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14 雨宿り

ちょっとペースが落ちてきました。出来るだけ早く更新出来るよう頑張りますが。

 雨が降っている。

 ザァザァと滝のような音を立てて、雨が降っている。

 空は真っ黒で、夜だからなのか雲のせいなのかわからないくらいだ。

 底冷えするような寒さ。

 横穴で雨宿りをしつつ野営をするぼく――アーティアは肩を抱きながら空を見上げる。

 横では男――ヴァーレンハイトが外套に包まり丸くなって眠っていた。

 よくこの気温や音で眠れるものだと呆れる。

 この横穴はなにか大型の生き物が掘ったのか、冬眠に使ったのかしたものらしく、奥行きはそれほどない。ただ少し傾斜があるので雨が流れ込んでくる心配はなかった。

 流石にこの雨の中、襲ってくるような生き物はなかなかいない。

 寝ずの番とはいえ、暇だ。


「…………せんせい、いる?」


 男を起こさない程度の声でせんせいを呼んでみる。


「おやおや、わたしは暇つぶし相手かね」


 くすくすと笑いながら現れたせんせいは気分を害した気配はない。

 そうだよ、と答えるとせんせいは肩をすくめる。


「まぁいいが。ヴァーレンハイトくんを起こしてしまわないかい」

「ヴァルがこのくらいで起きるわけがない」


 違いない、とせんせいが笑う。

 ぼくも少しだけ笑った。

 男は当然の如く、起きる気配も身動ぎする気配もない。

 そういえば、とふと思いついたことを思い出す。


「せんせい、人前では出てこないのに、どうしてヴァルの前には姿を現したの?」


 前から少し疑問だったのだ。

 せんせいはぼくたち以外の人がいると姿を現すのを嫌う。どうしてだかはわからないけれど、ずっとぼくしかいないときにしか出てこなかったのだ。

 なのに、突然男の前に姿を現したときは驚いた。

 どういう心境の変化だったのだろう。

 とはいえ、相変わらずぼくと男以外の人の前には姿を現さないのだが。

 ぼくが首を傾げていると、せんせいはそうだね、と小さく呟く。


「さて、どうしてだったかな。ただ、彼に懐かしい気配を感じたのだよ」

「懐かしい気配?」

「なんと言えばいいか。……そうだな、生き別れた片割れに出会った気分と言うか」


 せんせいの話はわかりづらい。

 ぼくがわからないという顔をしていたのだろう、せんせいはくつくつと喉の奥で笑った。


「探していたものかとも思ったのだが、いやなに、ただの気のせいほどのものだった」


 ふうん、とぼくはわからないまま相槌を打つ。

 せんせいは気にしていないようで、ふふと笑った。


「気のせいほどのものとはいえ、欠片には違いない。手元に置いておきたいものだ」

「……せんせいは、ぼくとヴァルが組んでた方がいい?」

「もちろん」


 ぼくはまたふうんと相槌を打つ。

 その声はザァザァとうるさい雨音にかき消された。

 雨はまだ止む気配がない。

 日が昇ってもこの調子だったらどうしようか。

 ぼくは膝を抱える。


「雨、止まないね」

「この調子ならば明日も一日中雨かもしれないね」

「えぇー、やだなぁ」


 こんな横穴では出来ることも限られているし、なにより肌寒い。

 しばし沈黙の中、ぼくたちは雨空を見上げる。

 桶をひっくり返したような雨とはこのようなことをいうのだろうか。

 随分と旅をしてきたが、これほどの雨は珍しい。野外にいるときに降り始めるなんて本当についていない日だ。

 男に熾してもらった焚火を絶やさぬように細かくした生木ばかりを火の中に放り込む。流石にこの天気では追加の枯れ木は集められない。

