第三話 産まれてしまったからには。 その八
「瑞穂ちゃん、今、助けてあげるね……」
「う、うん。おねがい……」
怪物退治に成功したオレは、肩で息をしながら瑞穂ちゃんの側へと向かう……。
車椅子に糸で縛りつけられた彼女から、糸を剥ぎ取っていく。すると、また彼女の上着が千切れてしまう……。
「ご、ごめん。服が破れやすくなってるみたいで……」
「そ、そうなの!?」
「あ、ああ。この糸が、服を溶かすみたいだ……体が痛いところとか、ない?」
「うん。それはない」
「体調が変だとか?お腹が痛いとか……」
もっと露骨に言えば、性器が痛むとか……そう聞けないから、お腹がどうとかという質問で誤魔化していた。
悪夢のなかだとはいえ、瑞穂ちゃんに嫌われたくないんだよ。
それに、もしもあの蜘蛛のせいで、瑞穂ちゃんの腹のなかに、こんがり童子の『卵』が産み付けられていたら?
……どうしてあげることも出来ない。オレが産科医なら、何か方法があるのかもしれないけど……高卒の自動車メーカーのサラリーマンに過ぎない。
「お腹とかは痛くないよ」
「よかった」
「でも、このネバネバの糸がなんかイヤ。早く助けて」
「あ、ああ。でも、服が破れちゃうから慎重にしないと……」
「し、下着も、破れてるの?」
「いや、そうでも」
「み、見ないで!」
確認しようとすると怒られた。まあ、そりゃそうだ。
女子高生の下着を見る?……サラリーマンにとっては職を失う危険な行為だ。
「ご、ごめん。本当にごめんな、瑞穂ちゃん」
しばしの沈黙がつづくが、瑞穂ちゃんの口は開いてくれる。
「……ううん。こっちこそ、ごめんなさい。私が言い出したのに。お兄ちゃん悪くないし……」
「いいや。もっと、オレも考えた言動が必要だな。オレは、瑞穂ちゃんに嫌われたくないし、不快な思いをさせたくない」
「……志郎お兄ちゃん」
「なんていうか、その……ごめんな。もっと、君を怖がらせたり、イヤな気持ちにさせない方法もあると思うんだが」
「いいの。あやまらなくていいよ。お兄ちゃん、服が少しぐらい、破れてもいいから、この糸、取って……」
「あ、ああ」
瑞穂ちゃんに許してもらったオレは、ゆっくりと彼女の体に絡み付く糸を剥ぎ取っていく……。
糸に触れていたシャツはまるで紙のように脆くなっていて、少しの力でも千切れてしまう。
服が破れる度に、瑞穂ちゃんの肌が見えてしまう。健康的な小麦色と、可憐な白い肌が……。
その度に、ごめん、ごめん、と謝りながらも作業をつづけていく。瑞穂ちゃんは、恥ずかしいのか顔を背けて、瞳を閉じていた。
罪悪感が強くなるが、それと共に背徳的な興奮も覚えてしまう。
男は邪悪で、本当にどうしようもない。瑞穂ちゃんの服を剥ぎ取るような行為に、興奮も覚えていた。
「……っ」
瑞穂ちゃんが身悶えした。オレの手が、少し胸に当たったんだ。
「ご、ごめん。わざとじゃなくて」
「わ、わかってるよ。お兄ちゃん、そんなヒトじゃないもん……」
本当に申し訳ない。信頼を裏切っている気持ちになる。
うつ病になってから、ほとんど消えていた性欲が出て来ているのか。
瑞穂ちゃんの肌に触れた時、その肌のやわらかさと、男の肌ではありえないツルツルとした感触を知ったんだ。
陶器のように、なめらかな肌。その言葉の意味を知ってしまった。
悪いことだ。それでも、瑞穂ちゃんが強く目を閉じて、オレから顔を背けている隙に確認しておきたかった。
彼女の下着が無事かどうか。
瑞穂ちゃんにはとても聞けないが、あの蜘蛛がこんがり童子を彼女に産み付けるとすれば、やはり性器からだと思う。
パンツが無事なら、産み付けられていないと信じれるような気がした。
オレが医者なら、レントゲンでも撮影してあげるけど、違うからね。
オレは、彼女の下半身を覆う糸を大きく引き剥がしながら、不安げに強く閉じられた瑞穂ちゃんの脚と、その付け根を見た。
赤いリボンのついた下着は、無事だった。破壊されたあともないし、血とかも出てない。
安心する。それから先は、目を閉じて作業に集中することが出来た。
己の邪さに、自己嫌悪と、意図せずに触れてしまう瑞穂ちゃんの陶器みたいにツルツルした肌の感触に罪悪感と……。
……否定できない、楽しみを覚えながら。オレは、クズだが。でも、健康的な若い男なんだから、仕方がないじゃないかと、誰にするでもない言い分けをしてみた。




