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17 魔界の亜竜族 3/6

本日(2/23)二つ目の更新。

 ヴァーレンハイトは焦っていた。気が逸っている。

 けれどこれからどうしたらいいのかがわからない。


「……で、魔界ってどうやって行ったらいいんだ」


 神族ディエイティストに聞いてみるかとも思ったが、通行証を持っているのはアーティアだ。そして横に浮かんでいる神族の幽霊は頭を抱えて「魔界……魔界に行く方法……どこだっけ……思い出せねぇ……」と唸っている。

 ヤシャがわからなければ、もしかしたら知っている者などいないのではないか?

 ぞっと背筋に悪寒が走った。

 もし魔界に行く方法が見つからなかったら? 相棒はどうなるのだろうか。


「……神界に行く道みたいに、どっかに通り道があったりしないのか……」


 いや、あるはずだ。でなければルキはどうやって魔界に行くつもりだったのか。

 ルキがどこから来たのかはわからないが、今まで行方不明だったことや魔界に行くらしいことを考えると、ルキの本拠地は魔界であると推測するのが順当だ。

 ならば魔界は存在するし、魔界に行く方法もあるはずだ。


「魔界に行く方法も、ですけど、魔界に行ったらどうするかも考えなきゃですねー」

「ルキ探すに決まっとるやろ」

「そうじゃなくて、もっと具体的にっつってんですよ。魔界ってどれくらいの大きさなんです? まさか一軒家くらいなわけないじゃないですか」


 う、とギンが唸る。

 神界もかなりの広さだったとヴァーレンハイトも思い出す。地上とそう変わりはない。

 しかしかといって魔界がそうとは限らない。いや、流石に一軒家だとは思わないが。


「くそ、ようやくヘルマスターに通じる手がかりを見つけたと思ったのに」


 ルイはガツンと壁を叩いた。パラリと壁材がこぼれ落ちる。

 器物破損ですよ、とホウリョクが頭にかかった壁材を払いながら怒った。


「……あら?」


 ふとティアナが首を傾げている。

 どうした、とルイが尋ねる。

 うーん、とティアナは全員を見まわした。


「……そういえば、風精霊神官さまに昔、集落の近くに魔族の住処へ行く道があるって聞いたことがあるなって」

「なに!」

「なんやて!」

「本当か!」


 一気にティアナに詰め寄る男たちを、後ろからホウリョクが蹴り上げる。


「いきなり近寄んなっつってんでしょうが! 事案ですよ!」

「いってぇ、なんでオレだけ二回蹴っとんねん!」

「なんとなくです!」


 うるせーぞ! と遠くから酔っぱらいに怒られた。

 現在の時刻はそろそろ日付を跨ぎそうなほどだろう。確かに少々声を荒げすぎた、とヴァーレンハイトは息を吐く。


「それで、どういうことだ」


 代表してルイがティアナに尋ねなおした。ヴァーレンハイト以上に気が急いているらしいギンはホウリョクに首布を引っ張られて押さえられている。(「ステイ、ステイですよ!」「犬かオレは!」)

 そうね、とティアナは遠くを見る。確かこの港にも魔法族セブンス・ジェムの集落行きの船はあったはずだ。

 ヴァーレンハイトは胸を押さえる。魔術を酷使したわけでもないのに、胸の痣が熱いような気がした。


「全部の魔法族がそうなのかはわからないわ。ただ、わたしたち風魔法族ウィンディガムの子どもは、いたずらしたりすると大人に『魔族の巣窟に捨ててしまうぞ』って怒られて育つの。大人たちも、昔から親によく言われた躾文句らしいわ。……ずっとただの方便だと思っていたのだけれど……」


 いつだったか、ティアナは風精霊神官に『本当に魔族の住処へ通じる道があるんだよ』と教えてもらったことがあると言う。内緒話をするように、彼はティアナに言った。


「『だから、絶対に集落の裏手にあるジャングルの奥には行ってはいけないよ』って。……あくまで噂だけど、手がかりにならないかしら」

「ジャングルの……奥……」


 そういえば、以前に雷魔法族サンダリアンの集落でも似たようなことを聞かなかっただろうか。ヴァーレンハイトはアーティアに確認しようとして横を見た。そして誰もいないことに気付き、唇を噛む。


