表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/66

第三話    産まれてしまったからには。    その十


 ソファーのひとつを持ち上げて、オレは瑞穂ちゃんをその下にある空間に隠す。


 床はホコリっぽいが、瑞穂ちゃんは躊躇わない。それほど、足音の数は多い。不安なのさ、オレもな。


「お兄ちゃんも、早く!」


「わかってる!」


 オレも瑞穂ちゃんのソファーと対面しているソファーを起こして、そこに隠れる。なんかヤドカリとかカニにでもなった気持ちだ。


 息を潜める。ホコリっぽくて、くしゃみが出そうだが、必死に口と鼻を押さえて誤魔化しにかかるんだ。


『あぎぎぎぎいいいいいいいいいいい!!』


『ひゃごおおおおおおおおおおおおお!!』


 新たな叫びが二つ追加される。この陣痛室に運び込まれていた腐乱死体の女たちの腹は、どんどん膨らんで、叫びを放つのだ。


 オレはこの叫びの正体を察したよ。


 これは陣痛をこらえる叫びだ。悪霊どもの陣痛は、とんでもなく辛い痛みらしいし、その叫びは獣みたいに豪快なんだよ。


 ……音飛びする田園と叫びのコーラス、無茶苦茶にうるさいこの場所に、足音どもまで近づいて来やがった。


 そして、陣痛室のドアは開く。無数の歪んだナースどもがこの部屋に入ってくる。


 心臓が高鳴る。怖いよ、異形のナースが1ダースもいれば。


 だが、オレはさらなる怪異と遭遇することになる。


 歪んだナースたちは整列した。軍隊みたいに、整然としている。


 そして。その隊列のあいだを、一人の女が歩いてくる……それは、女医だ。白衣を着ているし、赤いハイヒール。


 背が高くナイスバディ……気の強そうな才媛、そんな声をかけにくそうな美女である。


 歪みはない。


 だが、それだけに違和感は強まる。異形どもを従えているように見えるのだ……女医は叫ぶ。


『みなさん、お静かに!!安心してくださいね!!すーぐに、楽にしてやります!!腹の中に宿った、失敗作……いえ、もしかしたら本物を、こ削ぎ出してあげますからね!!』


 こいつも産科医なのか……?


 こいつが、こんがり童子を歪んだナースたちから取り上げているのだろうか?……でも、失敗作って、なんだ……?


『さて、今夜のクランケは……あら、三匹だけだったかしら?種付けようの死体は、四匹のはずだけど?』


 種付け?……下品な言葉だが、まあ、意味は分かる。そして、少し安心もする。


 死体にならないと、こんがり童子を種付け出来ないのか。死体の女しか、あの怨霊の子を妊娠出来ない。


 なら、瑞穂ちゃんは大丈夫なわけか。良かったよ。しかし、何だろうな、あの女……。


『まあ、いいわ!私は失敗作ばかり産むダメな死体女にも、成功例を孕ませられないクズな蜘蛛男にも興味はない!!……もっと、研究したいのよ、有意義にね!!さあ、運びなさい!!……失敗作を取り上げるわよ!!』


『がひい』


『ぐびび』


 歪んだナースどもは、車椅子に座ったままの糸に巻かれた死体妊婦どもを運んでいく。


 分娩室に……。


 あの女医が、赤子を取り上げるらしい。しかし、まともな手術ではなさそうだな。


 ギュドドドドドドドドドドドド!!


 エンジン音と不完全燃焼の臭い煙が陣痛室に満ちていた。


 歪んだナースどもが、曲がった体に鞭を打ち、巨大なチェンソーを持ってくる。


 やたらとデカイ。林業の現場で使うような業務用のパワーを感じる代物だった。


 女医は嬉しそうにその凶器を受けとる。


『いいわ!!今夜もビンビンねえ!!最高よ回転数、やかましい音!!このバイブレーション!!……最高に手術がしたくなる!!』


 ……ああ、見た目こそ美女だが、悪夢の住人らしく歪んでる。主治医にしたくない女ベスト1位と出会ってしまったな。


 チェンソー女医はハイヒールにチェンソーという見てるこっちが不安になる姿だが、当の本人は手慣れた様子だ。


 鼻歌混じりにチェンソーを振り回し、陣痛室をツカツカと歩き回る……こちらに近づいて来るな……。


 オレも瑞穂ちゃんも息を殺す。物音一つ立てたくない。でないと、殺される気がするんだ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