 朝まで持つだろうか。


「これでは街に行こうにも、歩くどころではないねぇ」

「まったくだ。早く止まないかな」

「食料に余裕はあるかい」

「まぁ、少しは」

「美味しくないらしいが、食べないよりはマシだよ」


 わかってるよ、と枝を火に放り込んだ。

 ばちん、ばち、と焚火が爆ぜる。


「せんせいの探してる場所、なかなか見つからないね」


 そうだね、とせんせいが苦笑する。


「もっとヒントがあればいいのに」

「わたしにもわからない場所だからねぇ。こればかりはどうしようもない」

「せんせいの身体、どこにあるんだろうね」

「さぁねぇ」


 せんせいは昔、ある人に身体を奪われてしまったのだそうだ。

 その身体を取り戻すためにぼくと旅をしていた。

 手掛かりはせんせいが気配を感じるかどうかだけなので、怪しい場所には実際に行ってみないとわからない。

 ぼくは一所にはいたくないから旅をしているだけだし、別にあちこちに行かされるのはどうでもいい。でも何度も無駄足を踏まされるのは少し腹が立つ。

 他に手掛かりがあればいいのに。

 せんせいの記憶も曖昧らしく、どこの誰に奪われたのか、どうして奪われたのかは覚えていないらしい。

 ただこの世界のどこかにはあるはずという感覚があるようで。

 それを頼りに旅をしている。


「アーティアの父親ならばなにか知っていたかもしれないのだがね」

「……やめてよ、絶対会いたくない。そもそも生きてるのか、死んでるのか」

「おや、あの御仁が簡単に死ぬとでも?」

「……」


 どこかで生きているのかもしれない。

 けれど、ぼくには関係のないことだ。

 向こうもぼくのことなどどうでもいいだろう。

 でなきゃ、実の子どもを二束三文で奴隷商になんて売るわけがない。

 あのあと、ぼくがどれほど苦労したか、あの男が知るはずもない。

 ぼくは右腕の傷をぎゅっと握った。

 やっぱり痛みはない。


「痛むかね」

「……痛くないの、知ってるでしょ」

「ふむ、雨の日には古傷が痛むというが、個人で違うのか。ヴァーレンハイトくんは痛そうにしていたのだが」

「……こいつに古傷?」


 おや、とせんせいは眉を上げた。


「知らなかったのかね。彼は胸に傷があるようだよ。以前、痛そうに抑えているのを見たし、本人からも雨だから古傷が痛むと聞いた」

「……ふぅん」


 見たわけではないがね、とせんせい。

 男を見下ろす。

 男は子どものように丸まって眠っている。

 気付かなかったな、気付いてたらなにか違ったかな。なんとなくそんな思いが胸に去来する。

 首を振って考えても仕方ないことを振り払う。


「せんせいは、結構ヴァルと仲いい?」


 さぁ、どうだろうね。せんせいは笑ってはぐらかす。

 やっぱり大人の男じゃないと分かり合えないこともあるってことだろうか。

 いっそ、ぼくも男だったらあの男に捨てられなかっただろうか。


「……あんまり関係ないかな」


 膝に頭を埋める。


「こんなに天気が悪いと、嫌なこと考えちゃうな」

「おや、ネガティブなのはもとからではないかね」

「うっさい、アーサー」


 くつくつとせんせいが笑っている。

 ぼくは振り上げた手をどうしようもなくて、口を尖らせたまま下す。

 ううん、と横で男が唸った。

 驚いて注視するが、少し身動ぎをしただけで起きる気配はない。


「……そういえば、ヴァル、この間うなされてたね」


 そうだね、とせんせいも男の顔を覗き込む。

 今日はとくにうなされているわけではないようだ。

 胸を撫で下ろす。

 こいつが苦しんでいなくてよかったという気持ちがあった。


(……なんで)