(馬鹿か、おれは)


 しかしティアナの話は無視できるものではない。

 ヴァーレンハイトはルイとギンを見た。二人も頷く。


「じゃあ、まずは風魔法族の集落に行ってみるべき、か」

「ジャングル自体は、炎、闇、雷の集落のそばにあるの。だから多分、どこの集落でも言われてはいるんだわ。ただ、わたしが聞いたのが風精霊神官さまの口からだっただけで」

「でもティアナなら渡りをつけられませんかね」


 ヴァーレンハイトは一応、以前に雷精霊神官ニトーレと会ったことはあるが、ほとんどアーティアが話していたこともあって全く繋ぎになるものを持っていない。

 頼れるのはティアナだけだ。


「わたしだって、記憶に自信があるわけじゃないわ。ただの噂だし……」


 自信なさそうにティアナが付け加える。


「噂でも手がかりは手がかりだ」


 ルイがティアナの肩を叩く。

 ティアナは薄く頬を染めた。


「じゃあ、明日一番の船で向かいましょう!」


 ホウリョクが手を叩く。おう、とギンとヴァーレンハイトが声を揃えた。

 一旦、四人とは別れ、ヴァーレンハイトはヤシャと共に宿に戻った。部屋を片付け、荷物をまとめる。

 アーティアの分の荷物もあるから、ちょっと多い。


「ヴァル、寝とかねぇと身体持たねぇぞ。おまえはいくら魔術がすげぇっつっても人間族ヒューマシムだしな」


 そうだ。ヴァーレンハイトはアーティアのように見かけ以上の力を持っているわけでも、亜竜族ノ・ガルブスのルキやギンのように頑丈でもない。

 思わずぐっと拳を握り締める。


「……眠くない……」

「横になるくらいしろ。ちゃんと起こしてやるからさ」


 うん、とヴァーレンハイトは外套と上着を脱いでベッドに座り込む。横になる気がしなかった。

 はぁ、とヤシャがため息を吐いているのが聞こえた。

 ぽんと頭に手を乗せられる。いや、もちろん透けているのだが。ひんやりとした空気が頭を包み込む。


「あのな、ちったぁ頭冷やせ。てめぇがここでぼんやりしてなんになる? 船が出るわけでも、アーティアが戻ってくるわけでもねぇ。まずは自分の身体を大切にしろ。それからだろ」


 ひんやりとした空気が気持ちいい。

 ヴァーレンハイトは冷静なつもりだったが、頭に血が上っているのだと気付いた。一人だったら、きっとどうにも出来なかった。ヤシャがいなければ未だに寝ていただろうし、あのときに外に出なかった。ルイたちに会わなければ置手紙も読めないままだったし、魔法族の集落の噂も聞けなかった。ヴァーレンハイトはみんなに助けられている。


「……おれ、駄目だな」

「駄目じゃねぇだろ。今はまだ出番じゃねぇだけだ。俺じゃあ物理的にアーティアを助けに行くなんて無理だしな」


 なんたって幽霊だし、とヤシャは笑った。

 笑っていいところなのかはわからないが、釣られてヴァーレンハイトも頬を緩める。


「さ、ちょっとでもいいから寝やがれ。朝食もちゃんと摂れる時間に起こしてやるからよ」


 わかった、と今度こそ頷いて、ヴァーレンハイトは布団に潜り込む。

 安心して眠れる気はしないが、少しでも休めるような気がした。



 翌朝。

 ヤシャに布団を剥ぎ取られたヴァーレンハイトはすぐに目を覚ました。よかった、まだ日も昇り始めたばかりの時間だ。きっとアーティアが見たら「天変地異の前触れだ!」と驚いたことだろう。

