第5話 「反乱鎮圧」
穏健派代表のザギンの指揮による、魔王城奪還作戦が決行される。
魔王城と外界を繋ぐ大橋にて、両軍が真っ向から激突。
魔族を殺し、魔族が殺され。
同族同士で、なんと愚かな光景だろうか。
これでは、領土争いに明け暮れる人族を嘲笑できないだろう。
(まあ、どうでもいいことですが)
黒のベールにて顔と正体を隠している私は、こんな低俗な潰し合いに参戦する気などは毛頭なく。
暗証コードを知らねば通ることができない隠し通路を通り、あっさりと城内へと侵入していた。
ごく一部の者しか知らないために、どうやら何も細工はされていなかったようである。
私が引きつれるは、少数精鋭。
洗脳によって強化された傀儡兵の部隊と、双子の剣士である。
「適当に暴れ回り、相手陣営をかく乱しなさい。お前たちの生死は問いません」
冷酷ともいえる私の指示に、しかし傀儡兵からは不満など出るはずもなく、返事もなかったが、指示に従い城内へと散っていき、敵兵と大立ち回りを展開させていく。
「さて、私たちはこの間に王の間へと行きましょう」
「「は、はい・・・っ」」
初めての実戦で緊張しているのか、双子剣士の声は震えている。
「・・・やれやれ。使い物になるのでしょうね?」
などとやり取りをしながら通路を進んでいくと、正面から敵兵たちが。
「子供がなぜ城内に!?」
「いやまて! すでに城内に敵兵が侵入してるんだ。もしかするとこいつらも・・・!」
「そっちの女は無手のようだし、なんだこいつらは・・・」
まだ私は大鎌を出していないので、見たままで無手と思われたのだろう。
(くふふ・・・まあ、こいつら程度、武器がなくても始末できますが)
とりあえず私は、双子剣士の実力を測ることにする。
「貴方たち、腰の剣は飾りですか?」
「わ、わかりました!」
「や・・・やります!」
促された双子剣士は、緊張した面持ちでお互いに頷き合うと──表情が変わった。
磁石の反発のように左右へと飛ぶや、壁を蹴ってさらに勢いを増して、突然のことに反応が遅れている敵兵たちへと猛威を振るう。
「ほう?」
思わず私は目を見張る。
双子剣士はあれだけ緊張していたにも関わらず、見た目こそ無害な少年だというのに、いまはまるで肉食獣のごとく、敵兵に情け容赦ない攻撃を叩き込んでいた。
「な、なんだこの子供は──」
「やはり敵──」
「油断するな──」
敵兵たちは最後まで言葉を言うことができない。
双子剣士の連携のとれた攻撃は苛烈でいて鮮烈。
常にお互いの死角を補うように動いており、まるで隙が見当たらず。
成す術がない敵兵たちは、ただただ血の海に沈んでいくのみ。
(さすがは、あの古だぬきの秘蔵っ子だけはありますねぇ)
高見の見物を決め込む私へと、充血した両目の敵兵が飛び掛かってきた。
「せめてお前だけでも!」
「くふふ・・・愚かな」
振り落とされる銀光を半歩だけ身を引いて躱した私は、その勢いのままで右手でその敵兵の顔面を掴むや、蒼炎でもって敵兵の頭部を燃やしつく。
悲鳴なく、頭部を失った身体がその場に崩れ落ちる頃には、双子剣士が敵勢力を殲滅させていた。
「すいません! ひとり、そっちに・・・」
「あ・・・さすがです!」
双子剣士は慌てて私の元へと駆け寄ってくる。
「くふふ・・・問題はないですが、まだまだですね」
「「え・・・?」」
「詰めが甘い」
ゆっくり歩きながら戸惑う双子剣士の横を通り抜け、片手に大鎌を生み出すや、血の海と化している床に横たわっているひとつの死体へと、躊躇なく切っ先を突き刺していた。
「か、は・・・っ」
死んでいたと思われた死体から、断末魔が。
「まだ生きてた・・・っ」
「死んだふり・・・っ」
驚きで目を丸くする双子剣士。
「死んだと思ってたのに・・・」
「どうしてわかったんですか・・・」
そんな双子剣士を前に、大鎌を消し去った私は、死体を蹴り飛ばす。
「経験値の差、ですかね。貴方たちは、若齢の割にいい動きをしていますが、戦場では騙し合いなど日常茶飯事だということを、学んだほうがいいですねぇ。正直者は、早死にしますよ」