 別に、他人のことなんてどうでもいいのに。


「いつの間にか懐に入れてしまったということではないかね」

「……こいつが入るほど懐でかくない」

「物理的にとは言っていないよ」

「ぼくも物理的とは言ってない」

「……」

「……」


 ふふとせんせいが笑う。

 どうせ懐狭いよ。それは昔から自覚している。

 ぼくが優しくするときは金絡みか体面的に必要なときだけ。それだけだ。

 雨はますます強くなっている。

 風が時折音を立てて吹いている。


「…………古傷じゃないけど、左腕の傷はちょっとぴりぴりする気がする」

「おや、大丈夫かい」

「んー、無視出来る程度、ではあるかな」


 言いながらさする。

 痛いのとは違う感じ。


「なにかあったら、すぐに言うんだよ。……ヴァーレンハイトくんとかに」

「そこは自分じゃないんだ」

「わたしは口を出すくらいしか出来ないからね」


 ははは、とせんせいは笑う。

 その声にううんと男が身動ぎをした。


「……ティア? なんか、あった……?」

「いや、なにも」


 そっかぁ、と気の抜けた声を出す男。


「なんか、あったら、ちゃんと……言え、よ……んぐぅ」


 言うだけ言ってまた眠る。

 起きたときにはなにを言ったか覚えていないだろう。


「……わかったよ、言えばいいんでしょ、言えば」


 男の鼻を摘まんでやる。

 ううん、と男は眉間に皺を寄せた。

 雨が止む気配はない。



 +


 広い真っ白なだけの部屋で神族ディエイティストの長ヴァーンは報告書を読んでいる。

 机の上には何枚もの書類が山となっている。

 いつだったか、前長シンパの残党がヴァーンの首を取ろうとした事件の顛末だ。

 あのときはヴァーンが動くまでもなく、死神鬼神と名高いカムイとシュラがさっさと対処してしまった。普段は仲が悪いのに、そういうときだけ息が合うのはどういうことなのか。ヴァーンにはよくわからない。

 数日後には龍族ノ・ガードの長<龍皇>との会合も控えている。

 魔族ディフリクトの長<冥王>にもいくつか問いたださないといけない件がある。

 やることは山ほどあった。

 机の横にはいつも通りラセツが控えている。いや、見張りと言ってもいい。

 ヴァーンはため息を吐いて報告書に判を押した。

 ラセツを呼ぶと、すぐさまはいと言葉が返ってくる。


「こちらの報告書をまとめて保管庫へ。こっちの決裁書はそれぞれの部署に回してくれ。あとこの始末書を書いたのは誰だ? 文字が汚くて読めないぞ」

「わかりました、すぐに。そちらの始末書は…………右がハウンド、真ん中がイーグル、そして左がロウさまですね」

「全員、書き直しさせろ」

「はい」


 ロウは四天王の一角だというのになにをやっているのか。始末書を書くようなことを上に立つものが率先してやるんじゃない。というか文字が寝ている。本当になにをしているのか。

 ヴァーンはため息を吐いた。

 コツコツと扉を叩く音が聞こえ、ヴァーンは左手を振る。

 両開きの扉が独りでに開いた。

 やってきたのは四天王の一人、シュラ。そしてそのあとに続くのはその直属の部下コウ。


「ただいま戻りましたよ」

「帰りましたー」


 おかえり、というとコウはただいまーとラセツに向かって走り出す。そしてぎゅっと抱き着くと肩に頭をぐりぐりと寄せ付けながら「疲れたー」と笑った。

 一応上司の前だというのはわかっているのだろうか。

 そんな女子二人から視線をそらして、ヴァーンはシュラを見る。


「首尾は」

「はい。報告書の通り、いろいろとやってくれてましたよ。冤罪の可能性はゼロ。むしろ余罪が増えたくらいです」


 ふぅとシュラはため息を吐く。


「ああ、やはり裏で魔族の者が手を引いていたようです。そちらは報告書に詳しく記載しておきますのでそれを参照してください」


 わかった、と頷くとシュラはもう一つ、と指を振った。


「表の首謀者は始末しましたが、裏の首謀者は捕らえて連れてきました……どうしましょうか。一応生きています。……ああ、自分は首謀者ではなく唆されただけだとかなんとか喚いていましたね」


