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ただいま悪霊中   作者: 吉樹
第8章 『復讐の行く末』
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第5話 「反乱鎮圧」

 穏健派代表のザギンの指揮による、魔王城奪還作戦が決行される。

 魔王城と外界を繋ぐ大橋にて、両軍が真っ向から激突。


 魔族を殺し、魔族が殺され。


 同族同士で、なんと愚かな光景だろうか。

 これでは、領土争いに明け暮れる人族を嘲笑できないだろう。


(まあ、どうでもいいことですが)


 黒のベールにて顔と正体を隠している私は、こんな低俗な潰し合いに参戦する気などは毛頭なく。

 暗証コードを知らねば通ることができない隠し通路を通り、あっさりと城内へと侵入していた。

 ごく一部の者しか知らないために、どうやら何も細工はされていなかったようである。

 

 私が引きつれるは、少数精鋭。

 洗脳によって強化された傀儡兵の部隊と、双子の剣士である。


「適当に暴れ回り、相手陣営をかく乱しなさい。お前たちの生死は問いません」


 冷酷ともいえる私の指示に、しかし傀儡兵からは不満など出るはずもなく、返事もなかったが、指示に従い城内へと散っていき、敵兵と大立ち回りを展開させていく。


「さて、私たちはこの間に王の間へと行きましょう」

「「は、はい・・・っ」」


 初めての実戦で緊張しているのか、双子剣士の声は震えている。


「・・・やれやれ。使い物になるのでしょうね?」


 などとやり取りをしながら通路を進んでいくと、正面から敵兵たちが。


「子供がなぜ城内に!?」

「いやまて! すでに城内に敵兵が侵入してるんだ。もしかするとこいつらも・・・!」

「そっちの女は無手のようだし、なんだこいつらは・・・」


 まだ私は大鎌を出していないので、見たままで無手と思われたのだろう。


(くふふ・・・まあ、こいつら程度、武器がなくても始末できますが)


 とりあえず私は、双子剣士の実力を測ることにする。


「貴方たち、腰の剣は飾りですか?」

「わ、わかりました!」

「や・・・やります!」


 促された双子剣士は、緊張した面持ちでお互いに頷き合うと──表情が変わった。


 磁石の反発のように左右へと飛ぶや、壁を蹴ってさらに勢いを増して、突然のことに反応が遅れている敵兵たちへと猛威を振るう。


「ほう?」


 思わず私は目を見張る。


 双子剣士はあれだけ緊張していたにも関わらず、見た目こそ無害な少年だというのに、いまはまるで肉食獣のごとく、敵兵に情け容赦ない攻撃を叩き込んでいた。


「な、なんだこの子供は──」

「やはり敵──」

「油断するな──」


 敵兵たちは最後まで言葉を言うことができない。

 双子剣士の連携のとれた攻撃は苛烈でいて鮮烈。

 常にお互いの死角を補うように動いており、まるで隙が見当たらず。

 成す術がない敵兵たちは、ただただ血の海に沈んでいくのみ。

 

(さすがは、あの古だぬきの秘蔵っ子だけはありますねぇ)


 高見の見物を決め込む私へと、充血した両目の敵兵が飛び掛かってきた。


「せめてお前だけでも!」

「くふふ・・・愚かな」


 振り落とされる銀光を半歩だけ身を引いて躱した私は、その勢いのままで右手でその敵兵の顔面を掴むや、蒼炎でもって敵兵の頭部を燃やしつく。

 悲鳴なく、頭部を失った身体がその場に崩れ落ちる頃には、双子剣士が敵勢力を殲滅させていた。


「すいません! ひとり、そっちに・・・」

「あ・・・さすがです!」


 双子剣士は慌てて私の元へと駆け寄ってくる。


「くふふ・・・問題はないですが、まだまだですね」

「「え・・・?」」

「詰めが甘い」


 ゆっくり歩きながら戸惑う双子剣士の横を通り抜け、片手に大鎌を生み出すや、血の海と化している床に横たわっているひとつの死体へと、躊躇なく切っ先を突き刺していた。


「か、は・・・っ」


 死んでいたと思われた死体から、断末魔が。


「まだ生きてた・・・っ」

「死んだふり・・・っ」


 驚きで目を丸くする双子剣士。


「死んだと思ってたのに・・・」

「どうしてわかったんですか・・・」


 そんな双子剣士を前に、大鎌を消し去った私は、死体を蹴り飛ばす。


「経験値の差、ですかね。貴方たちは、若齢の割にいい動きをしていますが、戦場では騙し合いなど日常茶飯事だということを、学んだほうがいいですねぇ。正直者は、早死にしますよ」