 自然とそう思ってしまい、ヴァーレンハイトは肩を落とす。すぐに首を振って頬を叩いた。

 今は落ち込んでいる場合ではない。

 身支度を整えて、朝食を腹に詰め込むようにして終わらせた。味なんてわからない。サンドイッチをくわえたまま部屋に戻り、荷物を抱えてチェックアウトを済ませる。


「……ティアの剣……重い……」

「が、頑張れ……」


 昨晩約束した場所にはルイたち四人が既に来ていた。遅れたかと思ったが、船の出航時間はまだ先だ。

 向こうも気が逸っているのだろう。

 おはようと挨拶をして、一息を吐く。時間が待ち遠しかった。


「ギーンー、さっきから貧乏ゆすり止めれって何度言ったらわかりやがるんですか。鬱陶しいです」

「……すまん」


 ピリピリとした空気だ。


「ヴァルだって、アーティアがいなくなって心配なのに冷静でいようと努めてるんですよ。いい大人なんだからしゃんとしやがれください」


 ぐぅとルイとギンが唸った。

 ヴァーレンハイトだって冷静ではない。ヤシャに再三再四、言われなければきっと同じように周囲に焦りと苛立ちをまき散らしていただろう。

 二人の実年齢は知らないが、ヴァーレンハイトと同じかそれ以上である可能性は高い。

 というかこのメンツ、ヴァーレンハイトが最年少の可能性だってあるのだ。もちろん、最年長はヤシャなのだろうが。

 同じ人間族とはいえ、ルイには魔族の血が入っている。自分と完全に同じではないだろう。


「悪ぃ」

「ヴァルかてちみっこがおらんで心配やんな」


 ガシガシと頭を掻くギンに、ヴァーレンハイトは首を振る。


「二人だって、事情があるんだ。気にしなくていい」

「……別に事情あるからて、あのちみっこが心配やないとはちゃうで。オレかてちったぁ心配しとるわ」

「うん」

「オレもだぞ」


 ギンとルイにも心配されて、アーティアはどう思うだろうか。自然につい彼女がどうするかを考えてしまう。

 ヴァーレンハイトは苦笑した。

 そろそろ、船の時間だ。

 五人は言葉なく立ち上がり、顔を見合わせた。

 まず目指すは風魔法族の集落だ。


「早くアーティアを迎えに行ってあげましょ。一人できっと心細くしてます」

「そうだな」


 まぁ、多分せんせーがいるから一人ではないだろうけど。

 ルイの言う、ルキの父親がアーティアになんの用があるのかも気になる。

 ヴァーレンハイトは朝日に目を細め、船を見上げた。



 +


 メキメキと音がして、鉄格子が歪んでいく。

 ぼく――アーティアは頬を流れる汗を拭うために一度手を離した。

 手からもぽたぽたと滴っている。手のマメが潰れたのだ。

 はぁと息を吐く。白い。


「だいぶ歪んで隙間が出来たけど、これじゃあ猫くらいしか通れないかな」


 手枷で不自由しながら汗を拭う。

 ここに入れられてどれくらいの時間が流れたのだろうか。窓も時計もないのでわからない。

 体感ではもう昼過ぎくらいかな。

 そう思うと急にお腹が空いてくる気がした。


「……携帯食料が恋しい日が来るなんて」

「いつも思うのだが、どこにあんな量の食物が入るのかね」

「? ……胃じゃないの」


 そうか、とせんせいが苦笑する。そういうことではなかったらしい。

 ぼくは息を吐いて、再び鉄格子を握った。全身でそれを引っ張る。

 メシ、と音がして、鉄格子にヒビが入った。


「もうちょっと……」


 ギ、ギ、ギ、耳障りな音を立てて少しずつ曲がっていく鉄格子。

 バキンッ、とうとうそのうちの一本に亀裂が走る。下は繋がったままだが、上の一部が折れた。


「よしっ」


 そのまま全体重をかけて下もへし折る。頭だけなら通りそうな空間が開いた。

 あともう一本くらい折れば牢から出られるかもしれない。

 頬が緩むのがわかった。


「アーティアは助けを待とうとは思わないのかい」


 呆れたような声でせんせいが尋ねてくる。

 ……助け?


