生徒会長と副会長
入学式から一週間が経った。
この頃になると新入生のほとんどは入りたい部活を見つけたり、先輩達は大学受験の為に勉学に励んだりと、各々が新しい学校生活を過ごしているであろう。
そんな日の放課後、俺と颯太は生徒会室に呼ばれていた。
正確には俺だけなのだが、理由あって颯太には付き人になってもらっている。そこは生徒会側も了承している。
因みに俺達は生徒会役員でもなんでもない。
「二人とも来てくれてありがとう。さて、君達が呼ばれた理由は分かるかしら?」
そう俺達に問い掛けるこの学校の生徒会長こと熊寺 涼子先輩。一年の時から生徒会長を務める彼女はひざ丈まで伸びた艶のある黒髪を靡かせ、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花で有名である。ただ、颯太曰く目が少々鋭いらしく、将来はOLが似合いそう!らしい。
「涼子ちゃ~ん、お茶をどうぞ~」
そんな彼女に温かいお茶を差し出す副会長こと照島 和香。彼女も会長共々二年間副会長を務めている。橙色の髪には綺麗なウェーブがかかっており、ほんわかな雰囲気を醸し出す彼女は皆大好きほん和香ちゃん!というフレーズで有名である。
颯太曰く顔は雰囲気をそのまま出したような顔らしい。
どんな顔?スッゴい気になるんだけど。
「えっと、よく分かりません。生徒会に迷惑をかけるような事はしてないはずですが。颯太は?」
「俺も心当たりはないぞ。お前が呼ばれたんだからお前に原因があるはずだろ?」
「といってもなぁ、特には」
「そう、では山下君。あなたに質問」
「何でしょうか?」
「君は、今年の入学式はどこに行ってたのかしら?」
「え?それは保健室ですけ…ど…」
そこで俺は気付く。会長は今、今年の、と言っていた。それはすなわち――
「では君は去年に引き続き、今年も私が読んだ挨拶を聞いていないのでしょう?」
「そ、そうですね」
「全校生徒の中で挨拶を聞いていないのは君だけなの。だから今から――」
「結構です」
つい去年の出来事を思い出し、会長の言葉を遮ってしまった。
去年の入学式を保健室で過ごした俺は今みたいにわざわざ生徒会室に呼び出され、真正面から新入生歓迎の挨拶を聞かされた。なぜ会長がこんな事をするのか。副会長曰く、一人だけ聞かされないのは可哀想だ、らしい。凛とした声で読む挨拶は素晴らしかった。だが真正面で読まされる立場にもなって欲しい。生徒会室で、顔のぼやけた女子と二人っきりで。そんなシチュエーションに俺は耐えきれる筈もなく――
途中で船を漕いでいたのである。人間、極度の緊張を感じると眠くなるんだな、と後の俺は振り返っていた。
やばい!といそいで起きた俺に、会長は読むのを止めてこちらに顔を向けていた。どんな顔をしていたのかは未だに分からないが。
ただ、雰囲気は絶対零度という表現がしっくりくるような感じだった。一気に部屋の温度が-10℃ぐらいまで下がっていたのではないかという錯覚に俺は冷や汗が止まらなかった。
そんな時に用事を済ませたのか、運悪く生徒会室に戻って来た副会長の第一声が、
『ひっ!』
である。あのほん和香副会長にそんな声を出させるなど、その時の会長はそれはそれは恐ろしかったのだろう。
『りょ、りょりょ涼子ちゃ…会長。どうしたんです?目が怖いですよ?』
と同い年の副会長ですら敬語になってしまうレベルだ。後に聞いた話だが目が凄く怖くなっていたとの事。ぼやけててよく分かりませんでした。はい。
『ちょっと今から彼にお説教しなきゃいけないの。今日の業務は中止よ?』
『は、はい…』
『さぁ、山下君』
『覚悟しなさい』
そこからはよく覚えていない。気が付けば家に居たのである。冷や汗をかきながら…
当時の俺は学んだのだ。会長の前で粗相をおかけしてはいけないと。会長がする事は絶対であると。
そう学んだ筈なのに俺は――
「へぇ。理由を聞いても?」
今、生徒会室には去年と同じ雰囲気が流れる。いや、去年よりも凄みが増している気がする。
俺は目を泳がせながら他の二人を見てみる。二人とも冷や汗をかきながら固まっていた。この場は絶対零度といっても過言ではないのだから凍っているのだろう。
隣の颯太と目が合った。その目はどうにかしろと訴えている。
助け船の副会長の顔を見てみる。彼女の目は見れないが恐らくはどうにかして!と訴えているのだろう。
前に座る会長を見てみる。どんどん雰囲気が凍りついてきている。
「山下君。ちゃんと私の目を見て答えなさい?」
すいません会長。貴方の顔がぼやけているので目を合わせたくても合っているのか俺には分かりません。
そんな会長に俺が出来ることといえば、その場で正座をし、両手と額を地面に着け――
「すいませんでしたあぁ!」
土下座である。それはもう綺麗な土下座。
「何故謝るの?」
「去年の事を思い出しまして!咄嗟に出てきた言葉です!今年の会長の挨拶は俺も楽しみにしてたんです!是非、お聞かせください!」
「そう。分かったわ」
「え?」
今ので分かってくれたのか?あの会長が?
「咄嗟にって言うことは本心なのでしょう?そこのところ、挨拶の前にじっくり聞いてあげましょう」
「ひぇっ!」
そう言い会長は席を立つ。そして俺の目の前まで来た。
「隣に空き部屋があるからそこでオハナシをしましょう?山下君」
「は…はい」
そして会長は俺の服の襟を掴み、隣の空き部屋へと引き摺る。女子が男子を易々と引き摺るとかどんな体してるの?と現実逃避をしながら会長に身を任せる。
後ろを向きながら引き摺られている為、生徒会室を出る際に中に残っている二人が見える。
二人は揃って合掌していた。
颯太!放課後何か奢るから助けてくれよ!
副会長!貴方のほんわか雰囲気で会長の絶対零度を打ち消して下さいよ!
そんな心の声が聞こえる筈もなく、去年に引き続き俺は会長とオハナシをすることになったのだ。
後に颯太聞いた話だと、俺の目の前に来た会長は誰もが見惚れるような笑顔をしていたらしい。ただ、笑顔と雰囲気が釣り合っていなかったから不気味だったそうな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今日は仕事が休みのため第2話も書きました。
前回、次回もお楽しみに!ていったその日にあげるのも恥ずかしいですが暇だったもので書き上げました。
では次こそ、次回もお楽しみに!