第1話「事の始まり」
「僕たち、この戦いが終わったら結婚するんだ」
いざ魔王戦を前に、勇者と女神官がパーティのみんなを前に宣言した。
(えええええええええええええええええええええええええええええっ!?)
突然の宣言にパーティの面々も驚いており、そのひとりである私は心の中で大絶叫。
(ちょ! なに勝手に死亡フラグ立ててるのよ、こいつら!!)
というか・・・
(こいつら、いつの間にデキてたのよおおおおおおおおおおおお!!)
抜け駆けは厳禁。
勇者に告白するのは魔王を倒してから。
というのが、勇者パーティに在籍する女三人の不文律として約束していたのに。
(この裏切り者・・・っ)
私は、引きつった顔で裏切り者──女神官を睨み付ける。
私同様に裏切られた女魔術師も、わなわなと震えている。
当の女神官はというと、幸せそうに勇者と微笑んでいたりする。
その女神官に気が合ったであろう男騎士が肩を落としていたりするが・・・ご愁傷様。
(そりゃあ・・・この女に比べたら私なんてって感じだけど・・・)
私の立ち位置は、勇者一行のお供その三である女騎士、程度だけど・・・
(魔王討伐の直前に、一気にテンション下げさせるなよぉ・・・っ)
私はなんか、もうすべてがどうでもよくなってしまった。
魔王?
どうでもいいや。
人族を滅ぼすってんなら、どうぞご勝手に。
勇者?
未練はあるけど、どうでもいいよもう。
女狐とくっつくってんなら、どうぞご勝手に。
魔王討伐直前に勇者たちから投下された爆弾。
それを受けたパーティの面々たちは、動揺を隠せない。
しかし私たちには、いつまでも動揺を許してはくれない。
なんたってここは、魔族の総本山である魔王城なのだから。
この場は魔王の間へと繋がる大広間。
私たちが通ってきた通路から、私たちを追って魔物の群れが押し寄せてくる。
かなりの数だ。
あれと魔王に挟撃されると、全滅は免れそうにない・・・
もうなにもかもがどうでもいい私は、その魔物の群れへと一歩進む。
「ここは私がひとりで足止めするから、みんなは魔王のところへ!」
こういうカッコいいセリフを、一度は言ってみたかった。
失恋のショックから立ち直れない私は、もう自暴自棄。
ここで華々しく散って、このつまらない人生に幕を下ろそう。
今後綴られるであろう勇者冒険譚では、女騎士が身を挺して勇敢に散った。
(私は勇敢な女騎士として、歴史に名を残すんだ!)
勇者一行のお供その三、ではなく。
ちゃんと私の名前、ラギア・マーティスの名が、歴史に刻まれるのだ!
・・・そう、思っていたのに。
「──いや、その必要はないよ」
勇者が何気に言い放つや、剣を一閃。
雷まとう衝撃波が解き放たれ、押し寄せる魔物群をあっさりと殲滅していた・・・
(おいおいおい・・・この男、私の最期の見せ場すら許してくれないのかい・・・)
呆然とするそんな私へと、勇者が厳しい眼差しを向けてきた。
「なんで、あんなこと言ったんだ? 君は死にたいのかい? ラギア」
「・・・死ぬ覚悟はもうできてるのよ。それが早いか遅いかだけじゃない」
私の苦虫をつぶしたような口調の返答に、勇者は大きな溜め息を吐いた。
「僕は死ぬ覚悟なんてないよ。絶対に生きて帰るつもりだ・・・みんなもそうだと思ってた。でもそうか。君は、死ぬ覚悟なんだね・・・」
私を真っすぐに見てくる勇者は、次の瞬間、とんでもないことを言い放ってきた。
「ラギア。君はもう帰っていいよ」
「・・・え?」
「君の考えは足手まといになる。だから、いらない。もう帰っていいよ」
(えええええええええええええええええええええええええっ!?)
魔王との対決の直前に。
勇者冒険譚の最大のクライマックスを前に。
華々しく散ることすら許されなかった私は、勇者から解雇通告を受けたのだった・・・