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ただいま悪霊中   作者: 吉樹
第1章 『転生の行きつく先』
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第3話「転生」

 私の最初の転生先は、虫けらだった。

 記憶は、ちゃんと維持されている。

 あっさり人に踏みつぶされて、さっさと終了。


 次の転生先は、小鳥だった。

 記憶は、まだ維持できている。

 他の大型鳥に捕食されてしまい、終了。


 次の転生先は、名もなき魔族の娘。

 記憶は・・・まだ覚えている。

 人族との小競り合いに巻き込まれ、生後間もなくして死亡。


 次の転生先は・・・

 とまあ、そんな感じで私は、何度も転生と死亡を繰り返す。


 転生してはすぐに死に。

 死んではすぐに転生し。


 まるで嫌がらせと言わんばかりに、転生先はロクでもないものばかり。

 まともに活動ができない始末。

 そんな生死が繰り返されていくうちに、私の記憶が徐々に薄れ始めていく。

 焦慮を覚えるものの、私にはどうすることもできなかった・・・


 ※ ※ ※


 もう"私"という存在がなくなりかけていた頃、転機が訪れる。

 最後のチャンスといってもいいだろう。

 移ろいゆく時間の中で、一時的にでも"私"が覚醒したのだ。

 


 ──このまま終わってたまるもんかあああああああああああっ!!──



 絶叫する。

 心の底から。

 魂が激しく震える。


 薄れていた記憶の断片が繋がっていく。


 やがて鮮明に見えてくるは、憎い連中の顔。

 憎くて憎くて、仕方ない顔見知りたち。


 肉体があったなら、歯ぎしりして口の端から血を流していただろう。

 肉体があったなら、握りしめた拳から血が流れ落ちていただろう。

 肉体があったなら、とても人に見せられない形相で両目を見開いていただろう。


 憎い。

 憎い。

 憎い。


 この憎しみを晴らしたい。


 あいつらに・・・必ず復讐するんだ。


 私の決意は執念となり、やがて妄執となって、怨念となり、輪廻転生の流れに波紋を投じる・・・


 ※ ※ ※


「・・・ん」


 私は、ゆっくりと目を開けた。

 木漏れ日からの日差しが眩しい。

 どうやらここは森の中らしく、ちょうど近くには湖もあるようだった。


「私は・・・ラギア。ラギア・マーティス・・・」


 確認するように、自分の名前を呟く。

 それに伴い、鮮明に甦ってくる"生前"の記憶。

 そして思い出すは、復讐の対象者たちの顔。

 私を裏切り、恥をかかせ、殺してくれた、憎むべき者たち。


 私はラギア・マーティス。


 記憶に不備はなく。

 むしろ彼らへの憎悪が、生前よりも増している気さえするほどに。

 記憶が完全に戻ったけれど、今度の転生先次第では、それも無意味となってしまう。

 私はさっそく、近くにある湖へと移動して、いまの自分を確認してみることにした。


「・・・まじで?」


 湖に移る自分を見た開口一番が、それだった。

 いまの私は、生前の人族としての、本来の私の姿をしていた。


 しかし・・・


 その姿は、半透明体だったのだ。

 この状態のことを、私は知識として一応は知っている。


 一般的には、魔物の一種とされている悪霊──レイスだ。


「ついには、悪霊になっちゃったってわけ・・・? 冗談きっついなぁ、もう」


 怨念が実体化した姿・・・それがいまの私ってことなんだろうか。


 すでに死んでいるために、この霊体となったいま、そう簡単に死ぬことはないけれど。


 そして私は、確信していた。

 あの輪廻転生の波の中で消えゆく自分。

 恐らくは、今回のこれが"私"として最後のチャンスであろうことを。


 この転生先は嫌だからと、さっさと死んで転生しよう。

 そんな甘い考えは、もう通用しないのである。


「これでやるしかないってことかぁ・・・」


 嘆息して、空を見上げる。

 雲一つなく、どこまでも澄み切っている青空。

 無性に腹立たしくなってくる。


 なんでそんなに青いんだよ。

 青すぎるんだよ、ちくしょうめ。


 理不尽すぎる八つ当たりだけど、いまの私を諫める者なんかいるはずもなく。



「ばかやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」



 意味もなく大絶叫をすると──


 空気が震え。

 木々がざわめき。

 鳥たちが一斉に飛び立っていき。

 静った水面が大きく波打つ。


「・・・悪霊って、こんなに影響力及ぼせたっけ?」


 私の絶叫が原因とされる現象を前にして、私は戸惑ってしまう。


 魔物の詳細を知らない私と違って、ササラなら詳しく知っていそうなものだ。

 というか、思い出したくもない顔を思い出してしまい、私は渋面をつくる。


 裏切られ、恥をかかされただけだったなら、まだ許せた。

 ・・・うん、許せたよ?

 私は海のように懐が深く、女神のように慈悲深いのだから。


 ・・・

 ・・

 ・

 自分で言ってて空しくなってくる虚勢は辞めておこう・・・


 だけどまあ、生きていれば何か別のチャンスがあったはずなのだ。

 でも生憎と、あのくそ魔女は私からそのチャンスを奪ったのである。

 ある意味じゃ、一番許せない奴かもしれない。


「あの時、問答無用で背中から切り殺しておくべきだったわね」


 すべては、あの異質な状況による好奇心に負けた結果。

 私もまだまだ青い・・・と自嘲。


「まあいいわ。何はともあれ、まずは情報収集よね」


 私が輪廻転生を繰り返して、どれだけの月日が経ってしまったのか。

 まずは、それを確認しないといけない。

 最近、意識が消えかかっていたせいで、いまがいつなのか、もうわからないのだ。


「・・・町に、行くか」


 歩き出そうとして、踏みとどまる。

 悪霊は、空を飛べたはず。

 だったら、いまの私だって飛べるはずなのだ。


 試しにやってみると、案外スムーズに空を飛ぶことができた。

 さすがは、実体を持たない霊。

 空を飛ぶ感覚に慣れるために、しばらく縦横無尽に飛び回ってから。

 私は、遠くに小さく見えている町に向かって、飛翔していった。


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