黒髪ロングの転校生、間々田恵理子
あなたの主人公、本当にそのルートに行きたがってますか?
あの日から、俺の日常は変わってしまった。
オラクルと呼ばれる所謂神からの信託が手紙として自宅のポストに届くのは奇跡に近い出来事ではあったが、ニュースなどにも取り上げられていたし『誰かが宝くじの一等を当てて大金持ちになった』という感覚で自分には縁がないものだと思って聞き流していた。
しかし俺が高校二年の始業式を明日に控えた春休み最終日のポストにそれは届いていた。
俺の家は父さん、母さん、妹の四人暮らしだが皆が俺宛ての信託を見るなり大喜びしてくれたのはよく覚えている。
かく言う俺も凄い興奮していてご近所迷惑お構いなしに奇声を上げては妹と一緒にリビングを転げ回った一人だ。
信託。
これが届いた人は全員が全員、例外なく物語の主人公にでもなったような運に恵まれ、幸せになったからである。
とある人は超有名スポーツ選手になったり。
とある人は誰もが羨むシンデレラガールになったり。
ちょっと変わった例を出せば全く取り柄がない男が事故で不幸にあって異世界と呼ばれる場所へ転生、神の力を授かって無双、ハーレムを築き上げるという話もあったりなかったり。
しかし、それはあくまでも第三者からみた噂でしかなかったと気付かされる。
主人公になったからには必ずエンドロールに続く物語が存在する。
信託は宝くじではないので金が入って終わりではないのだ。
世間がいう『幸せになった』まで行くには数々の問題を乗り越えないといけない。
それが主人公に課せられた使命だからである。
俺も最初は幸せの為ならばと多少はやる気を見せていたが、来る日も来る日もトラブル続きで正直まいっていた。
あ。そういえば自己紹介がまだだったかな。
この度、愛の女神より『ラブコメの主人公』として信託を受けた、古河新太郎です。よろしくお願いします。
―――
ラブコメでヒロインとの出会いで王道と言えば、そう。寝坊してでもちゃんとご丁寧にこんがり焼いたトーストにジャムまで塗りたくって咥えて登校する美少女に道角でドーンするあれだ。
もしくは小さい頃に将来を約束して親の転勤で引っ越しを余儀なくされたが数年後超絶美少女になって帰ってくる的なあれもある。
しかし俺は最近信託を受けたばかりの主人公なのでそんな幼馴染的な女の子はいない。
なので前者の方の出会いに限られるらしい。
さて。
そんなわけで俺と今日の朝、登校中にドーンした女の子が自己紹介するらしいです。
「栃木の高校より転校して来ました間々田恵理子です。よろしくお願いし…ってあなた、朝の!」
なーんてテンプレな子なのかしら。
あっ。ちなみに俺の高校は茨城県にあります。地元の人いるかな。いばらぎじゃないよ、いばらきだよ。
「何だ間々田。古河の事知ってるのか? じゃあ席は古河の隣でいいな」
「は? いや、先生。俺の隣には八千代が」
「八千代は昨日で転校したじゃないか」
なん…だと…?
全然知らなかったんですけど。
てか昨日って。今日始業式なんですけど。
こんな偶然があるか?
確かにラブコメの美少女転校生は主人公の隣に座るものだが、そもそもが今日がクラス分けで席も出席番号順になっているにも関わらず俺の隣って。
「よろしくね。えっと」
「古河です。よろしく間々田さん」
「古河君ね」
「あー、古河。間々田まだうちの高校の教科書が揃ってないんだ。お前見せてやれ」
アカン…。
どんどんイベントが発生していってる気がする…。
既に他の男子からは羨ま憎らしい目で見られてるしってなんでやねん。
そんな事ある? 俺転校した事ないから知らないけど、教科書一冊くらい在庫あるだろうが。
と、そんな事を思っていると。
きゅるるる…、と何やら可愛らしい音が。
チラリと音のする方へ。
「…」
間々田さんが顔真っ赤で俯いとる。
まだ九時くらいだけど、朝ごはんのトーストは俺とぶつかった衝撃で落ちちゃったからね。食いしん坊ちゃんなのかもしれないね。
しかし生憎と俺は食い物は持ってないので聞こえないフリをするのがせめてもの優しさだった。
今日は修業式のため午前中で終わりなのだが、帰りのホームルームまで可愛い音はずっと続いていた。
そんな可愛い音の発生源はホームルームが終わるなり、
「ね、ねぇ…。私この辺の事よく知らなくて…。ファミレスとかマッキュとか、案内してくれない…?」
と、顔真っ赤で言ってきた。
「てな事があってだな」
「兄ちゃんのアホ―!」
「げぶんっ!」
新学期はどうだった? と妹のみこりに聞かれたので正直に言ったのに何故かドロップキックをかまされた。
みこりのパンツは白と水色の縞パンだった。
「信じられない! それで店だけ教えて帰ってくるとか! そこは普通一緒に食べてくるでしょ流れ的に!」
「いや、みこりがお昼作って待ってたら悪いかなと思って」
「その気遣いを同級生女子に向けてよ! その間々田さんって人もまさか一人ファミレスするなんて思ってなかったよきっと!」
「確かに口ポッカ―ンって開けてた気がするな」
でもファミレスっつったらショーウィンドウにメニューの見本みたいなの飾ってあるしそれに心奪われていた可能性もある。ないか。
「とにかく気を付けてよね。兄ちゃんの悪い噂が広まるとあたしのバラ色の高校生活が灰色になっちゃうんだから」
「そういやみこりはどうだったんだ。クラスに仲いい子は出来たのか?」
「まだ初日だし全然話せてない子も多いけど、地元の中学から上がった人も多いし全然大丈夫。超イケメンの人もいるし!」
「連絡網貰っただろ? 見せてごらん?」
「見せないよ? 何する気?」
「そのイケメンを血祭りにあげる」
「その人空手部らしいよ」
「じゃあ俺が血祭りにあげられて教師に報告して退学させる」
「体張りすぎだよ兄ちゃん! どんだけあたしの事好きなのさ!」
「俺の妹好きは千葉の兄貴や吸血鬼の兄にも勝るとも劣らない自信があるぜ」
「相当だね兄ちゃんも!」
だとと言いつつ顔真っ赤なみこり。可愛いかよ。
間々田さんも黒髪ロングで出るところは出てる美少女だったが、みこりだって負けてはいない。
兄という贔屓目抜きにしても目なんかクリクリで可愛いし、健康的な体形だしそしてなにより、ちっぱいだし。俺はちっぱい好きであった。
そんなこんなあって数週間後。
俺は原因不明の病にかかり死亡した。享年16歳だった。
異世界ちっぱいガールズという小説も投稿しています。
興味ある方は是非読んでみて下さい。
この小説はちぱガの続きが思いつかないので生まれ出でたものです。
毎度の事ですが誤字脱字あったらごめんなさい。