第四話 精神実験体158号 その七
玄関フロアですることが出来た。受け付けに侵入して、物色することだ。
病院内を探索する以上、消火器は必須だしね。
受け付けのカウンターの内側に入り込み、事務室内で瑞穂ちゃんは消火器を見つけていた。
オレは、受け付けにあるパソコンの電源を入れる。
入院患者の情報が知りたい。叔母さんがいる部屋がどこか検索することが出来たら、楽なんだよ。
セキュリティがかかっていたら、お手上げだが……くそ。
そりゃそうか。個人情報のかたまり。誰もが使えるようにはしていないか。
パスワードが要る。でも、もちろん知らないさ。
……舌打ちしながら、オレは頭をかきむしる。6桁の数字がいるらしい。6桁、当てずっぽうでは難しい。
何か、ないか?…………オレは、スマホを取り出していた。
瑞穂ちゃん限定だけど、電話は使えた。ネットは、検索エンジンは生きているのだろうか?
……試してみる。おお、Googleが動く。悪夢の割りに、ネット環境は充実しているらしい。アンテナ、全部立っている……。
ネットが使えることは分かった。使いこなせば、状況を打破することが出来るかもしれない。
思い付いた6桁の数字は二つ、この御子柴精神病院の市外局番なしの、電話番号。そして……。
『ーーー御子柴精神病院、昭和44年2月20に設立……』
……ものは、試しだ。
440220……その数字を入力していく。すると、パソコン画面が動き出してくれた。
当たったらしい。病院のバースデーが暗号か。いや、もしかしたら、何を打っても開いたかもしれない。
この世界は、そこまで精密には作られていないかもしれないものな。
とにかく、これで受け付けのパソコンがいじれる。
入院患者の情報はフツーは聞き出せないが、事務的な手続きを考えると、ここからでも引き出せそうだ。
……入院費用とかの支払いもここでするわけだし。
いや。そもそも、ここは現実じゃない。鏡の中の世界だか、悪夢の中だとか。
怪物だらけの非現実の世界でしかない。何より、この不可思議病院が、マトモに個人情報保護に勤めているわけもないか。
……あったよ。これだろ?……『入院実験体照会』……!?
「『実験体』!?」
「どうしたの?」
瑞穂ちゃんがオレの驚愕の叫びに反応していたよ。
情報は、共有しよう。
「これを見てくれ。この御子柴精神病院は、入院患者のことを実験体呼ばわりしてる」
「……実験体って、どういうこと?」
「人体実験を……違法な実験をしていそうってことさ」
「女の人を殺して、こんがり童子の偽物?……を、育てていること?」
「……それも酷すぎる実験だよね。たしかに、そうでもしないと、あの数は作れないかもしれない……でも、他のこともしてるかも?」
「他のことって……?」
「さっきのアレとか」
「アレ……人の体で出来てるって……」
「うん。そう見えた……だから、きっと、アレもここで作ったんじゃないかな。実験の果てに……」
「そんなことって、現実にできるの!?」
「現実には無理だよね」
「……え?」
「現実には無理だからこそ、この、現実ではない世界で、ここの病院のヤツらは実験をしているのかもしれない」
「……どういうこと……?」
「……意図的に、この空間を作れたら?……常軌を逸した世界で、ありえない研究をすることだって、出来るかもしれないよ」