らしくない説教をしてしまうのは、相手が”美味しそう”な少年だからか。
(くふふ・・・私も大概ですねぇ)
こちらの内心など知るよしもない双子剣士は、血に塗れる場では場違いな感じで、むしろ幼い外見通りの無邪気さでもって、その目をキラキラとさせる。
「すごい・・・やっぱりすごいや、エクード様は!」
「馬鹿、マニ! ササラ様って呼ばないと!」
「あ、そっか・・・ごめんなさい! ササラ様っ」
「くふふ・・・人前では、気を付けてくださいね」
なんとも寛大になってしまう私だった。
※ ※ ※
城内にて傀儡兵が陽動として動いていることで、双子剣士を連れる私の邪魔をする敵兵は少なく。
魔王の間へと続く大広間にて敵兵を殲滅した後、私は血糊がついた大鎌を消し去った。
「これより別行動をとります。貴方たちはこのまま魔王の間へ向かい、反逆者を始末してください」
「「え・・・」」
当惑する双子剣士たち。
「ササラ様、一緒に戦ってくれないんですか・・・?」
「ササラ様は、どこに行くんですか・・・?」
まるで捨てられた子犬のような彼らに、私は魔王の笑みを。
「くふふ・・・何も正面から戦うだけが、戦いではないのですよ」
そう言い残し、私は片隅にある石造へと移動。
蛇を象った石造の口に手を入れ、暗証コードである魔力を流し込む。
すると近くの壁が音もなく開き、隠されていた通路が出現。
「わー・・・壁が・・・」
「こんなところに通路があったんだ・・・」
「では、私は行きます。貴方たちは、反逆者の首を」
一方的に言い捨てて、私は隠し通路の中へと。
光を通さない暗闇だったが、私の魔力に反応して、天井に魔法の明かりが灯る。
やがて見えてくるは、どこまでも先へと伸びている、埃ひとつない通路。
無音が支配する通路を、私はひとり、進む。
結局のところは、あの双子剣士も、ただの陽動なのだ。
この通路は魔王の間へと直結しており、かつてこの通路を通り、前魔王ジングに奇襲を与えたのである。
なぜ最初からあの双子と共に戦わないかというと・・・
まだ本調子でないということもあるが、単純に、楽をして望んだ結果を得たいからである。
(さてさて。あの双子は健闘しているでしょうかね)
取り出したオーブにて、戦況を確認してみると。
すでに双子剣士と反逆者ガーランドが、魔王の間にて交戦状態となっていた。
敵の近衛兵だろう死体がいくつも転がっているところを見ると、双子剣士はなかなかの手際のようである。
双子ならではの絶妙な連携攻撃の前に、大剣を操る大男は苦戦を強いられている様子。
忌々し気に歯をむき出し大剣を繰り出すものの、攻防一体の双子の連携により、次第に全身に傷を負っていく。
しかしながら、双子剣士も無傷とはいかないようで、身体のいたるところにダメージを負っていた。
戦況は、一見すると互角。
こうなってくると、勝敗を決するのは経験値の差となってくるだろう。
案の定、馬鹿正直な真っすぐな戦いしかしない双子剣士は、フェイントを織り交ぜ始めた大男の奇抜な攻撃を前に、次第に劣勢になっていく。
(くふふ・・・やはり、まだまだ幼いですねぇ)
激戦の末、双子剣士はついに床に倒れ伏していた。
息も絶え絶えに立ち上がろうとするが、疲労困憊でいて満身創痍の彼らは、もはや立ち上がる体力もない様子。
一方では、反逆者の大男も消耗を隠せないらしく、肩で大きく呼吸をしていた。
しかしその顔には、勝利を確信した笑みが。
(頃合いですか)
隠し通路から大男が今いる場所までは距離があるために、隠し通路から飛び出した私は、まず魔法を発動させた。
大男の足元に魔法陣が展開され、そこから吹き上がる蒼炎が大男の全身を包み込む。
「ぐあああああああああああ!? な、なんだ・・・っ!?」
全身を焼かれながらも魔法陣から辛うじて逃れる大男だが、その時にはすでに私が肉迫しており。
果断の一撃が、反応が遅れた大男の身体を両断していた。
あまりにもあっけない最期。
こうして私と敵対した親子は、同じ場所にて、私の手によってその生涯を終えるのだった。




