第四話 精神実験体158号 その十九
……無力感に苛まれながらも、オレは行動を開始する。
四人姉妹を排除した今、この場所は瞬間的には安全だ。他の場所から怪物たちがやって来るまでは……。
目的を果たそう。
このナース・ステーションにやって来た理由は一つだけだ。
叔母さんの部屋の鍵を見つけるためさ。
オレと瑞穂ちゃんはナース・ステーションを探るんだよ。
……壁に、かけてあったりしないかな?……そんなことを思い付き、行動に反映する。
脈打つ血管が、ツタみたいに這い回る壁を端から順に見ていくと……キーボックスがあった。
キーボックスの鍵がかかっていれば不味いなと考えた。
だが、そのフタを手前に引くと、ねちゃりとした粘液がフタとボックスの間に伸びていく感触を手に覚えながらも、キーボックスは開いたよ。
「……管理が甘いな。この世界には、侵入者がいないと考えていたのかね、御子柴は」
「……でも、ラッキーじゃない。ここ、消火器もあったよ!」
瑞穂ちゃんは優秀な猟犬みたいに、素敵な落とし物を回収してくれるよね。
いい子だから、頭を撫でてあげたいけれど……指には、粘液とかが付着してるかもしれないので、やめておいた。
さてと。キーボックスの中身を探る……そこにあるのは、無数の鍵……。
407号室の鍵を探していき、その鍵を発見していたよ。
「これだ!」
「やったね。これで、志郎お兄ちゃんの叔母さんを助けられるよ」
「ああ……間に合ったとは、言えないけどさ……罪滅ぼしには、なるかな」
「うん。なるよ!」
瑞穂ちゃんの笑顔と言葉がありがたいよ。オレは彼女に笑顔を伝染させられながら、407号室の鍵を手に取った。
急いで、407号室へと戻ったよ。
「叔母さん、鍵を見つけた。これで、ここを開けられる」
『そう。それは、ありがとうね、志郎ちゃん……』
言葉とは裏腹に、叔母さんは喜んではいないのが分かった。
……醜い怪物に変えられた姿を、見られたくないのだと感じた。
「オレは、ここの鍵を開けて、上の階に向かうよ。院長室にある、大きな鏡。それを、瑞穂ちゃんと一緒に割る」
『……そうしなさい。そして、御子柴には二度と関わらないように……』
「……うん。瑞穂ちゃんを、巻き込めない」
『ええ。守ってあげなさい、彼女のことをね……』
「ああ、そうするよ。じゃあ、叔母さん、ここを開けるね。オレと瑞穂ちゃんは、目を閉じておくから……オレの顔を、見てくれ。大したこと出来ない、情けない大人だけど、オレ……大人になれたんだ」
『…………ええ。私を、見ないでね?』
「ああ、わかったよ。瑞穂ちゃんも、それでいいね?」
「うん」
「じゃあ、開けるからね、叔母さん」
『……ええ』
オレは407号室の鍵を、その冷たく無慈悲な閉鎖扉に差し込んだ。
目を閉じながら、ゆっくりと鍵を回したよ。
冷えた金属が硬質な音を歌い、結城雪子の病室は解放されたんだーーー。




