第四話 精神実験体158号 その十五
「ヒトの呪われた死体を、改造するってこと……?」
『そう。そうすると、この世界では、色々な機能を与えたりすることも出来るみたいね……』
まさか。そう言いたいところだが、この病院で見てきた様々な怪現象が、その言葉を真実だと思い知らせてくる。
走る赤子に、ヒトを燃やす歪んだナース。不気味な化け蜘蛛に平たい男、そして、外にいた巨大な『アレ』……。
それらの全てが、この場所に引きずり込まれて、死んでしまい、呪われた死体を改造して製作したものらしい。
まあ、正確には死体というよりも、精神なのだろうが……だからこそ、改造という非現実的な行為にも応えられるのかもしれないな。
「でも。そんなことして、どうしたいのかしら」
『より強い能力を欲しているんでしょう。この世界を広げて、支配したいとでも考えているのかもしれない……』
「なんか、危なそうなヤツよね」
「調べてみるよ」
御子柴精神病院、院長。
スマホでGoogle検索かけてやる。ほら、出てきた……って!?
「町長選!?この人、選挙に出るの!?」
「……ああ。そうみたいだな……」
ゾッとしたよ。
こんなことを密かにしている人物が、オレの故郷の町長になるってのか……っ。
『そうなの……彼は、御子柴はより大きな力を得ようというのね』
「な、なんか、ダメでしょ!?こんなことしてるヤツが、町長とか終わってる!!」
「……でも。御子柴のしていることは、立件されないさ。妖怪が作ったもう一つの世界で、患者の魂だか精神とかを殺したり、改造して怪物にしてるとか!!」
そんな発言をした方が、頭のおかしいヤツだって言われてしまう。
「罪にならないっていうの……?」
『刑事罰にはならないでしょうね。妖怪の起こす事件は、昔から説明のしようがないことも多い』
「でも!……ダメでしょ?……ダメだよ!」
そうだ。言うまでもなく、ダメなことだ。そんなヤツを野放しにしておくなんて……っ。
『……正義感のある子達ね。でも、御子柴のことよりも、自分達のことを気にして。ここから、生きて出るのよ。そして、御子柴には関わらないこと』
「……ヤツを罰することは、出来ないのか?」
『……』
その沈黙は、痛ましい。叔母さんは、ヤツに利用され、精神を殺され、ここで怪物に改造された。
……叔母さんは、オレたちよりもよほどにヤツを知っていて、ヤツのことを怖がっているんだ……っ。
『……裁きは、天が下すでしょう。今は、あなたたち二人が生きることが全てです。死にたくなんて、ないでしょう?』
「……そ、それは」
『御子柴は、ここでも、小守の町でも強い力を持っているのよ。どんなことをされるか、分からない。早く逃げて、絶対に、御子柴に接触してはダメよ』
「だけど、野放しには……」
『彼を止める力は、もう無いのよ。あるとすれば…………いえ、それはいい。志郎ちゃんは、瑞穂ちゃんのことを守りなさい。現実的に彼女を守る方法は、御子柴に関わらないことよ』
大人になったからかな。
権力者に逆らうことの恐怖が理解できるのは。悲しいことだけど、叔母さんが言っていることが理解できる。
市長だとか、大きな病院の院長だとか。オレが倒す手段はない。
この病院での事実を公表したって、無茶苦茶な選挙妨害ということで逮捕されて終わりじゃないか……。
どうすることも出来ないよ、このままでは。叔母さんが言っていることが、正しくはないけど、それしか道はない。
瑞穂ちゃんを、御子柴のような悪魔に狙わせるワケにもいかない……。
「わかった。御子柴よりも、生きてここから出ることを優先する」
『そうして。御子柴には、きっと、天罰が下るから……』
神様の裁きを頼るしかないなんて……とんでもなく、オレは無力なんだと、ハッキリと思い知らされていたよ……。