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第二話    悪夢は雨の日に産まれた。    その二


 熱い!!熱い!!熱い!!


 燃える炎を見ながら、オレは言葉にならない声を叫ぶ!!


「あああああああああああああ!!!!????」


 パニックになる。黒い子たちの幻覚は、オレには無害だった。なのに、今、オレの手首は燃えている!!


 限界までに皮膚を捻られているような、鋭くて耐えがたい痛みだ!!どうなっているんだ!?


 わからない!!わからないが、歪んだナースはオレの苦痛を見て、黄色く光る歯を見せつける。


 笑っていやがるんだ!!ちくしょう!!幻覚のくせに!!


 歪んだナースが、ヒタヒタという足音ととに近づいてくる!!


 左腕を振り回しても炎は消えてくれない。幻覚だから、風じゃ消えないのかも。


 しかも、歪んだナースは飛び付こうとしている。冗談じゃない。あいつにハグされたら、全身が焼かれる幻覚に呑み込まれるのかもしれない。


 ショック死するかもな。幻覚に殺されるなんて、ふざけてる。


 オレは、ポケットに溜め込んでいる魔法の薬を一錠取り出して、口に放り込む。


 退治してやる!!


 幻覚を、魔法の薬で、消し去ってやるんだよ!!薬を噛み潰し、粉々にして飲み込んだ。


 早く体に溶けて、魔法の薬の成分が脳に届いて欲しいと願う。


 ほら、みろ。


 やっぱりだ。


 歪んだナースが、動きを止める。電灯の明かりが点いた。光を浴びて、ナースが消えていく。


 そうだ。元々、いなかったんだ。あんな怪物が実在しているはずがない。


 明かりも、最初から点いていた。オレの心が、現実を歪めていただけだ!!


 ほら、火も消えていく。痛みもマシになっていく。赤くただれていた皮膚が、治っていく。まるで、逆再生してるみたいだ。


 骨まで見えそうなぐらい、焼け落ちていた肉が盛り返し、いつもの見知った左腕に再生されていく……。


 歪んだナースが悔しそうに黒焦げの顔を歪めて、現実の世界から消え去った……。


「ざまあみろ、オレの幻覚め……っ」


 オレは誰に悪態をついたのか。自分自身の病んだ精神だろうか?


 とにかく、心は落ち着いた。手首はまだ少しは痛いが、これも幻の痛みに過ぎない。深呼吸でもしていれば、落ち着くはずだよ。


 焦げ臭いにおいが漂う待合室で、オレは三十秒かけて深呼吸を繰り返した。


 オレが焼けたにおいは、空気中から消えてはくれないが、痛みはほとんど無くなってきている。


 ……いいことさ。


 ああ、ホント……うつ病が悪化した。雨の日に、妊婦を助けたせいで…………。


 ……そう言えば、叫んでしまったな。瑞穂ちゃんや、吉崎先生に申し訳ない。あの妊婦さんにも……産まれたのだろうか……?


 雨の日に、産まれてしまったのだろうか?


 ……オレは、叔母の言葉なんて気にしている。くそ、地元になんて、帰るんじゃなかった。


 うつ病が、酷くなっている…………。


 今は、車を運転しない方が良いかも。車道に飛び出してきた人影も、幻覚だったのさ……いや、あれは、瑞穂ちゃんも見たから、違うのか…………わからない。


 とにかく、今は、謝りたい。瑞穂ちゃんや吉崎先生とか、看護師の人たちに……オレは、雨音だけが響いている、この無人の待合室から移動することに決めた。


 ここにいると、また、歪んだナースに出会ってしまうかもしれないからね。


 オレの見る幻覚はパターンがあるんだ。同じような場所から、同じような幻覚が現れる。


 ここにいると、あの怪物をまた見てしまう気がするんだ。


 とにかく、今は……ここから離れなきゃいけない。



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