ヘルマスター!?」


 何故その名前がここで出てくるのだろうか。

 目を丸くしていると、少女は八重歯を見せて笑う。


「あたし、クロウェシア! ヘルさまに仕える<五賢王>の一人だよ」


 にぃ、と少女――クロウェシアの口が三日月を描いた。



 +


「それで、ノエルはあの青い石をどうするんです?」


 謎の声が聞こえなくなったと確認出来たから礼をしたいと女性店員は夕食をごちそうしてくれることになった。

 ホウリョク・メルヤたちは喜んでそれを受け入れ、しれっとついてきているノエルと共にまた女性の働く店に来ていた。

 店長だという厨房の主も礼を言いながら腕を振るってくれている。

 ホウリョクはその中の一品である山菜の天ぷらを齧りながらノエルを見た。

 ノエルは小さな口で湯豆腐を摘まんでいるところだった。

 しっかり三十回噛んで飲み込み、お茶をすすってようやくノエルはホウリョクを見る。


「ええっと……まだあるようなら探さないと……これはとっても力があるから、変なことに使われたら大変……」


 のんびりとした口調からは珍しく緊張が滲んでいる。

 ルイやギン・カヨウたちも手を止めてノエルを見た。


「それってどないな力なん?」


 ギンが湯飲みを傾けながら尋ねる。

 ノエルはこくりと頷いて、青い石を仕舞ってあるポケットを見下ろした。


「なんでも出来るんじゃないかな……間違った使い方をすれば、たくさんの人が悲しむの……」


 なんでもとは大きく出たものだ。

 ホウリョクは目を瞬く。

 なんでも、とルイが口の中で言葉を転がす。

 なにか思い当たることでもあるのだろうか。

 ルイはティアナ・ウィンディガムを見、そしてノエルを見た。


「その青い石の力を使って、ティアナの呪いを解くことは出来ないか?」

「ルイ……」


 彼は真剣な目でノエルを見ている。ノエルはちらりとティアナを見た。


「…………出来る、かも、知れない……けど、危ない可能性の方が高いわ」


 ノエルは肩を落とす。


「きっと、ととさまなら……ううん、その力を受け継いでいるわたしにも、出来るかな……」


 ノエルの目はどこか遠くを見ているようだ。

 でもね、とノエルは続ける。


「この青い石は、とっても危ないもの……絶対に、勝手に使ってはいけないもの」

「でも、ノエルはそれを探しやがるんですよね?」


 こくりとノエルは頷く。


「……わたしと妹しか、出来ないこと……ととさまたちに託された、わたしたちの仕事……」


 ノエルの「ととさま」とは何者なのだろうか。

 じゃあ、とルイはノエルに声をかける。ノエルはルイを見た。


「その石を探すの手伝ってやる報酬に、その力の一部を使ってティアナの呪いを解くことは?」


 はっとホウリョクはルイを見た。

 ギンも頷く。


「せやな、一人で探すんはえらいやろ。オレたちにも協力させたってや」

「ギンと同意見なのはちょっと腹が立ちますが、いい考えだと思いますよ」


 ノエルがゆっくりとホウリョクたちを見た。

 そうね、とティアナも頷く。


「……手伝ってくれるの……」

「その代わり、あんたでもあんたの父親って人に頼むでもいい、ティアナの呪いを解いてほしい」


 ノエルは考えるように目を伏せた。長い睫毛が頬に影を落とす。


「絶対、出来るとは言えないわ……それでもいいの?」

「こっちは手掛かりなしで来たんだ。少しの希望にだって縋りたい」


 ホウリョクも頷く。

 ノエルは顔を上げて、ほうと息を吐いた。

 わかった、と頷くノエルに、ホウリョクは頬が緩むのを感じる。


「でも、一つだけ約束してね」


 ゆっくりとノエルが指を一本立てて見せる。


「決して――決して石に直接触らないこと……これだけは約束して」


 それくらいなら、とホウリョクは頷く。ルイたちも真剣に頷いた。

 ノエルはほっと胸を撫で下ろす。


「じゃあ、よろしくね」


 にっこりと、ノエルが嬉しそうに微笑んだ。


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