 らしくない説教をしてしまうのは、相手が”美味しそう”な少年だからか。


(くふふ・・・私も大概ですねぇ)


 こちらの内心など知るよしもない双子剣士は、血に塗れる場では場違いな感じで、むしろ幼い外見通りの無邪気さでもって、その目をキラキラとさせる。


「すごい・・・やっぱりすごいや、エクード様は!」

「馬鹿、マニ! ササラ様って呼ばないと!」

「あ、そっか・・・ごめんなさい! ササラ様っ」


「くふふ・・・人前では、気を付けてくださいね」


 なんとも寛大になってしまう私だった。


 ※ ※ ※


 城内にて傀儡兵が陽動として動いていることで、双子剣士を連れる私の邪魔をする敵兵は少なく。

 魔王の間へと続く大広間にて敵兵を殲滅した後、私は血糊がついた大鎌を消し去った。


「これより別行動をとります。貴方たちはこのまま魔王の間へ向かい、反逆者を始末してください」

「「え・・・」」


 当惑する双子剣士たち。


「ササラ様、一緒に戦ってくれないんですか・・・?」

「ササラ様は、どこに行くんですか・・・?」


 まるで捨てられた子犬のような彼らに、私は魔王の笑みを。


「くふふ・・・何も正面から戦うだけが、戦いではないのですよ」


 そう言い残し、私は片隅にある石造へと移動。

 蛇を象った石造の口に手を入れ、暗証コードである魔力を流し込む。

 すると近くの壁が音もなく開き、隠されていた通路が出現。


「わー・・・壁が・・・」

「こんなところに通路があったんだ・・・」


「では、私は行きます。貴方たちは、反逆者の首を」


 一方的に言い捨てて、私は隠し通路の中へと。

 光を通さない暗闇だったが、私の魔力に反応して、天井に魔法の明かりが灯る。

 やがて見えてくるは、どこまでも先へと伸びている、埃ひとつない通路。


 無音が支配する通路を、私はひとり、進む。


 結局のところは、あの双子剣士も、ただの陽動なのだ。

 この通路は魔王の間へと直結しており、かつてこの通路を通り、前魔王ジングに奇襲を与えたのである。


 なぜ最初からあの双子と共に戦わないかというと・・・

 まだ本調子でないということもあるが、単純に、楽をして望んだ結果を得たいからである。


(さてさて。あの双子は健闘しているでしょうかね)


 取り出したオーブにて、戦況を確認してみると。

 すでに双子剣士と反逆者ガーランドが、魔王の間にて交戦状態となっていた。

 敵の近衛兵だろう死体がいくつも転がっているところを見ると、双子剣士はなかなかの手際のようである。


 双子ならではの絶妙な連携攻撃の前に、大剣を操る大男は苦戦を強いられている様子。

 忌々し気に歯をむき出し大剣を繰り出すものの、攻防一体の双子の連携により、次第に全身に傷を負っていく。

 しかしながら、双子剣士も無傷とはいかないようで、身体のいたるところにダメージを負っていた。


 戦況は、一見すると互角。


 こうなってくると、勝敗を決するのは経験値の差となってくるだろう。

 案の定、馬鹿正直な真っすぐな戦いしかしない双子剣士は、フェイントを織り交ぜ始めた大男の奇抜な攻撃を前に、次第に劣勢になっていく。


(くふふ・・・やはり、まだまだ幼いですねぇ)


 激戦の末、双子剣士はついに床に倒れ伏していた。

 息も絶え絶えに立ち上がろうとするが、疲労困憊でいて満身創痍の彼らは、もはや立ち上がる体力もない様子。


 一方では、反逆者の大男も消耗を隠せないらしく、肩で大きく呼吸をしていた。

 しかしその顔には、勝利を確信した笑みが。


(頃合いですか)


 隠し通路から大男が今いる場所までは距離があるために、隠し通路から飛び出した私は、まず魔法を発動させた。

 大男の足元に魔法陣が展開され、そこから吹き上がる蒼炎が大男の全身を包み込む。


「ぐあああああああああああ!? な、なんだ・・・っ!?」


 全身を焼かれながらも魔法陣から辛うじて逃れる大男だが、その時にはすでに私が肉迫しており。 

 果断の一撃が、反応が遅れた大男の身体を両断していた。


 あまりにもあっけない最期。


 こうして私と敵対した親子は、同じ場所にて、私の手によってその生涯を終えるのだった。




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