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ただいま悪霊中   作者: 吉樹
第2章 『囚われの身』
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第8話 「真夜中の逃走劇」

 月明りが私を照らす。


 魔力で肉体強化を図った私はいま、家々の屋根を移動中。


 夜中とはいえ、さすがにこの魔族の外見で街路を堂々とは歩けない。

 そんなことをしたら、すぐに通報されてしまう。

 私はそこまでバカじゃないのだ。


 ちなみに、神殿から出たからだろうか、体がすごく軽かった。



(ひゃっほーっ! 私は自由だあああああああああああああああああああああああっ!)



 すがすがしい開放感に叫びたくなるも、内心で叫ぶだけでとりあえず我慢する。


 ──ねえ、お姉さん。どうしてお家に帰らないの?──


 進行方向が自宅とは真逆なことに気付いたのか、レナが疑問を投げてくる。


「馬鹿ね。帰ったらあなたのパパたちにまた捕まって、また地下牢送りよ」


 ──じゃあ、どうするの?──


「いったん、この王都を離れて、態勢を整えるのが最善でしょうね」


 ──パパと、離れることになるんだね・・・──


 レナの声が揺れる。


「ササラを始末するにしても、いまの私たちには準備が必要ってことよ」


 そう、準備が必要なのである。

 相手は元とはいえ、勇者と凄腕の魔術師。

 残念ながら、現戦力じゃ勝ち目が薄い・・・。

 手加減された上で、私はあっさり捕まることになるだろう。


 悔しいけれど・・・ここは戦略的撤退をするしかないのである。


 ──・・・わかった。ママはすごく手ごわいからね。準備しないと勝てないもんね──


 淡々と母親打倒を口にする彼女に、私はふと思うことがある。

 いったい、どういった母娘関係だったのか。


(まともな関係じゃなかったのは、想像に難くないけれど・・・)


 などと思っていると、目的地である建造物が見えてきた。


 ※ ※ ※

 

 王都の外周部をぐるりと囲む外壁沿いに立てられている、頭ひとつ分程度高い塔。

 その塔の屋上には、大きなオーブを両手で持ち上げている女神像が鎮座していた。


 この王都の結界を発生させている魔法装置である。


 王城がある中央区を守るように東西南北にひとつずつこの像が配置されており、これら装置が機能することで王都は、結界によって空からの外敵の侵入を拒んでいたのだ。


 事前に、ここの住人であるレナから聞いていた情報だ。

 地下牢にいる間、無為に時間を過ごしていたわけじゃないのである。


 手段はどうであれ、地下牢から抜け出した後、どうやってこの王都から離脱するか。

 この肉体から離れられない以上、物理的な方法を選択するしかない。

 しかしながら、出入り口である正門は警戒が厳重なので論外。


 となると、あとはどこでもいいので外壁から飛び降りるしかないけれど・・・

 結界が発動しているので、それができない。


 ならばどうするか。

 結界そのものの破壊は困難。

 ならば、その結界の発生元を破壊すればいい、という話なのだ。

 そういった理由で、私は北に位置する結界発生装置へと、標的を定めていた。


 ・・・なんで北区かというと、南区にはあいつらの自宅があるからだ。


(いまは少しでも距離をとりたいんだよね)

 

 ダンっと足元の屋根を蹴り上げて跳躍・住宅と外壁の中間にある街路樹へ。

 魔力で肉体強化しているからこそできる芸当である。

 そのまま間断なく街路樹を踏み台に、再び跳躍・着地地点は外壁上。


「な・・・魔族の娘がどうして──がは・・・っ」


 ちょうど巡回中だった警備兵と遭遇してしまうも、私はすかさず飛び掛かっており、この身軽な体を生かした俊敏な動きで回り込みざまに、警備兵の首をねじり折る。


 ──即殺とか。情け容赦ないねー、お姉さんは──


「ごちゃごちゃ煩い」


 いまは手加減してやる余裕も時間もないのである。

 私と遭遇したことが運が悪かったと諦めてもらうしかない。

 私はすぐに走り出し、女神像へと向かう。


「──ちっ」


 私は舌打ちする。

 さすがは王都の守りを司る要所。

 数人の警備兵が常駐しているようで、女神像の周囲にて警備にあたっている様子。


 猛烈な勢いで接近してくる私に気付き、警備兵たちが色めき立つ。


「魔族だぞ!?」

「近づけさせるな!」

「相手は小娘ひとりだ!」


 どうやら、まだ私が脱獄した情報はここまで届いてはいないらしい。

 それでも全員が迷うことなく抜刀し、即座に戦闘態勢に移行。


 私は兵士たちへと突進しつつ、両手に魔力弾を生み、躊躇なく放つ。


「な──っ」

「がは・・・っ」


 魔族とはいえ、幼い少女が魔法を行使できるとは思っていなかったのだろう。


「まずふたり!」


 直撃を受けて絶命したふたりが、その場に崩れ落ちる。


「魔法だと・・・っ」

「馬鹿な、あの歳で!?」

「気を付けろ!」


 驚きつつも、さすがはプロ。

 私が次に放った魔力弾は、警戒心を強めていた兵士たちには通用しない。


 距離を詰めてきた兵士たちが、容赦なく剣を振るってくる。


 完全に、私を殺す勢いの剣筋である。

 目の前で仲間が殺されたのだから、まあ当然の反応ともいえる。


 こと剣戟に関しては、元騎士である私は決して引けは取らないつもり。

 伊達に、かつては魔王討伐の勇者パーティの一員じゃないのである。

 くぐってきた修羅場の数が違うのだ。


 とはいえ、この少女の肉体では真正面から打ち合う体力もないし、いまは武器もないので回避に専念。

 煌めく剣光すれすれで身をひねって回避するとともに、その兵士の脇をすり抜ける。

 間髪入れずにひざ裏に蹴りを入れ、転倒したところへトドメの魔力弾。


「三人目!」


「このガキがぁっ!」


 声に反応して身を伏せた私の頭上を、横薙ぎの剣が行き過ぎる。

 飛び跳ねるように立ち上がりざまに、目の前の兵士の顔面に頭突き。

 その衝撃でバランスを崩したところへ、両手から魔力弾。

 胸元で魔力弾が炸裂した衝撃で、その兵士は外壁から転落していった。


「四人目!」


「く・・・くっそおおおおおおおっ!」


 あっさり仲間4人を倒されて最後のひとりとなった兵士が、破れかぶれで飛び掛かってくる。

 闇雲に振り回される剣は、私に傷ひとつ負わせられない。


 ──その結果。


 私の機敏な体術で翻弄され、隙をつくったところで魔力弾が決まり、勝敗は決する。


「五人目っと・・・ふう」


 その場の敵勢力を殲滅した私は、大きく息を吐いた。


 この肉体では、初めての実戦。

 少し気を抜くと、体の節々から悲鳴が聞こえてくる。

 戦闘の動きに慣れていない少女の体を、少し酷使してしまったようである。


(情けない体ねぇ・・・これだから箱入りお嬢様は)


 ──ちょっとお! お姉さんっ、無理させないでよね、わたしの体!──


「怒るなら、軟弱な自分の体を怒りなさいな」


 それに今は”私”の体なのよ、と心の中で付け足した時、この場に新たな人物が到着した。


「・・・まさか、たったひとりで5人を簡単に倒すとは・・・」


 肩で大きく息をする一等退魔官──ミスアは、素直に驚きを示していた。




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