表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/66

第四話    精神実験体158号    その四


 タクシーをゲットしたオレは瑞穂ちゃんを助手席に乗せた。


「これで逃げられるかな?」


「……きっとね」


「あはは。やっぱり、うつ病じゃなかったんだよ!……志郎お兄ちゃん、前向きに戻ってるもん」


「そうかな?」


 ……たしかに、前向きになろうとしている。自分の力で?……いや、瑞穂ちゃんを守ろうとしてのことだろう。


「瑞穂ちゃんのおかげさ」


「う、うん。除霊珈琲のおかげかな……?」


「あれもあるかな」


「グアテマラ産の珈琲の勝利だね。こだわりの一杯が最後に勝つんだよ!」


「看板娘らしくて、いい台詞だよ……じゃあ、出発しよう」


 どこに向かうのか?……どこでもいい。とにかく、この場所から逃れられたら良いんだ。


 オレはタクシーを出発させる。


 病院の駐車場を抜けて、坂道を下っていく。


 ……この病院は、丘の上にあるらしいな。そんなことも、今、初めて知る。


 ……初めての場所だった?


 ……どうなのだろうか。


 いや、考えても答えなんて出やしない……こんな謎の世界のことなんて、別に考えなくていいんだ……っ!?


 坂道の途中で、ブレーキを踏んでいた。


 瑞穂ちゃんが文句を言うかと思ったけど、そんなこともなかったよ。


 ブレーキを踏んだ理由が、瑞穂ちゃんにも理解が出来たからだ。


 『それ』は、とんでもなく巨大な物体だった。病院から市街地らしき場所へと続く道を遮るように、そいつは立っている。


 巨大な物体であり……グロテスクだった。今日は本当にグロテスクなものをよく目の当たりにしているが、こいつはまた規格外。


 それは、あえて言うのならクラゲにも似ていたよ。


 ぶよぶよとした、肉色の臓物でつくられた、赤茶色の傘と、腸だか脈動する巨大な血管などと合流した9本の『脚部』。


 肉の柱と、内臓がごちゃ混ぜになったキノコの形をした存在でもいいかな……。


 何て呼ぶべきかも分からないが、圧倒的な大きさを持つ異形が君臨しているのさ。この道路の先にはね。


 そいつは……象よりは大きい。もはや、一般的な一戸建てと同じようなサイズに見えてしまうよ。


「なんだろ、あれ……っ」


「わからない。でも、アイツ、道を塞いでしまっている……」


「……脚の横を通るのは…………」


 瑞穂ちゃんは、その言葉の先を断念した。あまりにも現実的ではない行為だろう。


 だって。


 アイツは、あのグロテスクな赤茶色の肉のカタマリは生きているんだから。


 九つある脚が、ゆっくりと動き始める。


 どれだけの重量があるのか分からないが、地面が揺れたのは理解できるよ。


 一歩ずつ、ゆっくりと歩いて、その度に地面は揺れた。


 いや。


 違うな。ゆっくりなんかじゃないよ。あまりにもアレは大きいから、ゆっくりに見えるだけのことだ。


 その実は、かなりの速度だった。時速30キロぐらいはあるかもしれない。


 そんなものが、オレたちの乗っているタクシーをめがけて、ゆっくりと坂道を登ってきているんだ。


「ふざけんな!!」


「や、やばいよ!!アレ、私たちのこと、踏み潰す気なんだ!?」


「くっ!!病院に戻るよ、瑞穂ちゃん!!どこかに掴まって!!」


「う、うん!!」


 正体不明のモノばかりだが、それでもアレは特別に何がなんだかも分からない。


 明確なことは、とにかくクソデカイ肉のカタマリが、オレたちを車ごと踏み潰すため、どんどん加速して近づいてきているということだけだったーーー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