 裏の首謀者は魔族だったという。

 ヴァーンは唇を歪ませて、ああと呻く。<冥王>に問いただす事柄が増えてしまった。


「……シアリスカに渡しておけ。くれぐれも、殺すなよと言い忘れるな」

「はいはい、ではそのように」


 話が一段落したと見たコウがラセツの肩をもみながらヴァーンを見た。


「ヴァーンさま、ちゃんとラセっちゃん休ませてあげてる? ラセっちゃんの肩回り、ばっきばきなんだけど!」

「おまえ、俺が一応一番えらーい上司だってわかってる?」

「今更でしょう、ヴァーン」


 シュラが首を横に振った。


「……幼馴染だからこの場は許してるけど、頼むから公的な場ではちゃんとしてくれよ」


 はーいという元気な返事を聞いてヴァーンは肩を落とす。


「あとラセツにはちゃんと休暇は与えている。休まない意思までは知らん」

「ラセっちゃん、ちゃんと休むときは休まなきゃ。今度あたしオススメの休暇スポット教えてあげよっか」


 ありがとう、とラセツはコウの手を取った。コウは大人しくラセツにべたべたするのを止める。


「コウ、そろそろ楽しい書類製作の時間ですよ」

「はーいはい」

「はい、は一回でいいです」


 そんなやり取りをしながら幼馴染部下二人は部屋を出ていく。

 ヴァーンは再度ため息を吐いた。


「魔族、か」

「……いつものように抗議文を送りますか」

「いや、いい。どうせ見もせずに捨てられるだけだ。資源の無駄だな」


 最近、魔族の動きが活発になっているのを、報告書を通して感じる。

 そろそろ周期か、とヴァーンは呟いた。

 それを聞いたラセツは眉を寄せて首を傾げた。


「周期、ですか?」

「ラセツは知らなかったか」


 ヴァーンも首を傾げる。

 ラセツはこくりと頷いた。

 新しい報告書を取りながら、ヴァーンは肩をすくめる。


「初代神族長と初代魔族長が戦った折に封じられた二人の力、その封印が緩む時期のことだ」

「初代長さまの……それって……」

「手にすれば恐ろしいほどの力を手に入れられるだろうな。魔族はそれを狙っている節がある」


 ラセツは顎に指を当てて考える仕草をする。

 ヴァーンは書類を捲った。


「魔族の<五賢王>イルフェーブルが風魔法族ウィンディガムの集落の近くで目撃されているようだな。……こちらも対策しておいた方がいいか」


 あの、とラセツが声を上げた。

 ヴァーンは白い布に隠れた視線だけで先を促す。


「以前に仰っていた魔法族セブンス・ジェムの封印、ですか」

「ああ、そうだな」

「……魔族に先手を取らせてよいのですか。こちらも手を打たなければ……」

「いい」


 え、とラセツは目を瞬いた。

 ヴァーンは首を横に振る。


「あれは起こすべきものじゃない。例え世界を覆す力が手に入ろうと、俺はあれに手を出すつもりはない。ただ、魔族の邪魔をしてやるだけだ」

「……何故か、聞いても?」

「そうだな……。哀れな魔法族をこれ以上――死なせたくない」

「……」


 ラセツには長がなにを思ってそう言ったのかは推し量れなかった。けれど、その沈痛な声が本気だと気付いたので、それ以上は言及するのを止めた。

 ヴァーンは時折、部下である四天王やラセツたちになにも知らせずに動くことがある。それがラセツは気がかりで、心配だった。

 いつか、自分のいないところで消えてしまったとある男のように、ヴァーンまでもが消えてしまうのではないか、と。


「……現在、神族全体としては安定していると思います。以前と比べて、ですが」

「……ああ、そうだな?」

「ですが、ここまで立て直すのに随分と時間がかかりましたし、尚も手をかける必要がある部分があるのはご承知ですよね」


 意図をわかっていないヴァーンが首を傾げながらも頷く。

 ラセツは息を吐いた。


