97 浩二さんの親友との会話は続く・・・
鳥肉の粉付けが終わったから、私はそれを持って浅井さんに近づいた。浅井さんは海老に衣をつけて揚げていた。
「海老はフリッターですか?」
「さすが麻美ちゃん、わかってくれるんだ。あいつ等なんてこれを衣の厚い天ぷらとか言うんだよ」
「そこの違いは解って欲しいですよね。他に何かしますか」
「えーと、じゃあ、これをどうしようかなと思っているんだけど」
そう言って冷蔵庫から取り出したのは、ハンバーグの種みたい。
「これは?」
「ハンバーグにしようと思うんだけどね。ただなー、冷めるとねー」
「そうですね。ミニにして煮込んでおいても同じですよね。・・・いっそパン粉付けしてメンチカツにしちゃいますか?」
「おっ! それいいね。じゃあ、パン粉つけをお願いしてもいい?」
「はい」
なので、まずはちいさめに丸めてバットに並べていった。それから大体同じくらいの大きさにしたら、次は平たく潰していく。その間に浅井さんが粉と卵液とパン粉を用意してくれたから、それをつけてバットに並べていく。
「それにしても凄いですね。普通、こんなにバットやボールってないですよ」
「あー、うちは母親がいろいろ作るのが好きなんだよ。梅干しを作ったりラッキョウを漬けたりさ」
「そうなんですね」
フムフムと頷いていたら、浅井さんがさっきの話題に会話を戻した。
「麻美ちゃんは・・・これから俺とも付き合いができるわけだけど嫌じゃないの?」
「嫌じゃないですよ」
「本当に」
「本当です。だって、私の友達にも浅井さんくらいめんどくさい人間がいますから。・・・イヤ、あいつの方がたちが悪い気がするわ」
「・・・」
浅井さんが小声で何か言ったようだけど、和彦のことを思い出していた私にはよく聞こえなかった。
「何か言いました?」
「いいや、なんでもないよ・・・麻美ちゃんにも俺みたいな感じの友達がいるんだね」
「そうなんです。本当にめんどくさいやつで、無駄に顔はいいらしいから女性が寄ってくるんですよね。あいつが大学の時には女除けに使われたりしましたもの。それくらい自分でどうにかできる癖に、面倒だって理由で私を使ってたんですよ! それなら特定の彼女を作ればいいものを、一途な純情BOYじゃあるまいに、手が届かない好きな人に操を立てているから、彼女は作らないなんて言うんですよ。操を立てているっていうのなら、ワンナイトラブなんかするなって、言いたいです」
昨夜のことを思い出して恨みを込めて口にした。
「その人って男なの」
浅井さんがなぜか恐る恐る訊いてきた。私の言葉に引いてしまったのだろう。
「もちろんです。あんのバカは、昨日浩二さんを挑発するだけ挑発して、自分はさっさと女の人を引っかけに帰っていったのよ。おかげでうちに泊まることになった浩二さんに、悪いことしちゃったじゃない」
「・・・あのさ、話が見えないからそこのところを詳しく教えてくれないかな」
「あー、そうですよね。えーと、そうですね。まずはバカとの関係を言った方がいいですよね。バカっていうのは渡辺和彦といいまして、幼馴染みで親戚なんですよ。それで・・・」
私は時計をチラリと見てから簡単に和彦との関係と、昨日大振りのカツオを貰ってうちの家族だけじゃ食べきれないから、浩二さんにも帰りに寄ってもらって食事をした事。そこで和彦が浩二さんを挑発してお酒を飲ませて、車で来ていた浩二さんが泊まらざるえなくなったことを話した。
浅井さんは私の話を顔をしかめて聞いていた。だけど、浩二さんが挑発に乗せられたところでは、少し呆れた顔をしたり、私の部屋に布団を敷かれたところでは、小さく吹き出していたのよね。
「えーと、確認なんだけどさ、麻美ちゃんと下平ってまだセックスしてないんだよね」
はっきりと訊かれて、私の顔に熱が集まってきた。
「浅井さん、はっきり言いますね」
「ぼかしても同じことだから。それって麻美ちゃんが嫌がっているの」
「・・・嫌がっていたわけじゃないけど・・・。最初は体調不良を気づかってくれていたのよ」
「じゃあ、昨夜はどうしてしなかったの」
(答えにくいことをはっきり聞くよな~)
そう思ったけど、今までこういう話を相談できる人がいなかったから話してしまおうと思ったの。まあ、もうここまで話したら同じ気もしてきたし・・・。
「えーと、その、誤解がありまして・・・」
「誤解? どんな?」
「あ~、私が怖がっていると思われていて・・・」
「怖がる? えっ? 前の男に酷いことをされてたの?」
「だから、違います! 浩二さんもそう勘違いしていたんですけど・・・どうしてそういう結論になるんですか」
「だってな~、怖がるってことは、普通に考えて暴力的にされたと思うだろ」
「もう! 違うのに。気持ち良くなかったから、抱かれることに躊躇いを覚えただけなのよ」
つい余計なことまで叫んでしまった。
「麻美ちゃん、気持ち良くないって何?」
「・・・」
「ねえ、教えてよ」
「・・・そんな恥ずかしいこと言えません!」
私は真っ赤な顔で叫んだ。
(こんな要らんことを言ったのは、浩二さん達が戻ってきてくれないのが悪いんだから~!)
と、私は八つ当たり気味に考えたのでした。