「……助けって、来るの?」

「……ヴァーレンハイトくんとて、流石に心配くらいするだろう」


 心配。

 心配か。

 あの魔法族の集落のときのように休んでいなかったらどうしよう。それこそ天変地異の前触れだ。


「…………逆、じゃない?」

「逆、とは?」

「ぼくがいないと起きないようなヴァルだよ? 放っといたら何日ベッドの上で過ごすと思う? ……ヤシャが注意してくれても、ヤシャは幽霊だからヴァルに触れられないし……あいつ、ぼくがいないとどうなるんだろう……」


 言いながら心配になってきた。だって、あの男だよ?

 そもそもぼくの不在に気付くのだろうか。気付いたとして、どうするんだろう。魔界まで来るような気力はあるのか。

 何故かせんせいはやれやれと肩をすくめた。


「?」

「アーティア、わからないというのは、時には罪となることもある。覚えておきたまえ」

「……うん?」


 よくわからないことを言い残して、せんせいは姿を消した。

 ぼくは首を傾げながら、作業を再開する。

 コツ、コツ、コツ、

 不意に足音が聞こえた。これはルキ?

 音が早まって、髪を振り乱したルキが走ってきた。

 頬が腫れて、口の端に血が滲んでいる。


「ルキ、どうし……」

「待ってて、今、開けるから……!」


 ガチャンと鉄格子にぶつかるようにして、ルキは牢の鍵を取り出し差し込む。

 高い音がして鍵が外れ、鉄格子が開く。


「早く、出て! 今なら逃げられるから……っ」

「ルキ?」


 今にも泣きだしそうな顔でルキはぼくの腕を引っ張った。

 いとも簡単にぼくは牢から抜け出している。

 肩で息をするルキの顔色が悪い。

 鍵束をガチャガチャとさせながら、ルキはぼくの腕を拘束する手枷を外した。

 手が軽くなって安心する。手首は赤くなっているが、そのうち消えるだろう。

 その傷がルキの手にもあったなんてことは、ぼくは知らない。見てない。気付いてない。

 あの、と俯いたルキがぼくの手を取る。彼女の手は震えていた。


「ティアが、わたしを嫌いだっていい。でも、信じて……わたしは、ティアに傷付いてほしくない、ティアにこんなところにいてほしくないっ」

「ルキ?」

「嫌ってもいいから、今だけは信じて、ここから出て……!」


 やっぱり勘違いさせていたようだ。

 ぼくは握られていない方の手でルキの手を握り返す。


「馬鹿。嫌ってなんかないよ。ルキは悪くない。悪いのはルキにそうしろって命じたやつ。だからルキが謝る必要はないって言いたかったんだ。言葉足らずでごめん」


 透明な雫がルキの頬を伝い、ぼくたちの手の上に落ちた。


「わ、わた、し、きら、われ、たって……」

「ルキこそ、ぼくが嫌いだからこんなとこにぶち込んだんじゃ――」

「そんなわけない!」


 一番の大声だった。

 驚いて目を丸くするが、ルキ自身も驚いたようで。

 ふっと吹き出すと、ルキは顔を紅潮させて俯いた。


「ご、ごめんなさい……」

「謝らないでって言ってるでしょ」


 こくんとルキが頷く。

 涙を拭ってやると、更に顔を赤くした。


「さて、こんなじめじめしたところ、さっさとおさらばしようか」

「う、うん。案内するっ」


 ルキの先導で牢を出る。あちらこちらに魔獣のようなものがうろうろしているのが見えた。いや、魔獣があんな誰かの指揮を感じるような行動を出来るものでもない。であれば、あれは魔族なのだろう。

