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第二話    悪夢は雨の日に産まれた。    その三


 オレは吉崎先生の病院を徘徊している。個人経営の病院で、そんなに大きくはないはずなのに……今は総合病院みたいに広いんだ。


 長い廊下、長すぎる廊下だ。現実がオレの精神病に影響されて、歪んでいるらしい。


 魔法の薬の効き目が、落ちているのだろうか?


 とにかく、誰かに会いたい。先生は妊婦の処置をしているだろうから、瑞穂ちゃんだ。


 ……そうだ。


 スマホか。


 スマホで連絡を取ればいい。オレはスマホの電源を入れる。


 LINEのアプリを押して、犬のキャラクターを好む瑞穂ちゃんに電話をかける。


 呼び出し音がしばらく続き、通話は始まった。


『志郎お兄ちゃん!?……今、どこにいるの!?』


「病院だよ。吉崎先生の待合室にいたはずなんだ。そこで、寝ていたら、なんか病院が大きくなってて……ああ、ごめん。オレの幻覚の話だ」


『違うよ!!』


「え?」


『幻覚じゃないよ。ここの病院、大きくなってるの。私も、迷子になってるの。ここ、どこなの?』


 どういうことだろう?瑞穂ちゃんまで、うつ病に?……だとしても、同じ幻覚を見るのはおかしなことだ。


『それに、ここね……黒い人がいるの。たくさん、いる』


「黒い人って、焦げたナース?」


『それもいるし、そうじゃないのもいるの!!と、とにかく、私、一階のリンネ室?……って、ところに、隠れてるの!!早く来て、他の人には通じないし、志郎お兄ちゃんは出てくれないし……バッテリーも、切れそう。節電するから、もう切るね!早く、来て!』


 一方的にまくしたてて、通話は終了する。


 リンネ室?


 リネン室のことかな。ホテルとか病院にある、寝具を納めたりしてるところだ。


 ……吉崎先生の病院に、そんな設備あったかは分からないけど……オレは瑞穂ちゃんの保護者だから、行かなくちゃね。


 もしかすると。


 これは全て夢かもしれない。そう考えた方が合理的だ。


 病院が巨大化したり、歪んだナースがいたり、しかも、瑞穂ちゃん曰く、他の怪物も出るとか?


 荒唐無稽すぎる。


 ……でも、他にどうしようもない。ほほをつねっても痛いし、悪夢は終わってくれない。


 今は、とにかく瑞穂ちゃんと合流しよう。リンネ……じゃなくて、リネン室を探すんだ。


 こないだ行った総合病院が、この悪夢のベースになっているとすれば……どこかに案内板があるはず。


 玄関ホールの壁とかにさ、どこに何があるか描かれているアレが、あるはずだ。


 このまま、まずは玄関ホールに向かうとしよう。


 そうすれば……リネン室の位置がわかる。そんなことをする必要があるのかは謎だけど、電話口の瑞穂ちゃんは、怯えていた。


 行ってあげたい。


 全てが、幻覚だか悪夢の中の出来事だとしても、オレは瑞穂ちゃんを安心させてあげたいも願っていた。


 だから、走り始めていたよ。幻覚のなかで走るのは危険だけど、これは、たぶん悪夢だろうから、どこかにぶつかったりはしないはずだ。


 ほら。


 廊下を走っているのに、ぶつからない。ここが吉崎先生の病院なら、壁にでもぶつかっているはずだ。


 ……夢のなかさ。悪い夢の中。リアルなのは……残念ながら、オレの精神病が酷くなったからだろう。


 地元の空気を浴びて、悪化したのかもしれない。


 現実のオレは、裸で奇声をあげながら、町中を走り回っているのかもな。


 あるいは、叔母みたいに、こんがり童子がやって来るとか、叫び回っているのかもしれない……。

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