表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただいま悪霊中   作者: 吉樹
第8章 『復讐の行く末』
75/91

第1話 「接収」

 爆音が轟き、木とワラで出来ている原始的な民家が爆砕される。

 各所からは戦闘音や雄たけびが轟き。

 火の手がいたるところから。


 穏やかだった日常が崩壊へと向かいつつある場所は、獣人国領にある、猫族の集落。


 残存戦力である悪霊とリザードマンを引き連れた私が、いままさに襲撃中なのである。

 とはいえ、別に虐殺が目的でもないわけで。


「制圧部隊、決して相手を殺しては駄目ですわよ! 憑依部隊は、すぐに行動を!」 


 前線にて、ドリスが配下たちへと指示を飛ばしており。


「わかってますよぉ」

「半殺しで勘弁してるって!」


 取り巻きたちが率いる制圧部隊が獣人たちを負傷させていき、すかさず憑依部隊が憑りつき、生かしたままで獣人たちを捕虜の身に。

 そして期を見て、ドリスたちが攻撃魔法にて家々を破壊。

 造りが脆いのでそのままの運用は難しいので、壊して新たに強固なものを造るための手間省きである。


「ああ・・・っ、我が家が!」

「戦えない者は避難させろ!」

「なぜ悪霊に交じってリザードマンが・・・っ」


 私たちの突然の襲撃に対応し切れていないようで、動揺と困惑の色を見せる獣人たち。


「我等ガ生きル為! 悪ク思うナ!」


 トカゲ族長も雄々しく獣人たちと刃を交えており、彼に率いられるトカゲたちも雄たけびを上げて交戦しているも、ちゃんとこちらの命令通り、相手を殺してはいない。

 トカゲ族で戦う力がない女子供や老人は、近くの河川にて待機中。

 この集落を制圧後は、ちゃんと迎え入れる予定である。


 ──うっひゃー! 極悪非道だねーっ──


 一方的な蹂躙劇を前に、レナはどこか楽しそうに声が明るい。

 同化した私の影響なんだろうけれど・・・

 思わず母親であるササラを彷彿とさせるというものである。


 ──ってかさ、お姉さん。なんで生かしたままで捕らえてるのさ?──


 戦闘には参加しないで高見の見物を決め込んでいる私は、少し意地悪く。


『なによ、あんた。虐殺現場でも見たかったってわけ? 血に飢えてんの?』


 ──ぶうーっ、そういう意味じゃないってば! お姉さんのそういう所、わたし嫌いだなー──


『はいはい、悪かったわよ』


 頬を膨らませる姿が容易にわかる声に、私は肩をすくめる。


『今後の展開に備えてよ』


 ──今後の展開?──


『この地の大々的な開拓をしないといけないじゃない。だから、労働力がほしいのよ』


 ──奴隷の確保ってわけだね!──


『んー・・・もうちょい、表現が何とかならんかね』


 私は、冷酷無比なササラとは違うのだ。

 欲しいのは奴隷じゃなく、労働力。

 この集落を制圧後は、代表者とちゃんと交渉するつもりなのだ。


 まあ、脅す形になるだろうけれど、そこは了承してもらいたいものである。

 少なくともこちらに従うのならば、命までは取らないのだから。


 抵抗を示す獣人たちなれど、ドリスの調査通り戦闘力が極端に高い者はいないようで、次々とこちらの虜囚となっていく。


(あのクソ女なら・・・哄笑してそうね)


