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妹は理解する

 放課後の教室で征司さんに拒絶されてしまった。

 征司さんが出ていった後も私は教室で一人泣いていた。


 前みたいに笑い合えないのだろうか。

 あの楽しかったやり取りはもう味わえないのだろうか。


 そう思うと涙が止まらない。必死に拭ってもぼろぼろと滝の様に溢れてくる。

 誕生日でお祝いされた時でも、中学校の卒業式でも、高校受験に受かった時でもこんなに涙が出ることは無かった。


 もう頼ってくれないかもしれない。そう思う反面私は悔しかった。

 いつもみたいに私が話を切り出せば相談してくれると。

 お姉ちゃんには出来ない事を私なら出来ると、どこかで慢心していた。

 征司さんは姉はともかく、私にも相談出来ないと言った。私は男の子じゃないからその類いなら相談出来ないのは分かる。


 だが、そのような悩みでは無いことは確かだ。

 仮にそれに沿った悩みだとしたら、颯太さんが何とかしている筈だ。征司さんと颯太さんは親友と言っても過言では無いほど仲が良い。いや、そう言わずとも親友なのであろう。

 よく征司さんの側に居る彼は、恐らくは悩みに気付いているだろう。もしくは相談されたか。


 詳しい事は分からないが颯太さんに聞けば分かるかもしれない。教えてくれなくとも何か手掛かりになるような事を聞きたい。


 そう思っていた頃には涙も止まり落ち着いてきた。いつまでも教室に居たら部活生や他の教室で居残りをしている誰かに見つかってしまう。

 ー今更だが今までのやり取りを見られてたらどうしよう。


 袖で涙の後を拭い、その場から立つ。そのままの征司さんの机まで歩き側の窓を開ける。空は赤みを帯始め綺麗な夕焼けを創っていた。窓から吹き込む春風はカーテンを靡かせ私を包み込む。

 風で腫らした目が少し染みるが、少し心地良い。


 一分程その感覚を味わっていると、教室の後方の扉が会いた。驚いてそちらに顔を向けると、開けた人物は私と帰る約束をしていたお姉ちゃんだった。


(良かった。知らない人じゃなくて)


 もし知らない二年生が入ってきたら、二年生の教室で知らない一年生が泣いていた、という謎のシチュエーションになってしまう。


 実の姉にあんな感情を見られてしまったのなら、それはそれで結構恥ずかしい。普段の私とはギャップがかけ離れているからだ。


 姉で良かったという安堵と羞恥にかられていた束の間に、私は気付いた。お姉ちゃんは普段のような表情だがどこか元気が無かった。

 私じゃないと分からない微々たる差だが…。

 もしかしたら先程の会話を聞いていたのかもしれない。

 出ていった征司さんと何かを話したのだろうか?


「…とりあえず帰ろっか、有美」


 直ぐに帰りを促すのは、此処で誰かに話を聞かれるより、二人で帰りながら話をしようとする姉なりの気配りだろう。


「そうだね。お姉ちゃん」


 帰り道にお姉ちゃんに相談してみよう。

 彼の様子に気付いていたのか、何か心当たりはあるのか、これからどうすればいいか。


 相談事に向かない姉でも必死に考えてくれるかもしれない。いや、最近は悩む素振りを見せない姉でもいち早く気付き私より悩んでいたのかもしれない。

 征司さんとしてたように、姉と一緒に悩もう。そしてひたすら解決策を練ろう。そして今度は三人で安堵し笑い合おう。お姉ちゃんの笑顔もそうだが、征司さんの笑顔は私を元気にしてくれるから。幸せな気分になれるからー


 その情景を見るが為に今を頑張ろう。

 ここで諦めてしまったらこの先、そんな光景は絶対に見れない。

 だから私は諦めない。


 高校に入学してそうそう、勉強でも部活でも学校行事でもなく、男の子の悩みの為に今を頑張るなんて、まるで恋する乙女の様で少し可笑しく思う。

 だがそんな可笑しく思う事に少し引っ掛かりを覚えた。


(あれ、男の子の為に頑張るってなんか――)

 まるで征司さんに恋をしているような――


 その考えに至ると、林檎の様に顔が熱くなると同時に胸が高鳴る。


(いやいや、昔みたいに戻りたいだけで!そんな気持ちは一切無い筈!…無い…筈!!)


 その考えを必死に遮断する為に頭を左右に勢いよく振り回す。今までそんな事思い付かなかった。だが一度考えてしまえば次に次にへと彼を想ってしまう。


(もしかして、私って征司さんの事が…)


 そう理解した瞬間に今まで無意識だったものが溢れてくる。


 彼が悩むとき、いち早く気付くのは。

 率先して悩みを聞くのは。

 彼のためにと考えを巡らせるのは。

 安堵した時に幸せな気持ちになれたのは。

 あの笑顔に見る度に元気が湧いてくるのは。


 ――征司さんが好きだから、だと。


 今の今まで気が付くことは無かった。

 幼馴染みだから、いつも一緒に居たから、彼は心の底から信頼できる男子だから。

 そう思っていたモノは全て恋をしていたから。


(でもでも、今日あんな事があったのに今後征司さんにどんな顔で会えば良いのかな…)


 夕陽を背に姉と帰り道を歩き、先を不安に思う彼女は自信に伸びる影を見つめる。

 その影を見続けていると、姉が手を繋いでくる。そして影は繋がった。


「どっちかの影に征司君の影も繋ごうね!」


 影を見つめる私に、姉は笑顔を浮かべそう言った。

 それはどういう意味だろうか。本人は自覚は無さそうだが姉はきっと彼が好きな筈だ。そしてそれは今さっき気付いた私も。

 そういう恋愛の意味なのかー

 いや、姉に限ってそういった意味では無いだろう。


(皆で、っていう意味なんだろうなぁ)


 いつものお姉ちゃんだ、と思い少し笑ってしまう。


「んもー!何で笑うのー!?」

「いや、だって何か普段のお姉ちゃんらしいなって思って」

「ん~どういう事?」

「秘密。」

「意地悪な妹だなー」

「ねぇお姉ちゃん」

「んー?何ー?」

「私、諦めないから」

「…そうだね。一緒に頑張ろっか!」

「うん。まずは征司さんと目を合わすところから――」

「あーやっぱり有美にも合わしてくれないのか――」


 そんな会話をして二人は笑い合う。

 先程悲しかった事も、悔しかった感情も、恋に気付いた事も、不安に思うことも全て霧散してしまった。

 やはり姉は回りを笑顔にしてくれる。それにつられ私も笑顔になってしまう。


(ありがと、お姉ちゃん)


 そうして姉妹は仲良く帰路につく。出来れば次からは彼も混じって笑い合えるように。

 彼女は思い更け、これからを姉と一緒に考える。


 解決は難しいかもしれない。でもお姉ちゃんとなら――


 先を不安に思っていた彼女の足取りは軽くなっていた。




 拒絶された彼女は、情景に思い更ける際に今まで気付かなかった感情に気付いてしまった。

 これからの彼女は今までとは見る風景が変わって見えるだろう。

 一度自分の心を理解してしまえば、今まで出来たことをするのは難しいかもしれない。

 だが彼女は考え、間違え、躓いて、それでも答えを求める。


 あの情景を思い浮かべる傍らに、彼への想いも寄せて――




最後まで読んで頂きありがとうございます。白熊です。


今思うと登場人物の後に即シリアスってあんまり見ないですよね?多分ですけど…


とりあえずはこの三人の想いを書きたくてこんな形になりました。

次回から主人公がどんどん回りを巻き込んでいくような展開にしていきます!


では、次回もお楽しみに!

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