第4話「状況確認」
空を飛んで向かったことで、目的地にほどなくして到着。
中規模程度の町だろうか。
通りにはそれなりに人の波もあり、それなりに賑わいを見せている。
通りの真ん中に堂々と降り立ったものの、誰も私には気づかない。
どうやら、私の姿は見えないようである。
気づかずに私に触れて、そのまま抜けていった人なんかは、急にぶるっとしたように体を震わせていたものだ。
悪寒でも感じたのだろう。
「・・・・・・」
なんとも言えない不思議な感覚だった。
私はここにいるのに。
誰も私に気付かない。
その存在すら、知らないのだ。
誰からも認知されていないのに、私は存在していると言えるんだろうか・・・
・・・
・・
・
暗くなりかけた気持ちをぶっ飛ばすべく、私は大きく首を横に振る。
いまの私は、成りたてほやほやの悪霊なのだ。
力ある悪霊は実体化することもでき、その姿を周囲に認知させることもできる。
いまの私に足りないのは、悪霊としての経験値。
いずれは、私も周囲に認知される悪霊へと進化するだろう。
・・・まあそうなったら、討伐対象になっちゃうわけだけれど。
とりあえず。
いまやるべきことは、現在がいつなのか、調べることである。
私は早速、実体がない体を生かし、町中を物色することにした。
※ ※ ※
「まじかー・・・」
調べ回って得た結果に、私は大きく唸ってしまう。
一件の屋根の上に腰かけ、足をバタバタさせながら、私はしみじみと街並みを眺めた。
「まさか・・・魔王が討伐されてからもう10年も経ってるなんて・・・」
衝撃の事実だった。
私は10年もの間、ずっとふらふらと輪廻転生していたというわけだ。
そりゃ、記憶だって曖昧になってくるってもんである。
「しっかし・・・許せないのは、あのクソ女・・・」
魔王討伐後、勇者クレアミスと女魔術師ササラが、結婚したというのだ。
そして大衆に知れ渡っている勇者冒険譚では、魔王戦は激戦に次ぐ激戦で、勇者と女魔術師以外のメンバーは、みんな戦死したという。
女神官のステラだけじゃなく、男騎士さえもが、戦死したようなのだ。
その件の魔王戦でいったい何があったのかは、もはや知る由もない。
・・・ちなみに、私に関しての記述は、ひどいものだった。
魔王城に突入の際、女騎士が行方不明となり生死不明、とだけだった。
私の遺体は、どうやら発見されなかったようである。
・・・考えるのもおぞましいけれど。
あのまま放置されたのだとしたら、魔物のご飯になってしまったのかもしれない。
(せめておいしく食べてもらえれば)
・・・そんな笑えない冗談が言えるのは、私が達観してしまったからなのか。
なんにしても私は、歴史に名前すら残せなかったということだ。
すべては、あの時、勇者が私を解雇したせいに他ならない・・・
現在の勇者たちは現役を引退しており、貴族の称号を与えられ、パルテント王国の首都、王都パテントにて優雅な生活を送っているらしい。
ちなみに、王都パテントは魔族との戦いの際、前線基地となっていた要塞都市である。
そしてなんと、ふたりの間には一人娘が生まれており、今年で8歳になるとか。
「あのクソ女・・・勇者とやることやって子供まで生んで・・・人生勝ち組じゃんか!」
許せないし、許す気もない。
幸せに満ちているであろうその生活を、必ずぶち壊す。
「パテントにいるのか、あいつらは・・・」
私の中でくすぶる復讐の炎が、メラメラと燃え出す。
いますぐにでも、あいつらに復讐したい。
でも、いまの私では何もできないというのが現状。
悪霊に成りたての私では、スカートをめくる程度の嫌がらせしかできないだろう。
まずは悪霊として、力をつけないといけない。
こうして私は、この町で悪霊としての経験値を稼ぐことに決める。
・・・町の住民にはいい迷惑だろうけれど、私の知ったことじゃない。
決意を胸にした私は、ゆっくりと立ち上がる。
「クレアミス・・・ササラ・・・待っていろよ・・・」
大きく息を吸い込み──
「私は戻ってきたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
町中を覆う超音波。
いたるところの窓ガラスが割れ。
小動物たちが意識を失い。
住民たちの鼓膜を震わせていた。