 さすがに私は、そこまで悪趣味じゃないけれど。


 と、そんな中、私の目の前に現れる人物がいた。


「なんなんだお前たちは! いきなり現れて!」


 赤茶髪が印象的な、猫獣人の少女。

 狼族とは違い、どちらかといえば人族に獣耳と尻尾が生えたような容姿。

 爪が鋭く伸ばされていることから、他の猫獣人と同じく、その爪が武器なのだろう。


 爪があるものの、愛らしいといえば愛らしく。

 しかし・・・その双眸には怒りが込められており。

 小首をかしげる私を、睨んでくるのだった。


 ※ ※ ※


「・・・なんで私に言ってくるわけ?」


 周囲では悪霊たちが暴れ回っているというのに、この猫少女が私に目をつけていたことに、不思議に思ってしまう。

 配下たちに指示を飛ばしているドリスの方が、親玉感が満載なはずなのにだ。


 猫少女は威嚇で尻尾をピンと張らせながら、私への視線は決してそらさずに、じりじりと距離を詰めてくる。


「お前だけが動いてない。不自然。だからお前が群れのリーダーだと判断した!」

「へぇ・・・」


 生活水準から察して知能は低いと思っていたけれど、なかなかどうして。


 ──わーお。この子、頭いいねー!──


「ラギア様!?」


 異変に気付いたドリスがこちらに来ようとするけれど、私は片手を上げて制する。


「私がやるから、あんたは集落の制圧を優先してちょうだい」

「わかりましたわ」


 私が勝利することを確信しているからか、素直に応じたドリスは指示通りの行動へ。


「ふしゅー! アムを無視するなー!」

「いやいや。してないから」


 怒り心頭の猫少女に、私は苦笑い。


「いいわよ、相手になってあげる。さあ、きなさい」

「ふしゅー・・・舐めるなァ!」


 吼えた猫少女が飛び掛かってくる。

 真正面からの爪の連打。

 それを受けきるは、抜刀した小剣。


 何度もぶつかり合う爪と白刃の攻防は、一見すると一進一退。


(へぇ・・・けっこういい線してるじゃないの)


 猫少女の攻撃はなかなかに早く、それなりの重たさもあった。

 けれども、私が脅威に感じるほどではなく。

 だから私は、”悪霊の手”を発動させないで、小剣と体捌きのみで相対。


「ふしゅー! なんで攻撃が当たらないー!」

「私が強いからに決まってるでしょ?」

「ふしゅー! アムのが強いんだー!」


 爪の連撃に加えて蹴りなども交えてくるけれど。

 これまで何度も修羅場を潜ってきている私にとっては、物足りないとしか言えず。

 のらりくらりと回避して、小剣で爪を受け流す。


「ふしゅー! なんで反撃してこないんだ!」

「遊んでるからに決まってるじゃないの」

「ふしゅー! 馬鹿にしてー!」


 コケにされたことに顔を真っ赤にして、私へと間断のない攻撃を繰り出して来る。

 しかしながら、私に傷ひとつつけられない。


「ほらほら。もう一歩踏み込んでこないと。攻撃があたんないわよ?」

「ふしゅー! うるさい!」


 ──うっわ、出たよ。お姉さんの悪い所。ママのこと、言えないじゃんー──


『失礼な。私はこの子を鍛えてあげてるだけよ?』


 戦闘力の差から、余裕という名の油断をしていた私は、反応が遅れてしまう。



「にゃああああああああああああああああああああああ!」



 全身の毛が逆立った猫少女の毛並みが、一瞬でピンク色へと変貌。

 動きが先ほどまでの比ではなく。

 一瞬だけ姿を見失ったかと思えば私の眼前に現れており、爪が繰り出されてきていた。


「な──ちいっ!」


 咄嗟に盾にした小剣は簡単に弾かれてしまい、そこへ目にもとまらぬ追撃の爪が。

 反射的に”悪霊の手”を伸ばし、猫少女の渾身の一撃を受け止める。

 威力は先ほどまでの比ではなく、重たさが何倍にもなっていた。


「にゃ・・・!? なんだそれは!?」

「調子に乗りすぎよ!」

「にゃ・・・っ」


 そのまま”悪霊の手”の両手で猫少女を掴んで宙へと。


「にゃー! はーなーせー! ふしゅー!」


 ジタバタ暴れるけれど、色が戻っている猫少女は拘束を解けない様子。

 私は嘆息ひとつ。


「ったく・・・」


 ──お姉さんー。言い忘れてたけどさ、獣人族って族長の血筋だと、一時だけすんごくパワーアップする能力あるみたいだよー──


 本からの知識なのか、レナが淡々とした口調で言ってくる。

 そういう特異な力があるからこそ、獣人族は族長の命令が絶対的なところがあるらしい。


『そういうことは早く言いなさいよ』


 ──余裕ぶっこいておいて・・・カッコわるー──


『・・・煩いわね』


 捉えたこの猫少女をどうするか。

 さっきのパワーアップは、族長の血筋だけらしいけれど。

 ということは・・・


(もしかして、この子って・・・)


 処遇を考えていると、再び私の前に、現れる人物がいた。


「娘を解放しては頂けませんか?」


 いま捕らえている猫少女の面影がありながらも、大人の色香を兼ね備えている猫獣人。

 その背後には、屈強な猫男獣人が周囲に警戒を飛ばしており。


 私は猫少女を捕らえたままで、胡乱げな目をその女獣人へと向ける。


「何者よ、あんた」


 娘という発言から、予測はついているけれど・・・


「この集落を束ねる族長です。貴女と交渉がしたい」


 猫族の族長は、真っ直ぐな瞳で私を見据えてくるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