「神族は今なお、強く厳しくもしっかりとした長を必要としています」

「……ああ」

「今あなたがいなくなれば、先代の時代へと逆戻りでしょう。そんなことは、誰一人として望んでおりません」


 ですから、とラセツはきつとヴァーンを見据える。

 白い布で目を隠すようになったのはいつからだっただろうか。


「勝手な行動は慎んでいただきたい」

「……勝手なって、俺、長なんだけどな?」

「いいからさっさと書類仕事を終わらせてください。勝手にどっか行って、勝手にどこぞで怪我をして帰ってこられるのはもうたくさんです」

「……」


 ヴァーンの目には大きな傷がある。それを隠す白い布だ。

 ラセツは当時を思い出して心臓が冷える。

 血だらけで帰ってきた男はへらりと笑って「失敗した」なんて言ったのだ。成功だとか失敗だとか、そんなものはどうでもいい。

 勝手に知り合いが知らないところで傷付いたという事実が恐ろしかった。


(ヴァーンさままで、あの人と同じようにいなくなってしまうかと思った)


 あの、ただ一人愛した男のように。

 ラセツは書類を抱える手に力を入れた。くしゃりと書類が歪んだが、知ったことか。


「……あの節は悪かった。他のやつらにも心配をかけた」


 ヴァーンが椅子に座ったまま頭を下げる。

 長ともあろう者が簡単に頭を下げるんじゃない、とラセツは憤慨する。

 謝ってほしいわけじゃない。ただ、一人でいなくならないでほしいだけだ。

 先代長時代、ラセツを取り巻く環境は恐ろしく劣悪なものだった。誰もがそうだった時代だった。

 それを変えたのが、目の前にいる現長ヴァーンだ。

 感謝している者は多い。

 それをこの男はわかっていない節がある。

 わかっていないから自分が動く、傷付く、一人で突っ走る。

 この男はわかっていないのだ。

 ラセツが、コウが、四天王たちが、どれほどこの男に感謝し敬愛しているかを。


「……せめて、どこかへ行くときは私でなくていい、誰かをそばに置いてください。出来ればなにをするのか教えてください。力になりたい者はいくらでもいます」

「……」


 わかった、と小さくヴァーンが頷く。


「安心しろ、ヤシャと同じ轍を踏むつもりはない」

「!」

「あいつには悪いが、まだまだやることがあるから同じところへは行ってやれないからな」


 ふ、と笑うヴァーンを見て、ラセツは肩の力が抜ける気がした。

 とにかく、とラセツは顔を上げる。


「今はこの書類を捌くのが先決です。近く、<龍皇>さまとの会合もあるのですから、それまでにここを終わらせなければ」


 うう、と唸ったヴァーンは無視する。


「では保管庫に行ったあと、資料室に行って参ります。それまでに半分は終わらせておいてくださいね」

「……了解」


 どっちが上の立場だかわからないな、とラセツは内心苦笑する。

 資料の山を抱えて勝手に開く扉を抜ける。ちらりと盗み見たヴァーンは真面目に事務仕事に取り組もうとしているようだ。

 ヴァーンが本当はなにをしようとしているのか、ラセツはよく知らない。

 けれど、この人についていくと決めたのだ。

 ラセツは口角を上げる。

 自分だけではない、それは。

 もし彼が間違った道を行こうとすれば、自分を含めた多くの者がそれを止めるだろう。

 かつて、彼が先代にしたように。

 そうならないように、ラセツは見張るのだ。

 それが、ラセツが自分に課した役割。

 誰にも渡すつもりはない。

 ラセツは書類の山を眺めた。


「まずは、保管庫っと」


 足取りは軽い。

 ここには夢を見せてくれる者がいる、それを手伝う者がいる、友と呼べる者がいる。

 そのために、ラセツは一歩足を踏み出した。



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