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ただいま悪霊中   作者: 吉樹
第4章 『総攻撃』
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第2話 「退魔官の最期」

(あほかあああああああああああああああああああああああああああああっ!!)


 内心での大絶叫後。


「いやいやいや。騙されてるって、それ・・・」

「まさか! あんなにも仲間想いの素晴らしい人が、私を騙すなんてありえない!」


 きっぱり断言したミスアの鼻からは、一筋の鼻血が。

 気づいた彼は、慌ててハンカチを取り出し、急いで拭う。


「あんなに素晴らしいことをしてくれた──いや、素晴らしい人を疑うなんてありえない!」


 おい!

 私は聞いたぞ、おい!

 こいつ、いまポロっと何言いかけた?

 あのクソ女、こいつに何をして懐柔したのよ!!


「ラギア・マーティス! 姉を殺したばかりか、私まで騙すとはなんと罪深い!」


 厳かに言い放ってくるも、鼻血を拭ったばかりなので、いまいち様にならない。


「姉の仇のため、そして夫人のためにも、ここで貴女を討たせてもらう!」


 どうやら彼がたったひとりで乗り込んできたのは、ササラの差し金らしい。

 仲間の姿がないところを見ると、これは彼の独断行動なのだろう。


(あのクソ女・・・)


 たったひとりで敵地に送り込むなんて。

 ササラにとっては、使い捨てのコマということなんだろう。


 ──駄目だね、この人。お話になんないよ、これ──


 冷淡な感情でレナが言ってくるも、それには私も同意見だったりする。


 わざわざ説得して、誤解を解く理由もない。

 敵対するならすればいい。

 あの女の手先になるというのなら、排除するだけなのだから。

 恐らくあのクソ女がこいつを手ゴマにしたのは、ただの私への嫌がらせだろう。

 悪霊の天敵は聖職者。

 もしこいつが聖職者じゃなかったら、あっさりと始末されているだろう。


(まあ、どうでもいいか)


 このストーカーとの因縁にも、そろそろ決着をつける頃合いということである。


「あんたたち、そいつを始末してちょうだい」


 私は側近たちに指示を下す。


「ラギア様のご命令とあらば喜んで」

「はーい」

「おっし! 命令きたー! 嬲り殺し決定!」


 意気揚々とする悪霊三人娘に対して、ミスアは驚きの表情をしてきた。


「な・・・っ。ここは、私と貴女で一騎打ちをする場面じゃ・・・っ」

「なんで?」

「いやいやいや・・・そういう流れではないですか!」

「馬鹿なの? 圧倒的有利な状況なのに、なんでわざわざ大将の私が、一騎打ちしないといけないのよ。面倒くさい」

「・・・そうですか。いいでしょう。貴女の配下を排除すればいいだけのこと」


 十字架剣を構え直し、戦闘態勢に入るミスア。

 相対するは、悪霊三人娘。


「うふふ・・・好みの男子ですわねぇ」

「ラギア様のためにがんばりますよぉ」

「退魔官とは初めての戦い・・・腕がなるねぇ!」


 一瞬だけ沈黙がその場に落ち──



 壮絶な戦闘が開始される!



 ──ことはなく。


「ぐぼ・・・っ!?」


 バンッという音と、カエルが潰れるようなミスアの声。


 悪霊三人娘に全神経を向けていたために、隙だらけだったのだ。

 だから彼は、私が密かに伸ばし地表に潜らせた"悪霊の手"を、回避できなかったようで直撃。


 地表から飛び出した"悪霊の手"に押し潰されたミスアは、その場に崩れ落ちる。

 死んではいないものの、意識を失ったようでぐったりしていた。


 ──うっわ! ヒキョーっ──


「私が手を出さないとは言ってないもの」


 臆面もなく堂々と言い張る私。


 やる気満々だった悪霊三人娘は、しばし呆然としていたけれど、やがて肩の力を抜く。


「なーんか肩透かしですねぇ」

「まあ、ラギアさまのほうが役者が上だったってことかい」


 所在なさげにする取り巻きたちと違い、ドリスは真っすぐな足取りでミスアへと。


「うふふ・・・その体、ワタクシが頂きますわよ」


 言うや否や、彼女は気絶しているミスアの体の中へと消えていく。

 しばらくして、ゆらりと立ち上がったミスアが、ゆっくりと目を開いた。


「憑依完了・・・この体は、もう私のものですわ」

「ドリス。なんでまた、そいつを」


 あっけにとられながら私が聞くと、ミスア──その体を乗っ取ったドリスが、確信口調で告げてくる。


「ひと目でピンときましたの。この男子には"素質"があると」

「素質・・・?」

「うふふ・・・あはは。早く着替えたいですわね」


 喜色満面に笑む彼女に、取り巻きたちはやれやれといった感じだ。


「またドリスの悪いクセが出ましたねぇ」

「なあドリス、独り占めはよくないぜー?」

「早いモノ勝ちですわ」


 くるりと回り、全身を確認するドリスに、私はまた問いかける。


「その体の持ち主の精神は?」


 心配なのではなく、単純に気になっただけである。

 ミスアの顔で微笑するドリスが、慈しむようにお腹に手を当てる。


「母親の体内で眠る胎児のように、ぐっすりと私の中で眠っていますわ」


 しかしすぐに、煽情的な微笑へと。


「うふふ・・・もう目覚めさせる気はありませんけどねぇ」


 抵抗力が高いであろう退魔官に完全憑依できるほどに、ドリスの能力は劇的に向上していたということなのだろう。


(まさかここまで化けるなんてね)


 嬉しい誤算。

 あるいは純粋な誤算。

 現時点では、どちらなのか判断が難しい。


 なんにしても。


 ミスア・ミノンという一等退魔官は、こうして表舞台から退場することになる。

 その肉体は、ドリスが有効活用することになるけれど。



 最初から最後まで、大して活躍することができなかった肩書きだけの一等退魔官。



 同情はしないものの・・・合掌。



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