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第三話    産まれてしまったからには。    十一


『いい。いいわあ、このバイブレーション!!ズンズン来る!!脊柱が、気持ちいいィイッッッ!!!』


 ブオオオオオオオオンン!!


 チェンソーを猛らせながら、彼女は上機嫌だ。


 変態。オレは人生で初めて、初対面の人に対して確信を抱き、その侮蔑の称号を与えることにしたよ。


 チェンソー女医はハイヒールなのに、その巨大チェンソーをブンブンと振り回す。


『ィイ!いいオペが出来そうよおお!!待っててねええ!!す、ぐ、に、帝王切開よおおおおッッッ!!!』


 ……オレの悪夢だとすると、オレの潜在意識とかには、こんな変態女がいるのか?……そうだとすると、スゴく嫌だ。


『ぎぎいいき』


『しゅこごおおん』


『わかってるわよ、すぐに分娩室に行くわよ』


 会話しているのか?……何でも有りだな、あの女は。


『でもねえ。なんか、生きてるヤツの臭いがするのよねえ……臭くて、臭くて、本当にムカつく臭いよ!!』


 ……彼女には、オレたちの臭いが分かっているのか。


 彼女が、オレたちにより近づく……オレと瑞穂ちゃんは生きた心地がしない。


 目の前に赤いハイヒールがやって来る。


『あー。疲れちゃうわあ!!』


 彼女が、オレのソファーの上に座りやがった……っ。


 チェンソーの振動が、ソファーに伝わってくる。


 ……息を殺すが、心臓までは止められない。


 恐怖と緊張が、心拍を早め、心音も大きくしてしまうのだ。


 それに、この角度だと……オレだけじゃなく瑞穂ちゃんも見つかってしまうかもしれない。


 瑞穂ちゃんは怖くて仕方がないのだろう、顔をホコリだらけの床に押し付けている……。


『きぎきい』


『くくこぶう』


『……あー、もう、分かったわよ。働かせるだけ、働かせるつもりね?……そう簡単に本物なんて産ませられないってこと、何年もやってりゃ院長も分かるでしょうに……』


 文句を言う歪んだナースたちに、愚痴るチェンソー女医。こいつらにも、上司がいるようだ。


 院長。


 そいつが、ここを仕切っているのか。しかも、腐乱死体たちに、こんがり童子を産ませようとしている……。


 わけがわからん……ということだけが理解できたよ。


 チェンソー女医は立ち上がり、赤いハイヒールを鳴らしながら、彼女の仕事場である分娩室へと向かう……。


 部下の歪んだナースたちが、そのおぞましいことが行われる場所へと先に入り、チェンソー女医は……立ち止まる。


『…………いいかしらぁ?生きてる人?……私は、死体専門の産科医だし、すぐに死んじゃう生きてる人には興味はないわぁ』


 ……彼女は、オレたちに気づいている?


 そして、何かを伝えようとしてくれているのか……?


『でもねえ、他の連中は仕事熱心よ。死体を作りたくって、ウズウズしてるの!!……せいぜい、見つからないようにねえ。死んだら、私がオペってあげる……』


 一か八かだが、質問してみるか……?彼女はおかしいが、人の言葉を話している……ここが何なのか、知っていそうだ。


 とても気になる……でも、リスクが高すぎるか……。


 とにかく、ここから脱出することが出来たら、問題はない。


 一階に戻って、玄関から外に出てしまおう。そうすれば……終わるはずだ。少なくとも、この危険な場所からはおさらばだ。


『ぎーきい』


『はいはい、お仕事するわよ、くそ面倒だけど!!』


 愚痴とチェンソーの音を残して、彼女は分娩室へと消えていった……。


 壊れた田園に混じり、暴力的なまでのチェンソーの音と、おそらくそれに腹を切り裂かれた腐乱死体の上げる叫び声が響いた。


 肉をえぐる音、何かが飛び散る音が聞こえ、耳を塞ぎたくなるほど痛ましい悲鳴が響く。


 瑞穂ちゃんはガタガタと、震えていた。泣いているのが分かる。


 これは酷すぎる環境だからだ。


 でも、だからこそ、この場には長居することが出来ない。


 オレはソファーから脱出し、瑞穂ちゃんのソファーを持ち上げる。


 瑞穂ちゃんが泣きながらも動いてくれる。ここから逃げなきゃいけないとは、彼女だってもちろん考えているさ。


 オレは瑞穂ちゃんの手を引いて、忍び足のまま、この陣痛室から廊下へと脱出する。

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