 それらに見つからないように、見つかったら即座に意識を刈り取るようにして暗い城の中を走る。

 ルキ曰く、ここは<冥王>ヘルマスターの居城。その地下だという。

 ルキがぼくを攫ったのはヘルマスターの命だったから。

 どうして魔族族長であるヘルマスターという存在がぼくのような者を知っているのか、何故攫って来いと言われるのかがわからない。

 いや、もしかしたら<五賢王>レッド・アイと交戦したこともあるし、それ関係で知られたのかもしれない。


(だからって理由がわからないな)


 ルキも詳しい理由は教えられていないらしい。ただ、殺さず連れてこいと命じられただけだった。ぼくの特徴と名前だけを教えられて放り出された。


(その途中で偶然、魔獣の縄張りに入ってしまい追いかけられた……)


 ドジっ子かな?

 先を行くルキの背中を見る。せっかく綺麗な明るい砂色の髪はぐしゃぐしゃだ。また誰かに虐げられたのだろうか。

 突然止まったルキの背中にぶつかる。


「わっ」


 ひゅぅとルキの喉が鳴った。

 そっとルキの背中越しに正面を見る。

 布が浮いている。その浮いた布を羽衣のようにまとう美女が立っているのが見える。


「……?」


 女性はニコリと微笑む。

 両目は閉じられていて、ぼくたちを見ているのかわからない。だが、見られていると感じた。

 穏やかな表情に反して強い威圧感。水色がかった長い髪は風もないのにふわりと宙を舞う。

 尖った耳、このおどろおどろしい魔力の質。間違いなく魔族。そして、強い存在。

 ごくりと唾を飲み込む。

 ルキの身体は彼女を見つめたまま震えている。

 ルキにとっていい存在でないのは確かだ。


「いけませんよ、ルキさま。かくれんぼはもう終わりです」


 優しい声なのに、何故か震えが止まらない。

 ぎゅっとルキの手を握った。

 はっとルキがぼくを見下ろす。


「……ミストヴェイル、退いて、ください……そこを、退いて」


 まぁ、とミストヴェイルと呼ばれた美女は困ったように笑った。


「いけません、いけませんよ。お父上の言いつけを破るおつもりですか」

「――っ」


 ぶんぶんと首を横に振るルキ。

 それでもぼくの手は離さなかった。


「はっ……初めて、出来た、友達、なの……っ! 裏切りたくないっ!」

「ルキ……」

「お父上のことはよろしいのですか」

「と、父さま、は……っ」


 父親――ヘルマスターのことか。

 女性はふふと笑う。

 見えない目でぼくを見た。


「初めまして、アーティア・ロードフィールド。わたくしは<五賢王>ミストヴェイル」


 息を飲む。

 <五賢王>――レッド・アイと同じ<冥王>直属の魔族だったのか。

 だが彼よりもずっと恐ろしい威圧感がある。

 うふふ、とミストヴェイルはおかしそうに笑った。


「わたくしはレッド・アイよりも遥かに長く生きております。……あんな若造と一緒にされては困りますわ」


 ふふふ、と笑う。


「さぁ、ルキさま、お部屋に戻りましょうね」


 す、とミストヴェイルが手を掲げる。ふわりふわりと浮いていた羽衣が、槍のようになってぼくたちを襲った。貫かれると思った瞬間、それは布に戻りぼくたちをぐるりと拘束する。

 ぎりぎりと締め上げられ、呼吸が出来ない。

 ルキの身体が締め上げられてみしりと軋む音が聞こえた。


「い、や……」


 ぼくの力でも、亜竜族の血を引くルキの力でも対抗できない力で布はぼくたちを締め付ける。

 視界が霞む。

 歪んだ視界の中で、ミストヴェイルに近付く影を見た。影は彼女になにか耳打ちをすると逃げるように去っていく。

 まぁ、とミストヴェイルが口に手を当てた。


「ヘルマスターさまがお呼びです。二人とも、お行儀よくしてくださいませ」


 ね、と美女が微笑む。

 ぼくの視界は更に増えた布で覆われた。


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